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第6話 自分の命、ルーナの命

死へのカウントダウンと聞くと世紀末に戦っていたあの人を思い出します。

「よくも、サジを! お前はぜってえ殺す!」


 奴隷商人は仲間が殺されて、怒り心頭のようだ。


「頼む兄貴俺にこいつを殺らせてくれ!」

「ちっ! 感情的になりやがって。早くけりをつけろよ」


 厳つい男のことは、サジと言うのか。だがもう死んでしまっているので、名前を聞いても意味はない。


「てめえ、ただで死ねると思うなよ」


 奴隷商人は鋭い目で睨みつけてくる。

 おお怖。今にも人が殺せそうな目つきだな。

 俺は距離を取り、様子を伺っていたが、突然奴隷商人が右腕を振り下ろしてきた。


 ビシッ!


 俺の頬に何かが当たり、ダメージを受ける。

 今のはなんだ? 奴隷商人との間合いは十分に取っていたはずなのに。


 俺は奴隷商人の右手を凝視すると、縄のような物が見えた。

 これは鞭だ。

 鞭による攻撃は中距離に長けていて、軌道が読みにくい。

 しかし懐に入れば短剣を持つこちらの方が有利になるが、俺はこの距離を保つ。

 なぜなら鞭の攻撃は食らいやすいが、致命傷にはならないのと、元々のステータス値に差があるので、不用意に近づくと殺られる可能性があるからだ。

 俺としてはこのまま時間を稼いで、街から衛兵が来るのを待ちたい。


 奴隷商人は、右に左にと縦横無尽に鞭を振るってくる。

 俺は何とかかわそうとするが、暗闇で視界が悪いこともあり、避けることができず、体の至るところに傷ができる。


「中々しぶといな。だがサジの分までお前を嬲り殺してやる」

 

 どうやら奴隷商人は、俺を痛みつけてから殺すのをご所望のようだ。

 いいぞ。このまま時間かけてくれるのが俺の望む展開だ。

 鞭で攻撃された所からは激痛が走るが、殺されるよりはいい。

 俺は歯を食いしばって痛みに堪える。


 奴隷商人は、頭に血が登って冷静な判断ができていないのか、鞭の軌道が単調になってきた。

 これならあまり攻撃を受けずに済みそうだ。

 俺は顔を狙ってきた攻撃を、右に転がってかわす。

 しかしかわした先に盗賊が待ち構えていて、俺に向かって短剣を付き出してくる。

 不意を突かれたこともあり、短剣が左肩を貫通してしまう。


「ぐっ!」

「ヒイロくん!」


 ルーナから悲鳴のような声が発せられる。


「兄貴。俺に殺らせてくれるんじゃないんですか」


 突然の乱入に奴隷商人が抗議する。


「こいつの狙いがわかった。時間を稼いでいるんだ。さっきから防御に徹して自分から攻撃にいってねえ」


 ちっ! 気づかれたか!


