第46話 謎の美少年とミリアリス姫
バレていないと思っているが、バレている時があります。
遠くに山間が見える景観の良い景色を見ながら半日ほど海道を歩くと前方に巨大な壁と城が見えてきた。
おそらくあれがアルスバーン帝国の首都⋯⋯バールシュバインだろう。
メルビアと比べて街を取り囲む壁の高さは2倍、城の高さは3倍の差はあるだろう。
そもそもアルスバーン帝国の領土はメルビアの10倍以上はあるため、その国力の差をまざまざと見せられたようだ。
「とうとうここまで来ましたね。皆さんここまで連れてきて頂きありがとうございます」
ティアが唐突に俺達の方へと頭を下げる。
「何を言ってるんだよ。仲間であるティアのためならアルスバーンに来ることくらいなんてことないさ」
俺の言葉を聞いて仲間達も頷く。
「それにまだ終わってないぞ。同盟を成立するまでは油断できない」
「そうですね。お父様から頂いたこの親書を皇帝にお渡しするまでは油断できません」
とはいえさすがに皇帝のお膝元であるバールシュバインでティアが襲われることはないだろう。今までも色々トラブル巻き込まれたが、全てティアを狙ったものではなかった。もし俺がティアを狙う者だとしたら、ここに来るまでに暗殺する。
後は同盟についてだが、アルスバーン側は賛同することによってデメリットはほぼないだろうから無事に締結されるとは思うが、皇帝がどういう人物か知らないのでまだ何ともいえない。
そして首都バールシュバインへの入口までたどり着くと俺達は門番の兵士に止められる。
「そちらの馬車はどのような用件でバールシュバインに来られたのですか?」
「私はティアリーズ・フォン・メルビア。メルビア王国の第一王女です。国王である父の命令で皇帝陛下への親書をお持ち致しました。皇帝陛下への拝謁をお願いしたいのですが」
ティアはメルビア王国の紋章が推された親書を兵士に見せる。
「こ、これは失礼しました! 城まで我々が御案内させて頂きます」
そして兵士が五人ほど護衛に付き、俺達は城へと向かう。
さて、ここからは念のために探知魔法を使って行こう。何もないとは思うが城には死角が多い。いきなり拘束されたりブスりと剣で刺されたらたまったもんじゃないからな。
俺は護衛らしく辺りを警戒しながら、馬車は城へと進んでいく。
皆アルスバーンの城に圧倒されているのか、はたまた他国だから緊張しているのか口数が少なく、15分程馬車に揺られていると城の前に到着した。
「大きいねえ」
リアナは首を垂直に傾け、アルスバーン帝国の城の感想を述べる。
「そうですね。悔メルビアとは比べ物になりませんね」
ティアは少し悔しそうにリアナの訪いに答える。
離れて見た時もアルスバーン帝国の城は圧巻だったが、近くで見ると威圧感も感じる。これがかつて魔王との戦いで最も魔物を討伐した国というやつか。
兵士の案内で城の中を歩いていると何か声が聞こえてきた。
これは⋯⋯歌か。
距離があるのか微かに聞こえてくるだけだが、とても綺麗で美しい声だということがわかる。
「この歌は?」
ティアも声が気になったのか、兵士にこの歌声について聞いてみる。
「これはミリアリス姫の歌です。とても綺麗な歌声ですよね」
俺は探知魔法で確認してみると確かに城の上階の部屋で歌うミリアリス姫が見えた。
「ルーンフォレスト王国へ行かれる前からよく歌われていて、兵士達も皆癒されています」
正直ちょっと意外だった。ミリアリス姫はどちらかというと引っ込み思案なタイプだと思っていたから、皆の前で歌うとは思えなかったからだ。
人は見かけによらないということか。
俺達は綺麗な音色を聞きながら城の廊下を進んでいった。
「では皆様こちらへお願い致します」
俺達は兵士の案内で一室に案内される。
「それではこの後皇帝陛下が玉座の間にてティアリーズ王女と謁見されますが、護衛の方は⋯⋯」
ここで待てということか。
まあそれは仕方ない。アルスバーン帝国の皇帝陛下にもなると命を狙うやつなど山ほどいそうだからな。
「あなたとあなた⋯⋯御二人はティアリーズ王女の護衛として玉座の間に入ることを許可するとのことです」
兵士が指を指したのは俺とリアナだった。なぜ兵士は⋯⋯アルスバーン帝国は俺達を指名したんだ⁉️
「では準備が出来ましたらお呼び致しますのでそれまでこの部屋で待機していて下さい」
そして兵士達は部屋から出ていき、ここには俺達だけとなった。
探知魔法でこの部屋の周囲で立ち聞きしている者がいないことを確認すると俺達は部屋の中心に集まりひそひそ話をする。
「どういうことだ? 何でヒイロとリアナちゃんがご指名で玉座に入れるんだよ」
俺のことはわからないがリアナに対しては想像がつく。
「勇者だとバレてるな」
「だよな。俺もそれしか思い浮かばねえよ」
リアナは、メルビアにいた時は隠していたためバレていないと思うが、ルーンフォレストにいた頃は勲章をもらったり、公の場に出ていたていたこともあり知っている人がいてもおかしくない。
