第11話 天族の歴史
天と聞くとロマンを感じます。
疲れた。
まさかルーナが熱狂的なアルテナ教の信者だとは思わなかった。
今後ルーナの前では、アルテナ様の話題を出すのをやめよう。
Fクラスの寮に入ると、普通に綺麗な部屋並みで逆にビックリした。てっきり築30年くらいのボロ家かと思っていたが、新築といってもおかしくない建物だった。
部屋に風呂もあり、食堂も完備されている。
さすが今人気がある冒険者学校だな。
これも勇者パーティーである父さんや母さん達のおかげだ。ありがとう。
俺は天国にいる両親に感謝する。
「この世界には人族、エルフ族、ドワーフ族、猫族、犬族、兎族、魔族、そして天族の8種族が確認されています」
今はネネ先生による歴史の授業。
「それではこの8つの種族で最も人口が多いのはどの種族でしょう⋯⋯ルーナさん」
「人族で全体の約9割になります」
起立して正解を答える。
「はい、その通りです。では最も少ない種族はどの種族になりますか? ジェシカさん」
「天族になります」
「正解です。天族は三百年前にあった人族、エルフ族、ドワーフ族、猫族、犬族、兎族、天族が力を合わせて魔族と戦い、その戦いが原因で数が激減し、今ではその存在が確認されていません。そしてこの戦いは後に、覇権戦争と言われています」
天族か⋯⋯冒険者としては1度会ってみたい種族だ。
「はい、は~い先生ちょっといいですか~」
グレイが手を上げる。
グレイは元々頭が良いが、若くて綺麗なネネ先生の授業では特にやる気を出している。
もう一層の事、全部の授業をネネ先生にすれば、グレイの成績は余裕で学年トップを取るんじゃないかと思う。
「はい、グレイくんどうぞ」
意気揚々と立ち上がり先生に質問をする。
「天族には天使のような翼があるのでしょうか?」
「良い質問ですね。結論から言ってしまいますと天族に翼はありません。そして容姿に関しては人族と見分けがつかないため、ひょっとしたら今も人族に紛れて暮らしている可能性があります」
いつの間にか幻の種族と言われた天族に会っているかもしれない。なかなかロマンがある話だ。
「そして、一部の天族には特殊な力があったと言われています」
「特殊な力ですか? それはどういうものでしょうか」
「それは⋯⋯わかりません」
わからないのかい!
俺は思わず心の中で突っ込みをいれてしまった。
「数百年前は資料が残っていましたが、度重なる国同士の戦いで全て失われてしまったと聞いてます」
ん? いくら戦争があったからといって、そんな簡単に天族に関する資料が失くなるものなのか?
キーンコーンカーンコーン
俺は疑問に思ったが、授業終了のベルがなったため、すぐに昼食モードに切り替える。
「ヒイロ、飯行こうぜ」
「ああ」
グレイから昼の誘いを受けたので、俺は頷き食堂へと向かう。
「ヒイロくん私もいいですか?」
「いいよ」
ルーナも連れて、教室から外に出るとリアナともう1人、ラナさんが待ち構えていた。そういえば2人は同じAクラスだったな。
「ヒイロちゃんお昼一緒に行こう」
行くのはいいけど俺の顔を見たラナさんが、露骨に嫌な顔をする。
「ヒイロってこいつのことだったのね。やっぱり私はキャンセルするわ」
「えっ? ラナちゃんは一緒に来てくれないの⋯⋯」
リアナは泣きそうな表情をするとラナさんは慌てふためく。
「ちょ、ちょっと泣かないでよね。わかった! わかったから! 行くわ!行けばいいんでしょ!」
「本当? ラナちゃんありがとう」
リアナの泣き顔が一瞬で笑顔になった。
こいつやるな。
強気なラナさんを上手く手玉に取るなんて。
しかもラナさんは人間嫌いなのに、一緒に昼を取るほど仲良くなるとは。
リアナは昔から天真爛漫で裏表がないから、そういう所がラナさんに気に入られたのかも知れない。
「な、なによ!」
「いや、何も」
そんな俺の考えを見透かしたのか、ラナさんはジロリと睨んできたので、俺は視線を外す。
「俺はいいぜ。可愛い子なら大歓迎だ」
「先に言っておくけど私、ナンパ男は嫌いだから」
グレイの言葉はラナさんに一蹴され、この場が微妙な雰囲気になる。
「わ、わたし、お腹が空いてしまったので皆様昼食を食べに行きましょう」
ルーナが空気を変えるため、昼御飯を食べに行くことを提言し、とりあえず全員が頷き食堂へと向かう。
食堂に着くと昼時ということもあって、とても混雑していた。
