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気になること



7月も下旬に差し掛かる。先日の試合で部活動を引退した美都は何をするでもなく部屋のベッドで1人、数日前の出来事について考えていた。

部活動を引退することとなったあの日。麻衣子を助けた後に遅れて参加した試合には勝つことが出来たが、その後の試合で第一中は負けてしまった。チームメイトの何名かは3年生の引退に泣いていたが、自分としては精一杯戦ったので悔いはない。あるとするなら宿り魔の退魔に時間が掛かってしまったことだ。

(あれは何だったんだろう……)

見えない影が足に纏わりつく感覚があった。そのせいで気を取られいつも以上に退魔に時間を掛けてしまった。結局あの影が何だったのか判明していない。加えて他にも不思議なことがあった。初音が現れなかったのだ。いつもであれば対象者の心のカケラを確認するために姿を見せる。なのにあの時は気配すら感じなかった。

「……良くないもの」

美都はベッドに仰向けになりながらポツリと呟く。ちょうど印象的な曲調が耳に届いた。心を慰めるために高階から借りたCDを流していたドビュッシーの作品集だ。この曲は何だろうとCDケースを手にする。背面を見ながら曲名を目で追いかけた。

(『水の反映』……かな)

ドビュッシー作曲『映像第1集水の反映』。あまり聞き馴染みのない曲だ。だがタイトル通り水のように流れる旋律が耳に残る。後半に行くほど壮大になる曲だ。

水といえばと連想ゲームのようにその1文字が入る水唯のことをふと頭に思い浮かべた。夏休みに入ってしまったため、しばらく話していないなと思い出す。終業式の前に少し会話をした後、ここ数日は部活の引き継ぎがあったり家に籠っていたり──補講が始まっていないため──とめっきり会う機会が減った。隣の家で暮らしているのだから積極的に話しかけたいところだが、彼にも何かしら事情があるようなので無理強いすることは出来ない。補講が始まれば登校する機会もあるので教室で会えるはずだ。実のところ水唯のことも気掛かりだった。

櫻家で食事会をした日、彼は何かを抱えている様子を見せた。そのことが気になっているのだが先程思ったように無理に踏み込むべきではない。触れられたくない何かがあるのだと思うから。しかしだからと言って距離を置こうとは思っていないのだ。試合のためそちらに気を回すことをすっかりなおざりにしていたが。

「間違いを、正す……」

美都は再び独り言を呟く。あの時夢で聞いた声。未だにあの意味はわかっていない。『良くないもの』でさえ曖昧なのだ。

腹に力を込めて起き上がる。このままでは堂々巡りな気がする。受験勉強も捗らない。1人で悩むのは良くない傾向だ。

(──……よし!)

とりあえず向かってみなければ。会えるかわからないが、こうしてこのまま日がな一日過ごすよりも有意義なはずだ。そう思って美都はベッドから立ち、部屋から飛び出した。

廊下へ出て数歩も歩けばリビングが広がる。ちょうどソファーには四季がいた。彼も先日部活動を引退し、今日は互いに家で過ごす予定だった。そのためおそらく勉強の息抜きでリビングにいたのだろう。四季は美都の気配に気づき視線を向ける。

