第20話 仮面の騎士VSダード
権力を使う奴は権力に弱いです。
「お前は俺には勝てないよ」
「口だけなら何とでも言えるぞ!」
「ならそれを証明してやる!」
俺は左手に込めていた魔力を解放する。
「【氷の国】」
液体窒素の白き霧を生み出し、辺りを一瞬にして氷の世界へと塗り替える。
「くっ! だがその程度の魔法では私を倒すことはできんぞ」
そりゃそうだ。
今の魔法は通常の3割ほどの魔力で撃ったからな。
結界があることで逃げることもできないし、本気で【氷の国】を放ったら一撃で殺してしまう。
狙いは他にあるが、実戦経験の少ないダードには、わからないだろうな。
「今度はこっちから行かせてもらう!」
ダードは先程のようにスピードを主軸に向かってくるが、途中で滑ってしまう。
「な、なんだこれは!」
「やっと気づいたか」
今校庭の地面は、俺の魔法で凍りついているため、まともに動くことはできない。
「さっきの魔法はこのための布石だ。そんなこともわからなかったのか」
「き、貴様!」
「これでお前のスピードを封じることができた」
何か奥の手がない限り、ダードが俺を倒す手段はもうないはずだ。
「ふざけるな! こんな氷溶かしてやる!」
ダードは校庭に向かって魔法を放つ。
「【爆裂太陽光】」
光の弾が地面に着弾すると、灼熱の炎が燃え拡がる。
「ふっはっはっは! こんなもの俺の魔法にかかれ⋯⋯ば⋯⋯」
しかし奴の思いとは裏腹に、地面の氷が溶解することはない。
「なぜだ! ただの氷をなぜ溶かすことができん!」
「ただの氷? 【氷の国】は冥府の氷だぞ。お前ごときにどうこうできるものではない」
「く、くぅ!」
俺の言葉に、ダードは悔しそうに顔を歪ませる。
「だ、だが貴様も氷の上を走れないだろ!」
「そんなことをしなくてもお前を倒す方法はいくらでもあるんだよ」
【風短剣魔法】
透明の風の短剣が、俺の頭上に数多く生まれ、ダードに向かって解き放たれる。
「ぐっ! がっ! や、やめろ」
ダードは【氷の剣】を使って迎撃するが、数多の短剣を打ち落とすにはいたらず、やめるよう懇願してくる。
だか俺はそんなことを聞く気は毛頭ない。
「そして次はこれだ! 全てを凍てつかせる氷よ。眼前の敵を打ち倒す剣となれ!【氷の剣】」
俺の手の中に2メートル程の氷の大剣が生まれる。
「そ、そんなものを出してどうするんだ。氷の上ではいくらお前でもうまく動けないだろ」
確かにそうだが、わざわざ足場の悪い所を使う必要はないため、俺は新たに魔法を唱える。
「【風翼魔法】」
身体が重力に逆らって浮かび上がり、一直線にダードの元へと飛行する。
「バカな! 飛行魔法だと!」
ダードは驚きのあまり、戦闘態勢が取れてないため、隙だらけだ。
「これはラナさんの分だあぁぁぁ!」
俺は左腕を狙って剣を振り下ろす。
ザシュッ!
「ぎゃぁぁぁぁ!」
左腕が切り落とされ、ダードの叫び声が第2校庭に鳴り響く。
「い、痛い! このままだと死んでしまう」
切った切断面は凍りついているため、止血はできている。
まだ、死ぬことはないだろう。
「な、なぜここまでされなければならない。お前には何もしてないだろ」
「本気で言っているのか? 入学式の時に俺を殺すと息巻いてたらしいじゃないか。それに貴族じゃない者に対する差別や嫌がらせを散々やってきただろ」
「や、奴らは貴族に取って家畜も同然だ。どう扱おうがお前には関係ない」
この状況でもそんな言葉を吐くとは。こいつの貴族第一主義は死んでも治らないな。
「くそっ! こんなに強い紋章持ちなら最初から相手にしなきゃ良かった」
強い紋章? よくそんなことが言える。
それなら俺の正体を見て、絶望するがいい。
俺は自分にかけていた、認識阻害魔法を解除する。
「き、貴様は!」
仮面の下にある顔を見てダードは驚愕し、地面に膝を着く。
「Fクラスの劣等紋!」
「そうだ、お前が言っていた掃き溜めのFクラスに負けたんだ」
「私は⋯⋯こんな奴⋯⋯に⋯⋯」
蔑んでいたFクラスの生徒に敗北したんだ。ダードに取ってこれほどの屈辱はないだろう。
「き、貴様ごときが私の腕を切り落とすだと! 地獄の苦しみの中で殺してやる!」
ダードは俺の正体がわかると急に態度を変えてきた。
ザシュッ!
