第9話 脳内勇者VS魔王
会心の一撃。
敵にだけは使ってほしくないです。
俺とルーナは201号室に入る。
2人とも顔を赤くしているため、その姿はまるで、恋人達が初めて同じ部屋に泊まるかのように見えた。
部屋には1つのベットとソファーがある。
「とりあえず座ろうか」
ルーナはベットの方にちょこんと座った。
ソファーじゃなくてベット⋯⋯だと⋯⋯!
これは俺を誘っている? それとも俺が信用できる男か試しているのか。
くそっ! ルーナはとんだ小悪魔だ。
俺の中の勇者と魔王が戦い始める。
勇者:彼女はあなたを信じているからこそ、1人で部屋の中に入ったのです。
魔王:何言ってんだよ。部屋の中で男と女が二人っきり、犯るためにきたんだ。空気読めよ。
勇者:彼女にさっき言った言葉を思い出しなさい。友達と言ったじゃないですか。
魔王:そんなことは関係ねえ。友達だろうがなんだろうがチャンスは最大限にいかせ。
勇者:魔王、あなたとは決着をつけた方がいいみたいですね。
魔王:やんのか!
勇者
レベル:25
HP:382
MP:162
力:S
魔力:B
素早さ:A
運:SS
魔王
レベル:18
HP:241
MP:281
力:B
魔力:A
素早さ:B
運:C
勇者と比べて魔王は弱くないか。
魔王が現れた。
勇者の攻撃。
魔王に100のダメージを与えた。
魔王は魔法を唱えた。
【煉獄魔法インフェルノ】
地獄の業火が勇者を襲う。
勇者は326のダメージを受けた。
これは魔王が勝ちそうだな。
勇者の攻撃
会心の一撃!
魔王に356のダメージを与えた。
魔王をたおした。
そんなバカな!
残念ながら勇者が勝ったようだ。
俺は戦いの結果に従って、紳士にいくと決める。
「私、ヒイロくんのことをもっと知りたいです」
「えっ?」
「私の知らないことを教えて」
それって、まさか恋人同士がすることですか!
相手からくる場合は仕方ないよね。
俺は全てを受け入れる覚悟をする。
「ヒイロくんが、どうして魔法を使えるようになったか知りたいです。そしてそんな強力な魔法が使える理由を教えて下さい」
ですよね。
最初からわかっていましたよ。こんな落ちになることを。
今日会ったばかりの俺と、そんな関係になるはずないよな。
そんなことになったら、ルーナの清楚なイメージが崩れてしまいそうだ。
「黙っているということは、答えづらいこと何ですか」
ルーナが申し訳なさそうな顔をする。
余計なことを考えていたせいで、誤解させてしまったようだ。
「いや、大丈夫だよ。ただ良くわからない部分もあるから、わかる範囲でいいなら」
「それで構いません」
ルーナは佇まいを正し、背筋を伸ばす。
「強力な魔法を使える理由だけど、この【門と翼の紋章】のおかげなんだ」
俺は左手の甲にある紋章をルーナに見せる。
「なんの職かわからないけど、成人の義で紋章を授かった時に、【魔法の真理】というスキルをもらって――」
「【魔法の真理】? どんなスキルでしょうか?」
「MPと魔力があれば、全ての魔法を使うことができるスキルだ」
「えっ? 全ての魔法を?」
「うん」
「それでは、私の胸の傷を治療して下さったのも」
「⋯⋯俺の魔法だ」
ルーナは瞳から涙を流しながら、俺の手を取り言葉を紡ぐ。
「やっぱりヒイロさんが私を救って下さったのですね」
「もう少し早く魔法が使えたら、痛い思いをさせずに済んだのに⋯⋯ごめんな」
「いいえ! ヒイロさんが助けてくれたから、私は今ここにいるんです」
ルーナは距離を詰めてきて、俺の両手を握る。
「あの時私を救って下さってありがとうございます」
お礼の言葉を口にして感極まったのか、ルーナが俺の胸に飛び込んで、抱きしめてくる。
ルーナの体から、俺に対する感謝の気持ちを感じた。
しばらく抱きしめ合っていたが、これはどうすればいいのだろう。
ルーナの首元を見てみるが、真っ赤に染まっていた。
これは、ルーナもどうすればいいのかわからなくて動けなくなったのかな。
残念だけど、俺はルーナの頭をポンポンと叩いて、体を離す。
「ご、ごめんなさい。私ったらはしたない」
「いいよ。俺も役得だったし――」
ルーナみたいな可愛い娘に抱きしめてもらえるのは、大歓迎だ。
「それで魔法が使えなかった理由だけど、2年前にちょっと強い人と戦って、その時に未来を犠牲にする魔法【未来終魔法】を使ったんだ」
その相手が元魔王と言ったら腰を抜かすだろうな。
「未来を犠牲に? どういうことでしょうか」
「未来に使えるはずの力や魔力を先取りすることによって、一定期間その凝縮した力を使用することができるけど、代償として2年間、身体能力と魔力が低下するんだ」
「そんな魔法、私は聞いたことないです」
「そして記憶喪失になって、その事を忘れていたけど、今日が2年目だったから力を取り戻して、全てを思い出したんだ」
本当に危なかった。魔法が使えるのが後数秒遅かったら、俺達は確実に死んでいただろう。
「私が魔法を使えなくなった原因とは、違いそうですね」
俺の場合は紋章が特殊だから、ルーナの件とは同じじゃないだろう。
「有名な先生に見てもらうこともできないし、私が魔法を使えるようになるのは当分先になっちゃいました」
ルーナは自虐気味に話す。
金貨20枚はどこにいったかわからないから、その先生に診てもらうのは不可能だろう。
だけど俺の力が戻って、魔力が高くなったせいか、ルーナから変な波動を感じるんだよな。
「ルーナ、金貨を今すぐ取り戻すのは厳しいけど――」
「そうだよね。いくらヒイロくんでも無理だよね」
ルーナは下を向いて落ち込んでしまった。
「魔法が使えない原因はわかるかも」
「えっ!」
ルーナは顔を上げて、真っ直ぐな瞳で俺を見つめる。
「ほ、本当にわかるの!」
「魔法で確認しないとわからないけど」
ルーナの顔が俺に迫ってくる。後10センチ近ければキスしてしまいそうだ。
「と、とりあえず落ち着いて」
俺はルーナの肩に手を置き軽く押し返す。
「す、すみません。原因がわかるかもしれないと思ったらつい――」
その気持ちはわかる。
俺も魔法を使えるようになった時はうれしかったから、今度はその喜びをルーナに味わってほしい。
俺はルーナの願いを叶えるため、左の手のひらに魔力を集中させた。