「どうした?」

「ちょっと菫さんのところ行ってくる」

「は? 今から?」

美都の突然の言葉に彼がきょとんと目を丸くする。守護者のことを訊くのならばおそらく菫を訪ねるのが手っ取り早いと考えた結果だ。その意図を彼に伝える。

「うん。ちょっと訊いてみたいことがあって」

「……じゃあ俺も行く」

今度は美都が目を瞬かせた。まさか彼まで自分の行動に乗ってくれると思っていなかったからだ。

「ちょうど外出しないか誘おうとしてたんだ。こんなに天気いいんだし」

言いながら四季は窓の外を指す。確かに窓から見える空は雲一つない快晴だ。家で籠っているには惜しい天気だと言ってもいいだろう。

「でもいいの? 勉強は?」

「お前、してたのか?」

鋭い返しに声を詰まらせる。まるで今までの自分の動向を見ていたかのようだ。目線を逸らしながら四季の問いにおずおずと答えた。

「してないです……」

「だと思った。今度から家で勉強するときは一緒にやるか」

怠惰な自分を叱るでもなく、四季はソファーから立ち上がった。正直彼の提案はありがたい。一人だとどうしても解らない部分で躓いてしまうとやる気を削がれてしまうのだ。四季はテーブルに置いてあった空いたグラスをキッチンへ片すと改めてリビングへ戻ってきた。

「行くぞ」

「あ、うん」

心が決まれば行動に移すのは早いらしい。四季に促されて玄関へ急いだ。

なんだかんだ四季と出掛けるのは久々だ。当たり前のように学校でも家でも共に生活しているが、それだけに肩を並べて歩くことは少ない。それに最近は互いに部活に打ち込んでいたため休日は練習漬けの日々だった。こうして外へ出るのは実に先月末ぶりだ。

「菫さんに訊きたいことって、不思議な影のことか?」

歩きながら四季が美都に問いかける。あの日あったことは彼に共有済みだった。逆に退魔に駆け付けられなかったことを気にしているらしい。美都は頷いて彼の問いに答えた。

「うん。あと指輪の力のことも。鍵についてもまだ不透明なことが多いし」

「鍵か……確かにな」

互いに難しい顔をしながら歩を進める。鍵の守護者という立場でありながら二人の鍵に対する知識はそう多くはなかった。今のところ解る情報としては最初に弥生に説明してもらった通りだ。

鍵は世界を司るもの。この世界は鍵によって均衡が保たれていて鍵には強い力が秘められている。その強い力を狙う者がおり、守護者はそれらの脅威から鍵を守る役割を課せられている。

「所有者って、どんな子なんだろう……」

もちろん未だに所有者については不明だ。それは守護者と違って、鍵の所有者は自分が所有者であるとは知らされないからだ。だから鍵を狙う者は宿り魔を使役して探索に及ぶ。だが所有者を見つけるための探索対象となった者たちには共通点があった。第一中学3年の女子生徒だ。鍵を狙う者は何らかの形でそこまでは候補を絞れたということになる。なぜ照準が定まっていいるのかはわからないままだ。

鍵について考えていると不意に四季の手が伸び、美都の頭に触れた。

「──!」

「あんま難しい顔してもしょうがないだろ。せっかくいい天気なんだし」

「……そうだね」

相当苦い顔をしていたのか、四季が宥めるようにして声を掛ける。その仕種に安心して美都も肩の力を抜いた。

「他にどこか行きたい場所あるか?」

「うーん……どこかなぁ……」

元々一人で菫のところに向かう予定だったため、どこかに寄ろうとは考えていなかった。しかしせっかくの外出だ。確かにどこかに寄ってもよいだろう。四季の質問に唸っているとマンションの入り口で瑛久とばったり遭遇した。しかしその表情はどこか疲れているようにも見える。

「瑛久さん、もしかして夜勤明けですか?」

「そ。加えて残業もね」

「うわぁ……お疲れ様です」

時刻は昼時だ。夜勤明けにしては遅い時間の帰宅となるだろう。研修医の大変さが窺える。

「二人は出かけるんだろ? 祭りか?」

「お祭り?」

瑛久の言葉を復唱し目を丸くする。隣に佇んでいる四季は何かを思い出したようだった。

「そういえばそんなのありましたね」

「おい。まだ若いんだから世情には敏感でいろよな。商店街に屋台も出てるぞ」

まだ若い瑛久にそう言われてしまい思わず苦笑する。毎年夏休みに入るとこの地区は大々的な祭りが催されている。それが今日だったらしい。日々の忙しさにかまけてすっかり忘れていた。

