女神の思い通りにはならないから、ね!
「ウッ、ウッ、ウッ」、
私の目の前にいる、緩いウェーブの輝くようなブロンドの髪を持つ女性が泣いている。
宝石のような碧い瞳から、綺麗な涙が流れ落ちていく。
「どうして~、どうしてなのう~」
鈴を転がすようなというのはこういう声を言うのかと、私は冷めた気持ちで考えていた。
「私は~、あなたに申し訳ないと~、思ったから~。……だから~、少しでも~、楽しんで~、貰おうと~、思っただけなのに~」
雫のようにポロポロと落ちる涙。絶世の美女が泣いているというのに、私の心には響かない。
響かないったら、響かない。
大事なことなので、念押しをさせてもらった。
「ねえ~、どうしたら~、あなたは楽しんでくれるの~」
私は「ハア~」とため息を吐きだしてから、仕方なく口を開いた。
「だから、何度も言っているように、私はとても楽しんでいます。いい加減、希望には添えないと解ってくれませんか?」
「それが~、おかしいんじゃない~。普通~、異世界転生が出来て~、モテモテのあなたが主役よ~、という状況なのよ~。それこそ~、『私こそがヒロイン!』となっても~、おかしくないでしょう~。というか説明したように~、あなたがヒロインなのよ~。それなら~、ヒロインとして~、楽しんでくれればいいじゃない~。なのに~、ヒロイン放棄だなんて~、どんな不満があるのよ~!」
ジトッとした目で絶世の美女こと女神は、私のほうがおかしい人だというように見つめてくる。
……いや、違うか。実際におかしいと何度も詰られているものね。
でも、無理矢理私をヒロインにしておいて、これはないと思う。
……というか、話はちゃんと聞けよ、恋愛脳女神!
◇
あっ、どうもー。どこぞの恋愛至上主義の女神によって、転生させられたイアンナ・レリザンと申します。先程から、その駄女神によって、安眠の妨害をされている所です。
さて、先ほどの女神の言葉で、私が置かれている立場というか状況というものが、なんとなくお分かりかと思います。
が、やはり、何があったのか言わないとわかりませんよね。
前世の私、21世紀の日本という国で20代半ばのOLをしていました。それが、なんでも、この駄女神の不注意で、関係ないはずの私は巻き添えにされて死んでしまったというんです。
そう、駄女神のせいで!(大事なことは二度ないし三度言わせてもらう!)
で、すぐさま駄女神は私の魂を神界(とはちょっと違ったらしいけど)に連れ込んで、平謝りしたと共に、でも生き返らせるのは無理ということで、転生させてくれると宣いました。
そして、私が口を挟む間もなくつらつらと転生先のことを話し、私の了承も無しに異世界へと送り込んでくれやがったのです。
ええ、そうなんです。私は望んで転生したわけではないんだよ、バッカヤロー!
◇
コホン。失礼しました。つい、思い出し怒りで、言葉使いが悪くなってしまいました。なるべく冷静に話したいのですけど、もし、この先も言葉使いが悪くなりましたら、どうか私の気持ちを推し量って、ご容赦願いたいと思います。
◇
さて、それでは転生先のことを話しましょうか。女神曰く、こちらは某乙女ゲームの世界……だそうです。いや、それを元にした、酷似した世界だったかな?
つらつらとどうでもいいことを混ぜながらの説明だったので、よく覚えていないのよね。(つまり話がつまらなくて長かったから、よく聞いていなかったといふ……)
えーと、確かゲーム名は「ワク……なんちゃら」……いや「ドキ……かんたら」だったかな?
学園が舞台の王道の青春シミュレーションゲームだった……はず。
えっと、一応女神が言うには、私が知っているゲームだっていうのよ。
いや、前世の私はゲームには興味がなくて、唯一知っている乙女ゲーム関係は、ダメンズな弟が腐女子の彼女に頼まれてやっていたのを、少し手伝ったものだけなのよ。
ん? ダメンズな弟が乙女ゲームを何でやっていたのか、って?