「ぐわぁぁ! な、何をする!」
「いや、ラナさんの分がまだ終わっていなかった」
俺はラナさんがやられたことをやり返すため、右足も切断する。
「それと⋯⋯」
ダードの顔に近づき、殺気を混ぜて言葉を発する。
「自分の立場がまだわかってないのか? この状況で威圧的な態度をとるなんて、お前バカだろ」
「ヒ、ヒィッ!」
よっぽど恐ろしかったのかダードは悲鳴を上げ、その場で踞ってしまった。
さて、後やらなくちゃいけないことが2つあるので、さっさと終わらせてしまおう。
「おい」
「は、はい」
いい感じに従うようになってきたな。ひょっとして俺は調教師の才能があるのかもしれん。
「悪魔の種子⋯⋯それをどこで手に入れた」
「わ、わからない⋯⋯フードを被った見知らぬ男がくれたんだ」
この後に及んでまだ嘘をつくか。
俺は右手にもった【氷の剣】の切っ先をダードの首に当てる。
「戦いの最中に、あの方に頂いたと言ってただろうが!」
「そ、それは⋯⋯」
「次に嘘をついたり、話さなかった場合はどうなるか⋯⋯わかるな?」
「は、話したら助けてくれるのか」
「⋯⋯わかった。しゃべればこの剣でお前を突き刺すことはしない」
ダードは目を閉じ、自分の中で話すか話さないか命の選択をしている。
「⋯⋯は、話す。だから命だけは助けてくれ」
それが正解なのかどうかわからないが、ダードは俺の問いに答えることを選んだようだ。
「⋯⋯クルド様だ」
「クルド?」
「ルーンフォレスト王国外務大臣のクルド様だ」
これまた大物が引っ掛かってきたな。
ただ、悪魔の種子は明らかに人が生み出した物じゃない気がするんだよな。一応そのこともダードに聞いてみるか。
「そのクルドの側に怪しい奴がいなかったか?」
「⋯⋯あ、怪しい奴かわからないが、今まで見たことのない老人がいることがあった。す、少なくとも貴族ではないことは確かだ」
とりあえずその老人について調べてみるか。大臣となると城にいるから、騎士団のエリアさんとダリアさんにお願いしよう。
「他に気になる奴は?」
「も、もう知らない」
「そうか」
この時、展開されていた結界が徐々に消失していった。
5分たったのか。ならここにいる意味はもうないな。
俺はダードに背を向け、ここから離れる。
「ちょ、ちょっと待て! どこへいく」
背後から慌てた様子でダードが声をかけてくる。
「もうここには用がないから寮に戻ろうかと思って」
「助けてくれるんじゃないのか! 悪魔の種子のことを教えただろ」
「俺は剣を突き刺さないと言っただけで、助けるとは一言も言ってない」
「た、頼む。ここに放置されたら死んでしまう」
そんなことは俺の知ったことではないし、このまま生かして返す気もない。
俺は魔法を放つため、右手に魔力を込める。
「な、何をしている! まさか私を!」
「生かして置いたら必ず復讐に来ることが目に見えているからな」
「この糞野郎が!」
「これまで迷惑をかけた人に詫びながら死ね」
インフェル⋯⋯。
「待ちなさい!」
林の方から男性の声が聞こえてくる。
しまった! この状況を見られたら非常にまずい。
今の俺は誰がどう見ても、貴族を殺そうとする怪しい奴だ。
ゆっくりと声の主が現れる。
暗くてよく見えないが、この気配には見覚えがあるぞ。
闇夜の中姿を見せたのは、勇者パーティーの1人であり、冒険者学校の理事長でもある拳帝マグナスさんだった。
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