「菫さんのところに行こうと思ってたんです。そっか、お祭りかぁ。寄ってこっか?」

「あぁ、そうだな」

「待て待て。今から行く気か?」

二人のやりとりを見て、唐突に瑛久が制止する。二人は言葉の意図が読み切れず首を傾げた。

「そりゃ屋台は出てるけど、花火は夜だぞ?」

「花火なら家で見れますよ」

「四季、お前はもっと情緒を考えろ」

そう指摘され四季は苦い顔を浮かべた。彼のいうことは間違っていない。このマンションからならベランダに出れば花火は見えるだろう。だが瑛久の言うことももっともだった。普段から暮らす家なので情緒は無いに等しいだろう。

「……何が言いたいんすか」

「お前なぁ。美都ちゃんの浴衣姿見たいとか思わないの?」

「浴衣……」

はたと目を瞬かせ四季が美都を見る。先程の眼差しとまるで違うその視線にギョッとして美都は手を横に振った。

「や。でもわたし浴衣持ってきてないし」

「弥生のがあるよ。着付けもあいつが出来るし」

横から瑛久が口を挟む。流石に提案した本人だけあって言葉の用意が周到だ。二人からの押しに美都は若干たじろいだ。

「いつも似たようなの見てるじゃん」

「似てるけど違うだろ。髪型も」

「まぁ確かにそうなんだけど……」

二人が思い浮かべるのは守護者の衣装のことだ。上半身は確かに和装に近いが下は動きやすいように短めのスカートになっている。髪型も黒のロングストレートなので四季はそのことを言っているのだろう。

「……見たいの?」

「見たい」

自分で訊いておいてなんだとは思うが四季からのストレートな言葉に思わず顔を赤らめる。そんなに変わるものでもないとは思うがここは彼の意思を尊重するか、と瑛久に目配せを送った。

「オッケー。じゃあこのまま戻ろうか」

「すみません瑛久さん」

「いや。正直俺も助かるよ」

「──?」

彼の言葉の意味を計りきれず首を傾げると、逆に察知した四季が半ば同情するように言った。

「寝たいんすよね、瑛久さん」

「さすが。夜勤明けに那茅の相手は体力が持たないからな……」

「まぁ美都が着付けてもらってる間は俺が見てますよ」

「助かる……」

なるほど、とようやく美都は納得して頷いた。確かに彼の表情には疲れが見える。那茅はあの通りお転婆なので、ロクな睡眠も取れず帰ってきた瑛久には幼子の相手は相当体力を要するのだろう。ちょうどよく自分たちが通りかかったため、数時間でも彼女のお守りをしてくれると助かる、という意味だったようだ。確かに着付けの間四季に相手をしていてもらえば那茅も不満は言わないはずだ。瑛久の体力も回復する。

予定は急遽変更になったが急ぐことでもないので、美都と四季は瑛久に続いてエレベータへ踵を返した。





「どれにしようか迷うわねー」

そう弥生は嬉々とした声で浴衣を箪笥から出し始めた。既に畳には複数の浴衣が置かれている。その多さに目を瞬かせた。

「いっぱいあるんだね」

「可愛くてつい集めちゃうのよね。そんなに高いものじゃないけど。美都ちゃんどれにする?」

「うーんどうしよう。四季に訊いた方がいいかなぁ」

「ダメよー。びっくりさせたいじゃない! あ、これなんかどう?」

着る本人よりもノリノリで弥生が浴衣の選定をしてくれる。正直どれも可愛くて目移りしてしまうので人の意見はありがたい。弥生は浴衣を決めた後、すぐにそれに合う帯も選んでくれた。

「よし、じゃあ早速着付けしちゃいましょうか」

「お願いします」

着付けの先生だと思って弥生に深々と頭を下げる。そうは言っても自分にできることといえば彼女の手元を妨げないよう大人しくしていることだけだろう。浴衣用の肌着を纏った後、弥生は手際よく自身の持ち物である浴衣を美都に着せていった。彼女の真剣な眼差しに感嘆とする。

