第28話 ヒイロVS砦の盗賊
悪人は生かしておいても同じ過ちをおかす可能性が高いです。
俺は階段を駆け上がりながら探知魔法で再度盗賊の位置を確認する。
相変わらず村人達からの襲撃がないと思っているのか油断しきっている|。
そう先程ウルトさんや子供達に盗賊達がこちらに向かってきているというのはうそだ。
なぜそんなうそをついたかだって?
それは盗賊達を皆殺しにするためだ。地下牢に来る時に聞いた盗賊達の言葉⋯⋯奴らはボルチ村の人々から食糧も金も女性も全て奪うつもりだ。そんな奴らを生かしておくつもりはない。だが盗賊を殺す場面を子供達に見せるわけにはいかないので、地下牢で待ってもらうことを選択した。
さて、時間がかかればそれだけ子供達が不安に思うだろう。とっとと片付けて村まで返してあげないとな。
俺は中庭へと続く階段を上がりながら異空間から翼の剣を取り出し、全速力で盗賊達の所へと向かう。
盗賊達は3つの場所にいる。見張りをしているのか正門に3人、裏門に2人、後は砦の中央にある大広間のような所に15人。
「まずは正門から行くか」
俺は飛翔魔法で降り立った場所から正門の真上に移動し、上から盗賊達を確認する。
「早く村へ行った奴ら戻ってこねえかなあ」
「どうせ誰もいねえし、見張りなんて暇すぎるだろ」
「俺は寝てるから誰か来たら起こしてくれ」
正門にいる3人の盗賊はこれでもかというくらい気が緩んでいたため、俺は一気に砦の上から飛び降り、翼の剣で盗賊達の首を斬る。
「そんなに寝たいなら地獄で永遠に眠るがいい」
盗賊達は声を上げる暇もなく、斬られた首から血飛沫を上げ、地面に倒れる。
後で子供達に首を斬られた盗賊達を見せるわけにはいかないので、俺は魔法を唱える。
「【火炎魔法】」
俺の掌から放たれた炎の塊が生き絶えた盗賊達に放たれ、その存在を消し炭へと変える。
これならここに人がいたなんて誰も思うことはないだろう。
「次は裏門だ」
俺は飛翔魔法を使い、次は上空から裏門へと向かった。
「油断しすぎだろ」
砦の裏門に到着すると探知魔法で見た2人の盗賊は、壁に寄りかかって眠っていた。
子供という人質がいるからなのか、それとも村人達が従順して女を3人よこすと言ってきたからなのかわからないが、正門にいた盗賊達と同様隙だらけだ。
こんな奴らに剣を使うのはもったいない。このまま燃やしてやる。
「【火炎魔法】」
「ん? も、燃えてる! ぎゃぁぁぁ!」
「な、なんだ⁉️」
先程と同じ様に火炎魔法を放つと、盗賊達は意識を取り戻した瞬間消し炭になった。
寝て起きたら燃やされる。正直こんな死に方は残酷だと思うが、人から物を奪うことを生業としている盗賊には同情の気持ちは沸いてこない。
後は大広間にいる奴らを始末すれば終わりだ。
俺は急ぎ砦の中央にある大広間へと向かった。
見張りと言えるかどうかわからないが、正門と裏門にいた奴ら以外は、大広間にて酒盛りしている。ただ大広間と言っても10メートル四方くらいしかなくそんなに大きな部屋ではない。
そして大広間のドアは開きっぱなしで、盗賊達は村から来る女3人を今か今かと待ちわびているように見えた。
ちょっと中の様子を探ってみるか。
俺はドアの陰から大広間にいる奴らを覗き見る。
「それにしても頭の発想はすげえや」
奥に座っている左目に眼帯を着けてる盗賊が、上座に座っている髭を生やした悪人ずらの奴に話しかけている。
「そうだろう。盗賊とはいえ色々な場所に移動するのは大変だからな」
「最初はガキを拐ってくると聞いたときは身代金目的かと思いましたよ」
「身代金なんか一回頂いたら終わりだ。だがガキどもを人質に取っておけば、定期的に金や食糧⋯⋯そして女を手に入れることができるからな。ガッハッハッハ!」
盗賊達の下品な笑い声が辺りに響き渡る。
なるほど⋯⋯あいつが頭か。念のため鑑定魔法で能力を確認しておくか。
名前:ガジル
性別:男
種族:人間
紋章:短剣にバンダナ
レベル:13
HP:102
MP:32
力:D-
魔力:E
素早さ:C-
知性:D
運:E
う~ん⋯⋯弱い。頭がこの能力なら他の奴らも大したことなさそうだな。
「だけどもし村人が裏切って兵士や冒険者どもを連れてきたらどうするつもりだったんですか?」
「その時はガキどもを人質に取って逃げればいいだけだ。そのために見張りも立てている」
残念ながらその見張りは死の世界に旅立っているけどな。
「そんなことより頭⋯⋯女に飽きたらこっちにも回してくださいよ」
スキンヘッドの大柄な男が下衆な笑みを浮かべて、ガジルに酒を注ぐ。
「それは俺が飽きたらな。ガーッハッハッ!」
これ以上話しを聞いていても胸くそ悪くなるだけだ。
俺は堂々と大広間に入り扉を閉めると盗賊達は俺の存在に気づき、武器を手に取り臨戦態勢に入る。
「誰だてめえは!」
「お前達に名乗る名前はない」
盗賊達は始めこそ用心していたが、俺が若造だと判断したからなのかガジルは警戒心を弱め、話しかけてくる。
「何だガキじゃねえか⋯⋯てめえどっから来やがった。入口には見張りがいただろ」
「ああ、正門と裏門にいた奴らは寝ているよ」
永遠にだけどな。
「ちっ! あいつら! 後で罰を与えねえとな」
ガジルは何を思ったのか、まだ見張りの盗賊が生きていると勘違いし始めた。
まあ訂正するのもめんどくさいから特に指摘はしないけど。
「村人からガキどもを助けるよう言われたのか?」
「⋯⋯」
「てめえもまだ乳が飲みたい年頃に見えるけどな」
ガジルの言葉に盗賊達が笑いだす。
「さっきから黙りやがって⋯⋯何とか言ったらどうだ!」
「死にゆく者に言う言葉などない」
俺の返答に腹が立ったのか、ガジルの顔が真っ赤になっていく。
「おいてめえら! このスカしたガキをぶっ殺せ!」
「「「へい!」」」
盗賊達がガジルの命令によって一斉にこちらへと向かってくる。
だが俺の仕込みを既に終わっている。
俺は右手に込めた魔力を解き放つ。
【火炎弾魔法】
手の中から生まれた炎の弾が、一直線にガジルへと向かう。
「ちょっと待て! こんな狭い部屋で【火炎弾魔法】を使えば、お前もただじゃすまねえぞ!」
【火炎弾魔法】見たからか、盗賊達は全員身を隠そうとする。
普通ならこの閉じられた部屋で火炎魔法を使えば逃げ場がなく、術者もろとも吹き飛ばされるが俺には関係ない。
「今までの悪行を悔いながら焼け死ね⋯⋯「【転移魔法】」」
「なっ!」
ガジルの声が一瞬聞こえたが、俺は転移魔法で中庭へと移動した。するとどこからか激しい爆発音が聞こえたため、俺は大広間に戻ると、そこには焼け焦げた盗賊達の死体しか見当たらなかった。
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