いあ!事故物件!14
「げ、しつこいなぁ……」
心底面倒くさそうにつぶやくルルイエ。
既に魔法陣は全てかき消されて無効化されている今、どうあがいてもラビィはクリスとルルイエには勝てない。
「ふふふ、的外れな事を言っているので面白すぎて目が覚めてしまいましたよ。僕があなた方を狙ったのはただの偶然。だれでもよかったんですが……まさかこんな化物を相手にしてしまったとはね」
弱者なりの矜持か、不敵な笑みを浮かべたままラビィがかぎ爪を構える。
狙うは絵を持つルルイエ、せめて絵だけは奪い取り再び同じような事件をどこかで起こす算段なのか。
さもなくばやぶれかぶれか、どちらにせよ迎撃すべきと構えを取ったクリスは……。
「へ?」
間の抜けた声を上げた
同時に、見覚えのあるトラックが屋敷を貫く。
先程玄関にいた屍食鬼やゾンビをひき肉に変えた物である。
頑丈に作られたトラックと言えども、ナコトの膂力で投げられては無事では済まない。
パーツの歪みからオイルや燃料の漏れなどの異常があったため、修理会社に電話をかけていた運転手だったが……丁度いい質量武器として再び選ばれてしまったのだろう。
自分たちの乗ってきた車や、ラビィの乗っていた車は既に屋敷の中である。
ならばという代替案だったのかもしれない。
なんにせよ今回の被害者は、間違いなく偶然事件に巻き込まれたトラックの運転手だろう。
「うひゃあ……派手にやりますね」
「やぁ二人とも。無事だったんだね」
「ナコトさん……あいつが中に入っていくの見逃したんですか?」
「それがねぇ、隠蔽の魔術と幻影魔術の合わせ技で気付くのが遅れちゃって」
「嘘乙」
ナコトが頭を掻きながら口にしたそれは、即座に斬り捨てられた。
はっきり言えばこの場で最強の存在であるナコトが、そんなちゃちな手品に騙されるようなことは無い。
どころか、クリスにもルルイエにも「もふもふならば云々」という言葉は遠巻きながらに聞こえていたのだから、そこを追求すれば言い逃れはできない。
結果的に『意図的に見逃した』というべきだろう。
が、クリスは藪を突くつもりがなく、ルルイエも面倒ごとはもういいやと達観の姿勢をとっている。
「まぁなんにせよ、無事済んでよか」
った、と言おうとしたナコトの言葉をそれはさえぎった。
轟く爆音。
腹の底を揺らすような振動。
屋敷の中央で燃え盛る炎。
トラックと、二台の車から漏れ出したであろう燃料が何かの拍子で引火したのだろう。
「そういえば散策してる間、電気が普通に着きましたね」
「だねぇ」
「トラック、ぼっこぼこでしたね」
「だねぇ」
「車、めきめき音を立ててひしゃげてましたね」
「だねぇ」
「これも必然だったのかもしれませんね」
「だねぇ……じゃない! クリス消火!」
「あいさー【バリツ18式;大巨人】!」
マンホールや消火管を突き破って表れた大量の水が巨大な人型を象る。
既にラビィの施した結界は消失しているため、権能による攻撃も問題なく行えるというわけで……その拳は屋敷めがけて一息に振り下ろされ、古ぼけていながらも豪奢だったそれを木くずへと変えた。
たしかに消火はできた、が被害は火事よりも悲惨な物である。
庭にはクレーターが出来上がり、建物はバラバラになり、ラビィは生死不明……。
そんな惨状で、ルルイエはそっと壁に絵を立てかけてから膝から崩れ落ちた。
「もっと……普通に消すだけで良かったのに……」
そう呟いて。




