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ルルイエ探偵事務所の事件簿 ~邪神の娘だけどヒーロー目指してます!~  作者: 蒼井茜


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いあ!温泉旅館!15

「第一回! 覗き魔撲滅作戦会議を始めます!」


 クリスの掛け声にルルイエとナコトは「おー」と右手を突き上げる。

 対照的に首を垂れるは男2人。

 ゆっくりと晩酌を楽しみながら籠城戦を決め込んでいたら、仲間であるはずの女三人衆に捕縛され、喉に手を突っ込まれて酒を吐かされて、そして無理やりこの場に連れてこられたのだ。

 平穏を享受し、存続をなによりも願っていた二人にとっては最悪の事態であると言える。


「あの……ちょいまち、説明くれないか」


 流石に見かねた、というよりは話についていけないとアデルが挙手してクリスに問いかける。


「まず覗き魔ってなんだ? 風呂にそんな奴がいたのか?」


「はい! 女の敵がいました! 私の権能とナコトさんの直感が確実にそれをとらえてます!」


 ただしくは視線と気配察知だけどねぇ、というナコト。

 しかしそこは論点ではないとアデルは華麗にスルーを決め込む。


「で、それを捕まえたいって……? なんで? いや、わからないでもないけど旅館側に言えば何とかなるんじゃ……」


「それじゃつまらな……もとい、しばらくあの露天風呂が使えなくなってしまうという結論に達しました!」


「……警部」


「諦めろアデル……こういう奴らなんだ……」


 ため息交じりに、新たに酒瓶を取り出して湯のみに注ぎ始めたアバーラインを咎める者はいない。

 というよりは率先してルルイエとナコトもそれにありつこうとしている。


「お前ら……さっき俺らを無理やり吐かせたくせに……」


「それはそれ、話を聞いてもらうためには致し方ない事だったんだよ」


「美女と美少女に口に手を突っ込んでもらえるとかご褒美っすよアバーライン警部」


 ナコトとルルイエが左右からウィンクを飛ばす。

 が、挟まれたアバーラインの表情はすこぶる悪い。


「俺は妻と娘以外の女は有象無象にしか見えねえんだつってんだろ……ど腐れ天使とキチ鬼はもう口開くな……」


 静かながらに、確かな怒りが込められている声。

 アデルは新任時代に何度か経験している、アバーラインが本気で怒っている時の声色である。

 が、そこは残念を極めた堕天使と怖いもの知らずの鬼娘。

 まぁまぁそう言わずに、などと言いながら湯飲みに次々と酒を注いでは飲ませていく。

 人間ならば致死量ではという程の酒を短期間に飲ませているが、さすがに鬼の血筋の吸血鬼はその程度ではほろ酔い程度でしかない。

 逆に言えば、アデルと飲んでいた時は心地よさを覚える程度に酔っぱらっていたという事で、結構な量を飲んでいたわけであり、強制嘔吐も話を聞かせるためにはやむなしだったと言えばその通りである。


「で……なんで攻撃なんて物騒な方向に話が進んだ」


「えーと、これニャルちゃんからの依頼だから覗き魔見逃したとか言ったら絶対に罰則とか言い出すからねぇ。多少強引にでも収拾つけておかないとって話になったの」


 間違ってはいない、確かに正しい帰結なのだが途中の面白いかどうかという理由で選んだという仮定を省いたそれに、説明を求めたアバーラインは眉をひそめる。


「まぁ……百歩譲ってそれはいいとしよう。だがそこに俺達がいる必要性はなんだ?」


「それは私から説明しましょう」


 そう切り出したのはクリスだった。

 浴衣姿で鎖骨を伝う一滴の水が眩しい、健康的な美人に一瞬アデルが見惚れる。

 そんなアデルの脇腹を小突くアバーラインは咳ばらいをしながら先を促す。


「まずこちらからでは相手が覗き魔であるという証拠が用意できません」


「つまり、俺達は風呂でそいつを見張っていればいいと?」


「そうですね、警察官二人が『頻発している覗き被害に対する潜入捜査』をしていたという体で動いてくれるならば私達は協力者として行動したことになります!」


「……いや、あのさ。言いにくいんだけど頻発する覗き被害なんてもんはないよ?」


「無ければ作るのです! そして作りました! 三日前に発行されたことになっている捜査令状とそのための出張任務記録!」


 ばばーん、とクリスが取り出したタブレットの画面に映し出されたのは警察関係者の、それも上層部しか見られないはずの色々とあれな記録達である。

 無論、クリスが父に根回しして警察の上層部を動かした結果である。

 ちなみにタブレットに映し出された画面は、その手の裏取引ではなくクリスのハッキング技術によるたまものである。


「うわぁ……うっわぁ……」


「アデル……俺が出発前に言ったことを覚えているな」


「……うっす、俺は甘い幻想を見ていました」


「ならば次に言いたいことはわかっているな……」


「……うっす」


 画面を見ながら頭を抱える男性陣こと警察官二人組は、完全防音の部屋であることに感謝しながら酒を一気に飲み干して叫ぶのであった。


「「ざっけろーに!」」


「うわびっくりした」


 二人の魂の慟哭にびくりと体を震わせて一歩後ずさるナコト。

 まるで他人の不幸を肴にするかのようにけらけらと笑いながら酒を呷るルルイエ。

 なぜか勝ち誇ったようにふんすとどや顔で腰に手を当てるクリス。

 この環境下において多数決という名の民主主義は暴力と圧力以外の何物でもなかった。


「ともあれ、そういうわけで明日からお二人には私達と同じ時間に温泉に入ってもらいます! 大丈夫、お二人はただ露天風呂でくつろいでいればいいんですから」


「そうそう、天上の染みを数えている間に終わるっすよアバーライン警部」


「ルーちゃん、露天風呂に天井はないよ」


「おっと、こりゃ一本取られましたわ。はっはっは」


 すでに半分出来上がっているルルイエはともかく、既に自分たちがこの場に不要なのではないかと言いたくなるほど綺麗に話をまとめられてしまった男2人は大きなため息を吐くのだった。

 そしてそれから数分後にクリスが眠気を訴えた事で、男2人はさっさと退散しろと部屋を追い出されることになったのである。

 南無……。

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