腐女子の彼女が居るっていったっしょ。その彼女は某同人誌活動に力を入れている方でして……。そのゲームは攻略対象たちのビジュアルが、創作意欲をすんごく高めてくれるそうで……。
それに、普通にストーリー上のスチルで、男同士で肩を組んで笑いあっている(確かクラス対抗の何かで勝てた事を喜んでいたスチルだったはず)ものや、真剣に戦うシーン(これもトーナメント戦の何かだったはず)なんかがあって、その全スチルを見たいがために、彼氏(つまりダメンズな弟)にやらせていたという。
で、私は弟が攻略に困ると相談されて、手伝っていただけなのよ。
◇
それで、駄女神は気を利かせたつもりで、そのゲームの世界(もしくは酷似した世界)に、私を転生させたというわけ。
それも、頼んでもいないのに、ヒロインとして。
『どうせ転生させてくれるのなら、こっちの希望を聞いてそれを通せよ!』
と、思ったりしなかったわけではないけど、とにかく転生してしまった私は、自我が芽生えてから(それは3歳の時だった)可能な限り転生先のことを調べた。
と云っても、まあ、子供の好奇心程度に、この世界のことを聞きまくっただけだけど。
その結果、確信したのが、私が唯一知っている乙女ゲームの世界(もしくはそれに酷似した世界)だということ。
とりあえず安心した私は、自分の欲望を満たす行動をしていった。
それは学園に入学してゲームがスタートした、今現在も変わらない。
そのことが女神様……おっと、駄女神で十分だった。まあ、そのことが気に食わないと、眠るたびに夢の中で文句を言われる数か月を過ごしているのさ、ね。
◇
あっ、ごめんね。つい愚痴が先に出てしまったね。これじゃあ、話が通じないわよね。
それじゃあ、肝心のゲームのストーリーについて話そうか。それを知れば、私の行動の正当性は解って貰えると思うんだ。
この世界は学園が舞台の王道の青春シミュレーションゲーム(もしくは……以下略)だと言ったよね。
ストーリーとしては単純なのよ。学園に入学したヒロインは、生徒会に入って、他の役員と生徒会運営をしながら、友情や恋をしていく話だったから。
そう、ここで間違えないで欲しいのは『青春シミュレーションゲーム』だということ!
恋愛に重きを置いたゲーム、じゃなかったのよ。だから、弟の腐女子な彼女のレーダーにビビッと来たというわけさ。
……いかん。すぐに余計な説明を加えそうになってしまう。腐女子云々は置いておいて、それよりストーリーや設定を話さないと。
ええっと、それで、そのゲームは実は学園に入る前の段階が、一番肝心だったのよ。まず、学園の入学試験があるの。ストーリーの始まりはその前日から。
チュートリアル的なそれは、これからの動作の説明を兼ねてミニゲーム的なことをしたのよね。めんどくさがりの弟はそこをすっ飛ばして他の攻略対象の話を進めようとしたんだけど……これがバッドエンドへの罠だったのよ。
というのも、このミニゲームは、ヒロインがこの世界の知識をどれだけ持っているかを、測るため(というより知らせるためだよね)に設けられているものだったの。それを、前のキャラの時にやったからと飛ばすと、生徒会に入れずにバッドエンドとなるというわけ。
えっ? それが何でバッドエンドなのかって?