「着付けどこかで習ったの?」

「短大でね。服飾の学校に行ってたのよ」

「そうなんだ⁉︎ すごいなぁ……」

初めて知る情報に目を瞬かせる。だが同時に納得も出来た。彼女の私服はいつ見ても可愛い。そういう理由だったのだなと一人頷いた。

実は弥生のことについてはまだ知らないことが多い。隣で暮らし始めて4ヶ月しか経っていないので当たり前なのだが。普段から相談に乗ってもらっていることもあり、彼女のことをもっと知りたいと思っている。

「服飾の学校のこととこないだ内緒にしてた部活のことは関係あるの?」

「ないわよ。よっぽど気になってたのね」

クスクスと笑いながら弥生が質問に返答する。あんなきっぱり内緒だと言われれば気にもなるのだ。

「なんで内緒なの?」

「んー、説明が難しいのよね。ラクロスもそうだと思うけど同じくらい珍しい競技だから」

「へぇ……! って言われるとますます気になるなぁ」

「今度ゆっくり話してあげるわ。はい、後ろ向いて」

ラクロスと同じくらい珍しい競技とはなんだろうと考えて目線を宙に置いていると、弥生が着付けの指示を出す。それに従い美都はくるりと後ろを向いた。

「部活も終わっていよいよ本格的な夏休みね。勉強は捗ってる?」

「う……それが全然」

「あら。勉強嫌い? 行きたい高校とかないの?」

その質問に言葉を詰まらせる。勉強は嫌いではない。問題は弥生の最後の質問だ。眉を顰めてポツリと呟いた。

「自分が何をやりたいかわからなくて……実は志望校もまだなの」

担任である羽鳥からは「やりたいことは今後見つかるから今は勉強しておくべきだ」と諭されたが、何のために勉強をすれば良いのかも分かっていない。かと言ってやりたいこともないので何だか足踏みしているような気持ちになるのだ。本当にこれでいいのかと自問自答を繰り返している。だから勉強も捗らないのかもしれない。

「そうなの……。確かに周りの子が決まってくると焦っちゃう時期よね」

「うん。公立に行きたいから勉強しなきゃいけないのはわかってるんだけど……」

円佳からは遠慮しなくていいとは言われているが、逆に目的もないのに私立に行くべきではないと弁えている。公立は授業料が安いだけに倍率が高い。そのために勉強しなくてはいけないのだ。

「四季くんには訊いてみた? 志望校どうするのか、とか」

「ううん。でも四季は頭いいからこの辺りの公立なら全然問題ないと思う」

「そうじゃなくて、四季くんと同じところを目指して見ればってことよ」

弥生の言葉に目を瞬かせる。その発想に至ったことはなかったからだ。だが頭のいい四季のことだ。きっと都内でもトップクラスの高校を目指すに違いない。それに──。

「そんな理由でいいのかなぁ……」

あまりにも志望理由がぼんやりとし過ぎてしまっている気がする。だが今のままでも良くないことは分かっていた。弥生が着付けの手を止めずにふっと息を漏らす。

「理由なんて何でもいいのよ。今わからなくても高校で見つかるかもしれないし。これから可能性はたくさんあるわ。って、エスカレータ式の高校通っていた私の意見じゃあんまりアテにならないかもしれないわね」

そう言って弥生は肩を竦めた。彼女の言葉に励まされながら、少しだけ羨ましいと思ってしまう。エスカレータ式ならば悩むこともないからだ。だが弥生と自分とでは置かれている状況が違う。