もしくは俺の探知魔法に気づかれずに鑑定魔法でリアナのステータスを見たかだ。
「わ、私どうすればいいのかな、かな」
「リアナ落ち着け。とりあえず普通に受け答えをしてもいいから。逆に勇者だということを隠している方が、これから同盟を結ぶ相手に対して不信感を持たれるかもしれない」
「う、うん。わかったよ」
リアナは隠し事が苦手だからむしろ勇者として謁見した方がいいかもしれない。
「それより問題は俺の方だ。どうしてアルスバーン帝国は俺を指名してきたのだろう?」
「あれじゃないかな? お兄ちゃんがミリアリス姫を二回助けた仮面の騎士がだってわかってるんじゃないの?」
「そうですね。もしかしたら助けたお礼に報奨がもらえるのでは?」
「ヒイロちゃんすご~い」
女性陣3人はノーテンキな答えを導き出しているがそれはないだろう。
俺はミリアリス姫の小ぶりな胸を見てしまったのだ。もし仮面の騎士が俺だとバレていたら報奨どころか打ち首をされるだろう。
「そ、それはないと思うぞ。うん」
俺が言葉を発した瞬間4人は白い目で俺の方を見てきた。
「今のヒイロちゃんの受け答え変だね」
「何か隠している気がします」
「お兄ちゃん⋯⋯まさかミリアリス姫と何かあったの?」
「そうなのか⁉️ ヒイロてめえ!」
す、鋭い⋯⋯よくわかったな。まあそれだけ仲間としている時間が長くなってきたということか。
「な、何を根拠にそんなことを言うんだ⋯⋯」
「幼なじみの勘だよ」
「奴隷の勘です」
「女の勘かな」
「ヒイロは隠し事をすると必ずどもるという根拠がある」
こ、こいつら⋯⋯だが本当のことを言ったらアルスバーン帝国と仲間から断罪させることは間違いないから言葉にするわけには行かない。
トントン
「失礼します。そろそろお時間になりますので玉座の間へお願い致します」
天の助けだ。
城の兵士が王への謁見のため、俺達3人を呼びに来てくれた。
「よし! いくぞ」
「う、うん」
「わかりました」
さすがに兵士を無視するわけには行かないので、俺とティアとリアナは部屋を出て玉座の間へと向かう。
た、助かった。とりあえずミリアリス姫のことについて時間を稼ぐことができた。後はこのまま忘れてくれるといいのだが。
そして城の廊下を兵士の後に続いて歩いていると思わぬ人物に出会う。
ミ、ミリアリス姫!
みんなにミリアリス姫のことをどう誤魔化すか考えていて、ここに本人がいることを見逃していた!
そして横には黒髪の俺と同じくらいの年齢の美少年がいる。
だ、大丈夫。俺が仮面の騎士だとバレていないはずだ。今俺はティアの護衛⋯⋯特に話す必要もないし頭を下げて通ればいい。
俺は緊張しながらミリアリス姫の元へと近づく。
「あっ! これはミリアリス姫に⋯⋯」
兵士がミリアリス姫の方に敬礼をしようとするが横にいた美少年がその行為を遮る。
ん? 兵士の敬礼を止めるとなるとこの美少年はミリアリス姫より上か同じくらいの地位を持っているということになる。
そうなるとこの美少年は⋯⋯。
「お前達は少し席を外してくれないか?」
美少年が命令すると兵士達はこの場からいなくなった。
「あなたがメルビアのティアリーズ姫ですね」
そして美少年はティアに話しかけてくる。
「そうです。私はティアリーズ・フォン・メルビアと申します」
ティアはスカートの裾を掴み、優雅に挨拶をした。
「あなた達は⋯⋯」
「私は⋯⋯まあ私のことは後でわかると思いますので今は秘密にしておきましょう」
一国の姫が挨拶したのに名前を教えないとは余程の地位を持っているか、かなりの変わり者か、はたまた両方か。
「わかりました。あなたの正体は楽しみに取っておきましょう」
おそらくティアもその正体に気づいているので、あえて美少年の話しに乗るようだ。
「それと⋯⋯ティアリーズ姫。そちらの強そうな2人も紹介してくれないか」
俺達も⋯⋯だと⋯⋯。
なぜ俺達の名前を聞きたがる。こいつは俺達の正体に気づいているのか⁉️
美少年がまずはリアナの方に視線を向けた。
「勇者のリアナです」
リアナは先程言ったように勇者ということを隠さず美少年に告げる。
「よろしくリアナさん」
美少年が右手を差し出して来たのでリアナは慌ててその手を取り握手する。
何だ? 俺は今の一連の流れに違和感を感じた。普通の挨拶だったが何か⋯⋯。
しかし考える暇もなく美少年がこちらを向いたため、俺は挨拶をする。
「ティアリーズ姫の護衛をしていますヒイロと申します」
握手をするために右手を差し出すが、美少年はニヤリと笑いながら俺の手を取って来た。
そして美少年の隣にいたミリアリス姫の顔がいきなり赤くなる。
えっ? 何? ミリアリス姫ってひょっとして男同士の絡みとか大好きな人種なの?
だが俺の考えは見当違いだということを美少年が教えてくれた。
「会いたかったぞ⋯⋯仮面の騎士」
ここまで読んで頂きありがとうございます。