いや、基本条件を満たさないんだから、バッドエンドでしょう。
ほら、よーく思い出して。このゲームは『生徒会に入って、他の役員と生徒会運営をしながら、友情や恋をしていく話』なのよ。生徒会に入れなければ、ストーリーが進むわけはないでしょう。というよりも、生徒会に入れないと分かった時点で、バッドエンドという言葉が出て、ゲームオーバーでした。
それで、その生徒会に入る条件なんだけど、試験で5位以内に入らないといけないのね。
この学園は各学年ごとに生徒会があるの。いや、実際は学年会と言ったほうがいいかもしれないね。その学年ごとにトップの5人が采配を振ることが出来るの。
……ああ、学級委員とは違うのよ。在学3年間の間……って、学園の説明がまだだった。
この学園は王国運営で貴族が通う学園です。15歳から3年間通うの。そう、間違っても貴族の庶子が途中から編入することは出来ないし、入学試験があることで判るように貴族の子息子女が、すべて入れるわけでもないのよ。
一学年は最低が40名から100名までが在籍するのね。まあ、中には最初から騎士学校へ行く人や、侍女執事を育てる学校に行く人もいるから、大体一学年は50名くらいがほとんどになるんだわ。
つまりこの学園に入る人は高位貴族の子供(つまり国でも重鎮の子供ね)や、将来の優秀な文官候補たちというわけ。というか国の要職に就くためには、ここを卒業するのが早道なんだね。もちろん、国王の子供も通っているよ。
で、ヒロインの……ではなくて、私の学年に王子様がいます。最悪なことに第一王子で王太子なのよ。もちろん成績は優秀でうちの学年のトップですことよ。
……くっ。あの問題を読み違えなければ、私がトップだったのに。次点の宰相の息子とだって1点差だったのよ。なんで高得点の配分のあの問題を間違えたー、私。
……あっ、この学園ね、入学したら入試問題の結果を閲覧できるのよ。但し、自分のだけだけど。でも、たまたま生徒会に入る予定の王子や宰相の息子他と一緒になってしまって、私が答案を見つめてわなわなと震えていたら、覗かれてしまって……。
その問題以外全問正解だと知った彼らに、質問攻めにあったのはいい思い出よね。(遠い目……)
◇
ああ、また余計なことを話してしまったわね。
それで、この学園の生徒会の運営のことだけど、生徒会は各学年ごとに選ばれた5名×3学年の15名で運営されるのよ。もちろん生徒会長は3年生がなるのよ。王子が1年生にいても、そこは決まっているのですって。
15名って多い気もするけど、それぞれに担当する役割があるの。学年トップが長、つまり学年長であり、将来の生徒会長。次点は副学年長であり、将来の副生徒会長。他の3人は
それぞれ、風紀委員、安全委員、行事委員となるのよ。
これが三年間の持ちあがりだから、ある意味わかりやすいような。
えーと、そうそう。先ほど学年のことだけを話そうと思ったのは、生徒会と言いながら自分がいる学年以外とは、交流が無かったからなの。15名が集まった会議のシーンは1回だけだったし、基本はトップの3人が話して、各学年ごとに対処する方向性だったから。
それから学級委員と違うのは……もう、お分かりよね。クラスのことだけでなく学年全体及び、学園全体のことを考える立場だもの。
◇
この後は、実際に私が入学してから体験したことを交えながら説明することにするね。
私はこの学園に3番目の順位で入学をした。そして生徒会入りを果たした。長と副は先に言ったように、王太子と宰相の子息。4番目は王太子妃候補の公爵家令嬢、5番目は魔術大好き侯爵家の子息。6位から11位までに高位貴族の子息令嬢が続いている。
……あっ、言い忘れてたね。私の家の爵位は子爵家よ。今まで生徒会入りした子爵家の子息令嬢はいなかったようで、私は少し注目を浴びてしまったのよ。
まあ、今は普通に皆さんと話をしていますけどね。
そう普通に。
普通に生徒会関連の仕事の話をしていますのよ。ええっ。
学年対抗の体育祭。盛り上がったし、クラスだけでなく学年の絆も深まったわ。
弁論大会……先輩をやり込める宰相子息の弁舌に、ほお~と、ため息がもれたのは、内緒ね。
夏休み前の合宿。湖の畔のコテージに泊まり、お決まりの女子トークで盛り上がりました。もちろん、こ・い・ば・な! ですわ~。女子同士の連帯感が生まれたの~。
学園祭……これは文化祭も兼ねていたわね。まず、剣による試合。次の日は魔術の試合。魔道具創作班の発表会。そして待ちに待った、模擬店。各クラス創意工夫を凝らしてました。うちのクラスは孤児院と連携をした、小物の販売をしたのよ。売り上げは全額孤児院に寄付したのよ。
これが注目されて、来年は他のクラスも他の孤児院と連携してお店を作ることが決まったそうです。
私は充実した学園生活を楽しんでいたのよ。なんと云っても、学園では本が読み放題なんですから。家では置き場所にも困るし、あまり本を買ってほしいとは言えませんでした。それが、見たこともない外国の本まで揃っていて……ああ~、パラダイスだわ~。
ところが、駄女神には私のこの様子が面白くなかったそうなんです。なので私が眠ると、夢の中に現れるようになりました。
最初は「あなたのペースで攻略を進めてね♡」なんて言ってきたのよ。(鬱陶しいからハートをつけるな!)
それがだんだんと怒りをあらわにしだして。(どうして貴重な時間を無駄なことに費やさなきゃいけないんだ!)