注文は受付でお金を払って食券をもらい、厨房のおばちゃんにその食券を渡すことによって料理が出てくる。
俺は焼き魚がメインのAランチ、グレイはホワイトラビットの照り焼きがメインのBランチ。リアナとラナさんはスパゲッティー、ルーナはお弁当を持参していた。
席に着き皆黙々と食事を取る。
ラナさんの俺がいるから昼に行きたくない宣言や、ナンパ男嫌い宣言が尾が引いているのか場の空気が重い。
そんな中この流れを変えるため、リアナが一石を投じる。
「え~とヒイロちゃんは良いとして2人は初めてだよね? この小さくてスタイル抜群なのがルーナちゃん。そしてこの男の子がグレイくんだよ」
「な、なんですかその紹介は。よろしくお願いしますねラナさん」
「よろしくな」
ルーナは照れながら、グレイは少し怖じ気づきながら挨拶をする。
「それでラナちゃんは何でヒイロちゃんのことが嫌いなの?」
「ぶっ!」
誰もが聞きにくいことをリアナがストレートに言い、思わず飲んでいた水を吐いてしまった。
「ヒイロきたねえぞ!」
「わ、悪い」
さすが裏表がないリアナだな。
ラナさん。頼むからここでパンツを見たことを言うなよ。
「理由ね⋯⋯元々私は人族が好きじゃないから⋯⋯けどこの男は特に嫌い」
「なんで?」
「⋯⋯実技試験の時、受験生があのダードって奴にいたぶられているのに、この男は見向きもせず帰ったのよ!」
ラナさんはあの時のことを口にすると、怒りでワナワナと震えている。
「あっ! その話聞いたことがあるぜ。その後美人エルフが助けに入ったけどやられちまったんだろ」
「⋯⋯そのエルフが私よ」
「えーっ! その娘ってラナちゃんだったんだ」
「そうよ」
「で、噂の仮面の騎士が助けてくれたんだよな」
「ええ、剣も魔法も一流で、そして急に消えてしまったからおそらく転移魔法も使えると思うわ。あれほどの実力者、おじ様以外に見たことがない」
俺の目が確かなら、その仮面の騎士を語るラナさんの目は、恋する乙女のように見える。
「それで好きになっちゃったんだ。Aクラスの皆にも仮面の騎士さんのこと聞いてたしね」
リアナがまた、ズバッと皆が気になることを聞いてくれる。
「ち、違うわよ! 私はただあの時のお礼を言いたいだけ!」
「本当ですか?」
「ほ、本当よ。お礼のついでにあわよくばお食事とかできればなあ、なんて思っていないわよ」
これは思ってるな。しかもその正体が大嫌いな俺だと知ったらラナさんに殺されるかもしれん。
「それにしても誰だろなその仮面の騎士は」
チラッ。
「そうですね。さぞやカッコいい方でしょうね」
チラッ。
「それにきっとその仮面の騎士さんは良い人だと思うなあ」
チラッ。
皆が言葉を発する度に、こちらを見てる気がする。
「と、とにかく私は人族が嫌い。ナンパ男はもっと嫌い。同族を見殺しにする奴は死ぬほど嫌いなの!」
そう言ってラナさんは席を立つ。
「ご馳走さま。私はもう食べ終わったから行くわ」
食堂を後にするラナさんの背中を俺達は見送る。
「さてと。俺も食べ終わったから行くわ」
俺も椅子を引き席を立つ。
「ちょっと待てヒイロ」
「そうですよヒイロくん」
「ネタは上がってるよヒイロちゃん」
グレイは俺の肩を持ち、もう一度座るように促してくる。
「どういうことだ。何のことかさっぱりわからないな」
証拠はない。俺は惚けることを選択する。
「あの場にいた人物で、剣は一流」
「魔法も一流です」
「そして転移魔法を使えるなんてヒイロちゃん以外いないよね」
どうやら証拠は上がっているようだ。もう嘘をついてもしょうがないだろう。
「いや、言うわけにはいかないだろ。もし仮面の騎士が俺だって知られたら、侯爵家のダードに怪我させた罪で俺が捕まる。だから皆黙っててくれないか」
俺は3人の返答を待つ。
「言わねえよ。俺達親友だろ。ヒイロだけ良い思いをするなんて許せないからな」
「言いませんよ。これ以上ライバルを増やしたくありませんから」
「言わないよ。ヒイロちゃんのお願いだもん」
グレイとルーナの言葉の後半部分は聞こえなかったが、とりあえず皆が黙っててくれると約束してくれて助かったぞ。
ラナさんは仮面の騎士を探しているのか。何だか嫌な予感がする。
何か仮面の騎士関連で変なことが起きなければいいけど。
しかし俺の願いは空しく。翌日、冒険者学校で大きな事件が起きることとなった。
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