「ただこいつが俺に、手も足も出ないだけじゃねえんですか」

「だからお前はバカなんだ。街の方を見てみろ」


 ラームの方からいくつも明かりがこちらに向かってきている。

 俺は自分が持っている小型のランタンに明かりを灯す。


「へへっ、これで街の衛兵が、この明かりを目指してこっちに向かってくるぞ」

「こいつ余計なことを!」


 奴隷商人の鞭によって、俺のランタンは壊されてしまう。

 しかし、もう遅い。


「あ、兄貴。どうしますか」

「ちっ! 仕方ねえ。依頼だけでもこなすぞ」


 盗賊は短剣を持ってルーナの元へ向かう。

 まずい! 奴隷商人の命令でルーナは動けないんだ。

 俺は急いでルーナの元へ向かうが、ケガをしている影響もあり、盗賊の方が早くたどり着いてしまった。


「動くな! 動くとこの娘の土手っ腹を刺すぞ」


 ルーナは今、動くことができない。そんなことをされたら確実にあの世行きだ。


「いやっ!」


 俺は盗賊の命令に従って歩みを止める。

 くそっ! このままではルーナが殺されてしまう。動けないのをいいことにそのまま刺すつもりか。


 しかし盗賊は、俺の予想とは違う行動に出た。

 自分が持っている短剣をルーナに渡し、俺に向かって命令する。


「お前はそのまま動くな。もし動いたらこの娘は、自分に短剣を刺すことになるぞ」

「なんだと!」

「えっ?」


 俺とルーナは盗賊の言葉を聞いて驚愕する。


「お前のせいでこの娘と犯りそこねたんだ! その責任を取って貴様には死んでもらう」

「きたないぞ!」

「お前は随分綺麗な世界で生きてきたんだな。俺にとってこんなことは、日常茶飯事だぞ」


 まずい。動けばルーナが殺される、動かないと俺が殺される。

 その二択はどちらを選んでも、地獄だ。


 盗賊が新しく出した短剣を持ち、歩いて近づいてくる。

 俺には盗賊の一歩一歩が、死神からのカウントダウンのように見えた。


「嫌だ! やめてえ!」


 残り5メートル。


「私のことはいいから逃げて!」


 残り3メートル。


「殺すなら私にして!」


 残り1メートル。


「ダメェェェ!」


 ダメだ。俺にはルーナを見捨てることはできない。

 俺が動くことによってルーナが死んだら、一生自分を許せないだろう。

 動いても動かなくても殺されるなら、少しでもルーナが長く生きられるように俺は盗賊の短剣を食らう覚悟をする。

 最後に、自分より他人を優先するリアナみたいな娘に会えて良かったよ。

 願わくば俺の命で救われてほしいが、どうやら厳しそうだ。

 街の方から向かってくる光は、先ほどと比べてだいぶ近くになったが、俺やルーナが殺されるまでには間に合わないだろう。


 最後にもう一度リアナに会いたかったな。


 残り0メートル。


 ブシュッ!


 無情にも盗賊の短剣が胸に突き刺さり、大量の出血と共に、俺は地面に崩れ落ちた。



 ルーナside


「いやぁぁぁ!」


 ルーナの悲鳴がこの場に鳴り響く。


 しかし、そんな二人を見ても盗賊達は顔色一つ変えず、次の行動に出る。


「兄貴! 街から灯りがどんどん近づいてますぜ」

「どうやら、今の悲鳴が聞こえたみたいだな」

「どうしますか」

「とりあえずこの娘が死ぬように命令しろ」

「わかりやした」


 ヒイロくんが私のせいで死んでしまった。

 そして私にも死神の手が迫ってきている。

 私は、自分だけが助かるわけにはいかないと、一瞬死ぬ思いにかられたけど、せっかくヒイロくんが護ってくれた命、簡単には死ねない。


「お願い私の手。動け動け動いてよ!」


 自分の持てる力を全て使って、奴隷の制約に抗う。


 しかし何をしても、私の手は言うことを聞いてくれない。


 そして最後の時が来た。


「ルーナよ。自分で短剣を胸に突き刺せ」


 奴隷商人の命令によって、私の意思とは関係なく腕が動く。


「止まってぇ!」


 しかし私の願いも空しく、短剣が胸に突き刺さる。


 ブシュッ!


 私の胸から鮮血が飛び散り、赤く染め上げた地面に私は倒れた。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

新作の「空気のような存在と言われた俺が、空気の加護を使って、世界の空気を変える」を出していますので下記のランキングタグをクリックして読んで頂けると嬉しいです。

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お読みいただき有難うございます!
狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか! スキル創造を使って俺はこの世界を謳歌する~
新作連載中です!
気に入ってくれた方はブックマーク評価感想をいただけると嬉しいです cont_access.php?citi_cont_id=123384204&s
― 新着の感想 ―
[一言] ヒイロ、ルーナ……。死んでしまうのかよ……。 なあ、リアナとの約束はどうするんだ? このままくたばるなんて、オレは許さないぞ……!
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