それでも私が動かないと、今度は泣き落としをするように。それも眠ると、毎晩現れる。(今ここ!)
もう、鬱陶しいったらない。それに安眠を妨害されて、そろそろ日常生活に支障が出てきそうになっているし。
チロリと視線を女神へと向けた。女神は私が思い返している間、ずっとグチグチと言っていた。涙のあと……なんて見えないなー。まあ、夢の中だし。本当に泣いてなんていなかったのだろう。
◇
その時、私の頭の中に声が聞こえてきた。
やっと準備ができたと言っている。
これで安眠を確保することが出来ると解り、私は心の中でニヤリと笑った。
そのためにも、さっさと失言……もとい、言質を取ることにしましょうか。
私は夢の中でも開いていた本を閉じて、女神のほうを向いた。
「そもそもね、私はこの状況に納得してないんだけど」
「ええ~、どうして~」
女神は目を丸くして私のことを見つめてきた。かなり驚いているみたい。まあ、今まではほとんど無視して聞き流していたからね。まともに視線を向けて話すのは初めてかもしれない。
「どうしても何も、こんな理不尽な立場に追いやられて、納得できる方がおかしいでしょ」
「私~、最初に話したわよね~」
「あんな一方的に言われて? 大体、私が死んだのが女神様のせいとしか聞いてないんだけど? 死因さえわからないってどういうこと?」
「え~、だから~、私が~、自分の世界の~、参考にするために~、あの世界で~、調査をしていた時に~、暴漢に~、絡まれちゃったのよ~。さすがに~、神の力を~、振るうわけにはいかなかったから~、脚力を強化して~、逃げ出したのよ~。そうしたら~、たまたま~、路地の先にいた~、あなたに~、ぶつかってしまって~、車道に飛び出させちゃったのね~。運悪く~、そこにトラックが来ちゃったというわけ~」
……おい! 不注意って、それかよ。もう、これだけでいいんじゃね?
と思ったのに、頭の中に協力者からの声が聞こえてきた。確かに女神の不注意によるものだから、転生案件だと言われました。だけど、ヒロイン云々について知りたいから、もう少し、聞きだせと指示が来ましたよ。
仕方がないから、私は悲しそうな顔を作ってから、微妙に女神に表情が見えるように俯いた。
「トラックに轢き殺されたなんて……。家族は私の轢き潰された悲惨な姿を見たのね」
「あ~、それはね~、大丈夫よ~。うまい具合に~、跳ね飛ばされていたから~。でも~、地面に叩きつけられた衝撃と~、当たり所が悪くて~、即死だったわ~」
神妙な顔をしているけど、絶対女神、自分が悪いとは思ってないだろう。怒りが沸いたけどここはまだ我慢だ。
「本当に~、申しわけなかったわ~。そのお詫びに~、あなたがやっていた~、乙女ゲームの世界に~、転生させて~、あげたのよ~」
ここで、どうしてドヤ顔が出来るのだろうね。……というか、そもそも私は乙女ゲームはやったことはないんだけど?
駄女神との認識の祖語に内心首を傾げていると、駄女神はドヤッたまま話を続けた。
「あなた、良い趣味しているわよね~。あのゲームは~、ビジュアルが素晴らしいものね~。私~、がんばって~、あのゲームに~、近づけたのよ~。あとは~、あなたがヒロインとして~、攻略対象たちを~、落としてくれれば~、いいのよ~。そうすれば~、リアルな乙ゲーを見れるじゃない!」
……というと、なにかい? 自分が管理する世界で、乙女ゲームのような惚れた晴れたを見たいから、そういう知識がある私を、自分の世界に転生させた、と?
