第1話 すっかり忘れてました
誰しも忘れることはあります。
王都が魔物に襲撃されて約1ヶ月。
この間にリアナ、エリスさん、ダリアさんの3人は、ルファリア王より、魔導軍団副団長エリザベートを撃退し、魔物を退却させた功績で勲章を頂いた。
リアナは畏まった叙勲式に、「もうこんなのでたくな~い!」って言ってたな。
ちなみに俺は後継者争いに巻き込まれないようにするため、その場にはいなかったことにしてもらった。
リアナとマーサちゃんは納得していない様子だったが、今後利用されないようにするためには仕方がない。
幸いにもこのことを知っているのは俺の知り合いしかいなかったので、口止めするのも容易かった。
そしてルーナの呪いも後3日で解除され、その後冒険者学校の入学式が控えている。
そう、俺は見事冒険者学校の試験に合格することができた。
クラス分けもすでにされており、知っている顔でいうとリアナはAクラス、ディアナはCクラス、俺とルーナはFクラスとなっている。
強奪者のリーダーを捕らえてからは叙勲式以外には大きな事件もなく、平和な日々を満喫しており、冒険者学校が始まるのを今か今かと待っている。
そんな休日を食堂で過ごしていたある日の午後。
「な、なにこれ!」
大きな声が宿屋エールに木霊する。
なんだ? 今の声はリアナか?
確かリアナは今、マーサちゃんとディアナの3人でルーナの部屋にいるはずだ。
まさか強奪者の残党がいてルーナを殺しに来たのか!
俺は急ぎ階段を駆け上がると2階のルーナの部屋からマーサちゃんが、血相をかえて飛び出してくる。
「ヒイロさん!」
「どうした!? 何があった!?」
「ル、ルーナさんの身体から――」
慌てた様子で俺に話かけてくる。
マーサちゃんがこんなに焦る所を初めて見た。それだけ緊迫した事態なのか。
「ま、魔方陣のような物が現れて!」
魔方陣?
やはり敵の襲撃か!
「わかった。とりあえず俺はルーナの所に行くからマーサちゃんも来てくれ」
「わかりました」
何が起こっているのかわからないから、マーサちゃんはそばにいてもらった方がいいだろう。
俺はマーサちゃんの手を取り、ルーナの部屋へと入る。
すると部屋の中から眩しい光が溢れ、その中心となっているのがルーナであることがわかる。
「ヒイロちゃん!」
「ヒ、ヒイロさん!」
リアナとディアナが救いを求めるような表情でこちらに視線を向ける。
「何があったんだ!」
「わかんないよ! 突然ルーナちゃんが光出して――」
「ヒイロさんはこの現象が何かわからないのですか?」
俺もこんな物は見たことがない。
誰かが攻撃していることを考えて俺は探知魔法を使う。
「【探知魔法】」
魔力の波が俺を中心に拡がっていく。
敵、敵、敵。敵はどこだ。
しかし少なくとも半径300メートル以内にそれらしき人物はいない。
それならとスキル【魔法の真理】でどんな魔法が考えられるか検索してみるが、それらしい物はない。
「ルーナちゃんが!」
リアナの叫び声でルーナの方に目を向けると魔方陣が消え、光が降り注ぐ。
あれ? この光どこかで見たことがあるような。
どこだったかつい最近の出来事で⋯⋯。
「ヒ、ヒイロちゃんからも光が!」
なんだと!
確かにリアナの言うとおり、俺の体もルーナと同じように光輝いている。
そんなバカな。
【探知魔法】は継続して唱え続けているし、何かを食らう様子などまったくなかったはずだ。
光は段々と大きくなり、目が開けられないほど輝きを増し、俺達は目を覆う。
そして光が弾けた。
「くっ!」
「きゃあ!」
「眩しいですわ!」
次に瞳に映ったものは、今までと変わらぬ部屋の光景だった。
「なんだったのですか今のは?」
「特に⋯⋯何も変わっていないね」
ダメージは負っていないし、体に何も変化は⋯⋯ある!
「なんだこれ」
俺は自分の左手を見ると、細いブレスレットのような物がされていた。
こんなもの身につけた覚えはないぞ。
そしてルーナの状態を確認してみると、俺と同じように左手にブレスレットが見える。
「えっ? なんですかこれは? まさかヒイロさんとルーナさんでお揃いの物を身につけているのですか?」
マーサちゃんの指摘通り、確かにお揃いのブレスレットに見える。強いて違いを言うなら俺は金色でルーナは銀色だということだ。
「ほ、本当だ。ルーナちゃん羨ましいな」
リアナがジト目でこちらを見てくる。
いやいや、俺はこんな物を買った覚えもルーナにプレゼントした覚えもないぞ。
とりあえず何だか気味が悪いので、俺は右手でブレスレットを外そうとするが、何故か取り除くことができない。
なん⋯⋯だと⋯⋯。
外れないなんて、まさかこれは呪いのアイテムか!
くそっ! 敵の狙いは、俺とルーナにこれをはめることが目的だったのか。
しばらく平穏が続いていたから完全に油断していた。これは俺のミスだ。
後悔の念に駆られていると、ブレスレットが現れてから言葉を発していなかったディアナがポツリと呟いた。
「⋯⋯主従の腕輪」
主従の腕輪?
「これをわたくしは見たことがありますわ」
なんと! ディアナがこのブレスレットのことを知っていたか。それはありがたい。
「金のブレスレットが主で銀のブレスレットが従者のはずです」
「ということは俺が主になってルーナが従者になるのか」
「そうですわ」
だがこんなことをして何になる。敵の意図がまるで読めない。
「はは、これじゃあ、まるで奴隷の首輪だな」
奴隷? なにか頭に引っ掛かるぞ。それにさっきの光⋯⋯やはり見たことがある気がする。
なんだか神経を張り巡らせて喉が渇いたため、部屋にある水差しに手を伸ばす。一応念のために【鑑定魔法】を使ってこのブレスレットを確認してみるか。
「ぶーっ!」
俺は鑑定の結果を見て、思わず口に含んでいた水を全て吐き出してしまった。
「ちょっときたないよヒイロちゃん」
「ごほっ! ごほっ!」
こ、これって!
ここまで読んで頂きありがとうございます。




