いあ!事故物件!12
またしても、ここぞという所でどうでもいいコントを始めた二人だがその間に変身を終えたラビィはフシュウと白く濁った域を吐き出す。
それは先程ナコトがトラックですりつぶした屍食鬼に似た何かにも見えた。
「人間でさえ屍食鬼になれば並の獣人を倒せる力を得る! ならば獣人である僕がその力を手に入れれば!」
そう、叫んだ瞬間だった。
窓をぶち破って、一台の車……先程までラビィが運転していたそれが変質した彼を押しつぶした。
「さっすがナコトさん。ナイスコントロール」
けらけらと笑いながらルルイエは拍手をする。
「えっと……なにが……?」
一人、意味が分からないと言った様子のクリスは首をかしげながら壁の魔法陣を消していく。
どんなインクで描かれているにせよ、遠距離での権能が使えないにせよ、触れている範囲であれば水を自在に操れるのは変わらない。
ならばお得意の高速超次元お掃除の前には魔法陣だろうが醤油の染みだろうが大した差はない。
そして解釈拡大と強化の魔術が消えた事で部屋全体の魔法陣を落とす速度もどんどん上がっていった。
最後に残るのは地面に描かれたそれだけである。
「んー事前に打ち合わせしてたというか、いつも使ってる奴なんだけどね。私が侵入して合図を送る役割。ナコトさんは外から力業で攻撃する係。たまに逆のパターンもあるけど、今回は魔術的結界はあっても物理的結界がなかったから私が囮だったのよ。ガラスを割る程の魔術を撃てなくても、そこにいるってのは伝わるわけだしね」
先程窓に向けた魔術は脱出路を作るための物ではなく、ナコトへの合図だった。
その炎が放つ光めがけてナコトが車を投げつけるまでが、いつも通りの方法なのだろう。
余談ではあるが、過去数百と繰り返したこの方法でナコトがコントロールを間違えた事は数回である。
なお、コントロールミスはともかくとして事故はたびたび起こっている。
例えば、今この瞬間スコーンと軽い音を立ててルルイエの額を穿った木片などはまさしくその代表例とも言える。
「うおぉ! いってぇ!」
額を押さえてゴロゴロと地面を転がりまわるルルイエ。
ちなみにクリスも木片をその身で受ける寸前だったが、魔法陣を消すため離れていた事で一瞬早く気付いて飛びのくことで難を逃れた。
「ぐぅ……! おのれぇ!」
そんな二人とは違い、直に車を投げつけられダメージを受けたラビィが瓦礫などを押しのけて、ルルイエにとびかかろうとしていた。
一方その頃外では。
「もふもふなら悪党でも見逃すけど、もふもふじゃない悪党には容赦は必要無し!」
ふんすと鼻息を荒げてどや顔を披露するナコトと、おろおろとした様子で屋敷とナコトを交互に見る運転手の姿があった。
ナコトの手には一台の車、それを大きく振りかぶり、投擲する。
と、同時にぽつりと一言。
「あ、間違えちゃった」
再び飛来した、車に押しつぶされた。
壁にめり込む車とラビィ、その四肢はぴくぴくと痙攣している。
「えぇ……生きてるんですか? これ……」
「知らない、脈でも測ってみたら?」
「やです、ばっちいから触りたくないです。どうせならもふもふの頃に触りたかったです」
「うんまぁ……そうね……」
ルルイエが納得した所でクリスはふと思い出したようにラビィの、正確にはその上に乗っている車をしげしげと眺める。
「……これいいんですか?」
「なにが?」
「車、私達が乗ってきた奴ですよね」