ふつふつと湧いてくる怒りに、協力者が『落ち着け―』と、念を送ってくる。解っているからと返事をして、駄女神に肝心なことを確認することにする。
「あなたがそう言うということは、この世界のモデルとなった、乙女ゲームと同じ様に話を進めないと、不都合なことが起こるのですね。例えば、魔物によるパンデミックやスタンビート、最悪の場合、世界の崩壊とか……」
私がそう言うと、駄女神は一瞬キョトンとした顔をしたあと、キャラキャラと笑い出した。
「いやだ~。そんなことがあるわけ~、ないじゃない~。魔物はいるけど~、ちゃんと~、統制が取れるようにしているし~。強敵は~、ダンジョン内に~、封じ込めてあるし~。ダンジョンからは~、出られないように~、制約を掛けてあるもの~」
「それじゃあ、なんでそこまで、乙女ゲーム……ヒロインに拘るんですか?」
「あら~、分からないかしら~。せっかく乙女ゲームに似せて作った世界なのよ~。丁度~、物語のように~、王子や貴族の子息たちがいるのよ~。本当なら~、私が~、あの世界に行って~、ヒロインのように~、攻略対象者たちを~、攻略して~、愛されたかったのよ~。でも~、私が降りて~、そういうことを~、するわけには~、行かないんだもの~。それじゃあ~、代理の人に~、やってもらうしか~、ないじゃない~。だから~、ね! 光栄に思って~、自分の役割を~、果たしてね♡」
「光栄に思うわけが、ないだろう!」
駄女神は私に可愛らしくウインクを決めてきたけど、聞こえてきた声に顔色を変えた。すぐに周りを見回している。そして、ここに居るわけのない姿を見つけると、狼狽しだした。
「うそ。どうして、ここにあんたがいるのよ」
「上からのお達しでね。お前が何やら画策していると報告が上がってきたんで、俺に調べるように言ってきたのさ」
そう言った男……男神は「ふう~」と、わざとらしくため息を吐きだした。
「まさか、このお嬢さんの転生に、そんな事情があっただなんてな。迷惑しかかけられてないのに、何をどうやったら転生ヒロインになることを、光栄に思えんだよ」
「私はちゃんと説明したわよ。それ以前に、上にも私の過失で死なせた魂のアフターケアを含めた転生の許可をもらったじゃない」
「ああ、それはちゃんと許可が下りているのは、確認したさ」
「なら、なんにも、不都合はないじゃない」
女神は男神にプンと怒った顔で言った。許可が下りているという言葉で、自分に非はないと思ったようだ。
考えが甘いぞ。
「お前は本当にわかっていないのか? 上はお前の行動は問題ありとして、すぐに出向するようにと言っている。この意味はわかるな」
「どうして……どうしてなの。ちゃんと自分の過失と届けたじゃない。虚偽の申請はしていないわ」
「過失はその通りかもしれないが、お前にはその過失が故意に起こしたものだという、疑いが出ているんだ」
「えっ?」
呆けた顔をして男神のことを見る、駄女神。
「故意? えっ? なんで? 私はそんなことはしていないわ」
「それならば、何故、彼女の希望に沿わない転生をさせたんだ」
「希望に沿わない? ええっ? そんなことないわ。彼女と接触した時に、あのゲームのことを考えていたことが流れ込んできたのよ。それならば、ちょうどいいから、ヒロインとして楽しんでもらおうと、思っただけなのに」
「それがそもそも違うぞ。彼女はヒロインになりたいとは思っていなかったんだ」
駄女神は茫然とした顔を私のほうへと向けた。
「うそ、よね。だって、説明した時に、了承してくれたじゃない」
「いえ、了承もなにも、あなたの話に口を挟めないでいる間に、転生させられたんですけど」
「そんなことないわ。私はあなたから『はい』って聞いたから、転生をさせたのよ」
「いいえ、私は『はい』と、言っていません。言ったのは『はあ~?(怒)』だけです」
「うそ、うそー! うそを言わないで!」
「いや、嘘じゃないぞ」
男神はそう言うと、私と女神が神界(らしき場所)で話した時の様子を映し出した。
それを茫然と見つめる女神。だんだんと女神の肩が落ちていった。
「というわけだから、ほら、上の方々に説明しに行け」
男神に促されて女神は頷くと、私に頭を下げてから夢の中から消えたのでした。
◇
さて、残された私と男神ですが……さっさと夢から出てけよと思ったのに、何やら話があると言われてしまい、どこからか取り出した椅子に座っています。
「今回は本当に迷惑をかけた。それから協力をありがとう」