「いろんな人の意見を聞くのはいいことだと思うわ。四季くんもそうだし、周りにいる友だちもそう。そうした方がもっと視野は広がるはずよ」

「うん……そうだよね」

「案外凛ちゃんが引っ張ってくれるかもしれないわよ?」

凛の名前が出て思わず目を丸くした。確かに凛ならば迷っている自分を引っ張ってくれるかもしれない。なぜなら彼女は自分の意見に第一に寄り添ってくれるのだから。だが逆にそれもいいのだろうかと疑問に思って苦笑いを浮かべる。

「そうだね。ありがとう弥生ちゃん」

「どういたしまして。はい着付け終わり。じゃあ次は髪ね」

話している間にあっという間に着付けが終わった。圧迫感もなく動きやすい。感嘆とする間も無く、今度は弥生が髪に焦点を当てた。

「浴衣だしせっかくなら結びたいわよね。巻いてみる?」

「猫っ毛だからすぐ取れちゃうの。だから纏めるだけでいいよ」

「じゃあ結んでヘアカチューシャにしましょ」

弥生はまたもやテキパキと必要なものを取り出し美都の髪に触れた。彼女の手つきは優しくて心地良い。布製のヘアバンドを装着し、背後の髪の毛を丁寧に纏めてくれる。こだわりがないので普段はそのまま下ろしているだけだが、これからの季節は結った方が涼しくて良さそうだなと感じた。そのまま前髪も整えてもらい弥生が全体を確認する。

「やっぱり若いだけあってお肌も綺麗ね。あ、そうだわ」

何かを閃いたかのように、弥生はメイクポーチの中から細長いものを手にし美都に差し出した。

「色付きのリップクリームよ。お化粧はまだ早いかもしれないけど、これくらいならどうかしら?」

「え、いいの?」

「えぇ。買ったけどまだ使ってなかったし良かったら貰って。紫外線予防にもなるからちょうどいいわね」

礼を伝えて弥生からリップクリームを受け取る。そのまま外装を剥がしキャップを取り外した。甘い香りが鼻に届く。色だけではなく香り付きだったようだ。

「いい匂い……!」

「でしょう? はい、ちょっと貸して」

そう言うと弥生は再び美都に向き合って渡されたリップクリームを彼女の唇に重ねた。口紅ではないが色付きと言うだけで少しだけドキドキする。

ちょうどリビングの方からパタパタと軽快な足音がし扉が勢いよく開けられた。

「みとちゃんおわった? あ! すごーい!」

「こら那茅。俺はそっち行けないんだから」

扉から顔を出した那茅がいつも以上に目を輝かせている。その少し遠くから呆れと戸惑いが入り混じったような四季の声が聞こえた。

「もう来ても大丈夫よ。ちょうど終わったから」

クスクスと笑いながら、弥生が扉を隔てた向こうにいる四季に声をかけた。那茅は落ち着かない様子でピョンピョンと跳ねながら「かわいー!」と繰り返している。弥生の声を合図に、四季が遠慮がちに顔を覗かせた。

「っ……!」

美都を見るなり目を見開いて声を詰まらせる。何も言われずにただまじまじと見つめられるのが何だかくすぐったかった。

「ど……どう、ですか……」

「可愛い」

今度は直球で褒め言葉が飛んでくる。弥生たちの目の前なのでいつも以上に恥ずかしくなって顔を紅潮させて俯いた。その様を弥生は微笑ましく見守っている。

「なちもー! なちもきるー!」

「はいはい、着せてあげるわ。じゃあ美都ちゃん、もし着崩れたら連絡して。私たちも夜は花火見に行くから」

その時は合流しましょ、と言って弥生が言葉を付け足した。その気遣いと着付けをしてくれたことの礼を弥生に伝える。弥生が用意してくれた巾着型の籠バックを片手に持ち、必要最低限のものをその中に入れた。もちろん彼女から貰った色付きのリップクリームもだ。

「それじゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい。楽しんできてね」

いつもより歩幅が小さい美都を気遣うように、四季が何度も確認しながら玄関へ向かう。

二人は弥生の声を背にして再びマンションを後にした。



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