男神は私へと頭を下げました。それからもう一度、最近の女神たちの間で流行っているという『乙女ゲームのようなキャッキャウフフを自分の世界でみたい!』症候群のことを、話したのです。
「それにしても、あいつもなんで君が乙女ゲームに興味があるだなんて勘違いをしたのやら」
男神はぼやくように言いました。駄女神のしでかしたことの裏付けを取るために、協力を申し込んできた時に、私が話したことからの発言です。
「あー、それなんですけど、私もあの人も勘違いをしていたことが、先ほどわかりました」
「勘違い?」
男神は興味を持った目で私のことを見てきた。
「はい。私もなんで女神がヒロイン、ヒロインというのかわからなかったのですけど、女神が感じ取ったゲームと、私が知っていたゲームが違ったんです」
「違ったって……そんなことがあるのか?」
「ええ。私は……えーと、プロトタイプと言えばいいのかな、唯一知っていた女性向けゲームは『青春シミュレーションゲーム』だったんです。で、それを基にして『恋愛シミュレーションゲーム』が作られました」
「ちょっと意味がわからないんだが、その二つのどこに違いがあるんだ」
「大ありですよ。『青春シミュレーションゲーム』のコンセプトは、『自分がいるのとは違う世界の学園で青春を謳歌しよう!』です。つまり、恋愛もあるけど、それは学園生活のスパイス程度で、いかに学園生活を楽しむかでした。『恋愛シミュレーションゲーム』は恋愛がメインで、学園行事は恋を盛り上げるものでしかないんです。だから、攻略対象に婚約者がいようが、国の将来の重鎮になり得るほどの高スペックだろうが、そう言うものも恋のスパイスでしかないという、ふざけた設定が多いです。この私の言葉で判るように、私は乙女ゲーム系はやりません」
「その割には詳しいような?」
「前の私って活字中毒だったんです。読めるものなら、何でも読んでいました。そのせいで弟のゲーム攻略に付き合う羽目になりましたし」
過去を懐かしく思い出しながら目を細める私に、男神は尚更わからないという目を向けてきた。
「ゲームの攻略本というものがあるんです。それにはネタバレが満載でしたが、弟の彼女の目的が全スチルのコンプリートでしたので、攻略本を使うのは有意義だったんです。弟はそういうものを読むのが苦手でして。私が読んで手助けしました。彼女ちゃんにも感謝をされましたね。それから、弟は格闘技ゲームが好きで、ゲームの情報誌を買っていたんです。私はたまにそれも読んでいました。なので、乙女ゲームのことも少しは知っています」
「そういうものがあるんだな。だが、勘違いをした説明がまだだぞ」
「あー、すみません。えー、プロトタイプと先程言いましたが、私が知っている『青春シミュレーションゲーム』は、イラストのビジュアルが広く受けまして、是非恋愛メインのゲームを作って欲しいと懇願されて、作られました。そのため『青春』と区別するためか、設定を少し変えています。大きな違いは舞台の学園ですね。学園には科というものが作られて、それぞれ自分が将来なりたいものに近い科に所属することになっていました」
「ん? ということは、世界観が同じで少し内容が違うゲームが二つ存在したと?」
「そうです。登場人物は『恋愛』のほうは増えましたけど、ほぼメイン攻略者は同じだったので」
男神はため息を吐いた。
「それでか。あいつはビジュアル重視だったからな。だが、もう一つ質問だ。なぜ君は興味がないゲームのことを考えていたんだ」
「それですか? あの時はその乙女ゲームが好評で第二弾が作られて、もうすぐ発売という店頭ポスターを見た直後だったんです。イラストは脳裏に焼き付くほど覚え込まされたので、ポスターを見て人気があるんだなと思ったんですよ」
「……それで勘違いか。あの時、あいつももう少し冷静だったら、君との会話で気づけただろうに」
男神は疲れたように椅子に凭れかかった。しばらくそうした後、ぽつりとつぶやくように言った。
「それにしても、こういう性格だから協力を頼めたわけだし、だが、恋愛に興味が無いのはどうかと思うな」
「嫌ですね。恋愛に興味がないわけじゃないですよ」
「はっ?」
つい返答したら怪訝そうな視線が返ってきた。
「私だって普通の女の子です。恋をしていますから」
「はあ~? えっ? だけどお前、ヒロインは嫌だと……」
「ええ。ヒロインのように攻略対象を落とすのは嫌ですよ。ましてや逆ハーレムなんてもってのほかです」
「あっ? はっ? いや、お前の普段のあれのどこに、恋する乙女モードがあった?」
「やはり男神も馬鹿ですか? そんなの隠しているに決まっているじゃないですか」
「マジ? おい、誰なんだよ」
「なんで言わなきゃならないんですか?」
「今回の謝礼がわりにうまくいくように協力してやる!」
「いりません。それよりも、もし私が好きな人がわかっても、手を出さないでくださいね」
「なんでだよ。両想いからの幸せな結婚生活を約束してやるっていうのに」
「それこそ大きなお世話です。というか、やはり人間のことを馬鹿にしています?」
「馬鹿になんかしてないぞ」
「いや、神の力で両想いって、あの駄女神と変わらないレベルのことを、言っているってわかります? そんなことをされても嬉しくないですから」
「あ~……それじゃあ、謝礼に魅力アップなんてどうだ」
「だ~か~ら~、馬鹿なんですか。それこそよくある乙女ゲームの設定じゃないですか。魅了の魔法 カッコ 無自覚 カッコトジ を使って、国を傾けるつもりなんですか」
「おい、その『魅了の魔法 カッコ 無自覚 カッコトジ』ってなんだ」
「言葉のとおりだからですよ。そんなことをされたらたまったもんじゃないです。駄女神より最悪じゃないですか」
「あいつと比べるなー! というか、魅力アップくらいでそんなんなるかよ」
「甘ーい! あの駄女神は無駄にこの世界を、乙女ゲーム仕様に近づけたんですよ。私が好きな人に効く分にはいいけど、それ以外にまで効いたらトラブルしか起こらないでしょう!」
「ぐっ」
男神は言葉を詰まらせて黙り込んだ。
「私への謝礼は駄女神による安眠妨害が無くなったことでいいですからね。というわけで、そろそろあなたも出て行ってください!」
男神は不満そうな顔をしていたけど、それでも私の言葉を聞き入れたのか、軽くあたまを下げた後、夢の中から出て行ったのでした。
あー、これで平穏な睡眠が訪れると、私は喜んだのでした。
喜ぶのが早すぎたと気がついたのは、わずか三日後だった……。
お読みいただきましてありがとうございます。
長編になりそうだったので、かなり端折っております。
なので、捕捉を少々
・女神が作った世界
自分が好きなゲームの世界に近づけるために、国の方向性などに口出しをした(主に学園の在り方について)。
ゲームの世界ではないので、実際に主人公がヒロインとしての行動をしていたらどうなったことやら……。
純粋さゆえなのか、主人公に魅了の力は与えていない。
なので、結局は主人公がすんごく頑張らないと、乙女ゲームのような展開にはならなかっただろう。
・青春シミュレーションゲーム
話の中で語られたように、プレイヤー(女子)は魔法が使える世界の学園に入り、青春を謳歌するというもの。ゲーム内の期間は入学から3年間。恋はただのスパイス。
・恋愛シミュレーションゲーム
こちらもある意味王道の乙女ゲーム。科が存在することにより、入学する生徒は国のほぼすべての貴族家の子息令嬢が入学する。入学試験はあるが、それはクラス分けのための学力を見るもの。科は関係なく成績順にクラス分けがされている。科ごとの選択科目授業により、カリキュラムが違うようになっている。ゲーム内の期間は入学から1年間。
攻略対象者は第一王子、宰相の子息、魔術師団長の子息、騎士団長の子息、公爵家子息の5名だった。
続編は2学年に進学してからの1年間の話。主人公は1期と同じもしくは帰国子女の編入生(つまり外交官の娘)から選べる。新攻略対象者として、編入生が行っていた国の第二王子とシークレットキャラが加わる予定だった。
・実際の学園
女神の口出しにより貴族用の学校は一つで、騎士や侍女などの学校は科を分けることでまとめられた。
平民向けの学校もあるが、こちらは多種多様の学校に別れた。
最近は平民にも優秀な者が多くなり、まずは大学院というものを作って、そちらで貴族平民の別なく教育しようと動き始めている。
※出てきていない生徒会役員他について
この世界の王侯貴族は学園を卒業するまで、婚約者を定めない。数代前の時に、王族を含む高位貴族の間で婚約破棄騒動が起きたことが原因。なので、高位貴族令嬢は王太子他の高位貴族の婚約者候補である。
特に成績上位者は各家に取り込みたいと思うので、引く手あまた。イアンナのいる学年は各家とも仲が良く、それぞれの相性を見ている状態だったりする。
というわけで、イアンナは別の意味で争奪戦が起きている……のだろう。