第9話 魔族の要求
テロに屈しては聞けない。魔族に屈してはいけない。
ルーンフォレスト王国玉座の間にて
「ヴィルド王に死なれてしまったらこの国はもう⋯⋯」
「これからどうする? 勇者パーティーもいないから、このままだと死ぬのを待つだけだぞ」
「それだったら逃げるしかないだろ」
「あの包囲網は見ていないのか? 街の外に出た瞬間殺されるぞ」
ルーンフォレスト王国の重臣達は戦う覚悟もなく、民のことも考えず、自分の保身のことしか考えていない。
「そういえばエリオット様はどうした?」
「侍女に確認した所、体調が悪いのかベットで寝ているようだ」
「こんな時にか! こんな時こそ我等を導いてくれなくてどうする」
そして批判の種が、自分達の無能さではなく、エリオット王子へと向けられる。
「その皆を導く役目⋯⋯私に任せてもらえないか」
重臣達の言葉を聞いていたのか、ランフォース王子はタイミング良く玉座の間に戻ってきた。
「導く役目とはどういうことですかな⋯⋯ランフォース王子」
数少ない有能な重臣が、ランフォース王子に問いかける。
「言葉通りの意味だ⋯⋯私が王となってこの未曾有の危機を救ってやると言っている⋯⋯王が亡き今、文官である兄上に、この難局を乗り切れると思うか?」
「そ、それは⋯⋯」
「新たな魔王軍も設立され、今この国に必要な者は武を持った王だ」
ランフォースの言葉に皆黙り込んでしまう。
本来なら第1王子であるエリオットが王に就くべきだが、エリオットではこの危機を乗り越えられないと重臣達はわかっているからだ。
「異論はないようだな⋯⋯ではたった今からこの私がルーンフォレストの王となる。必ずこの窮地を脱してみせる! 皆私に忠誠を誓え!」
「はっ!」
こうして暫定的ではあるが、ランフォースがルーンフォレスト王国を掌握することとなった。
「それでランフォース王、これからどうすればよろしいでしょうか」
クルド大臣が率先してランフォースのことを王と呼ぶ。
「うむ、敵は東西南北に魔物を配置してから、動きを見せておらぬ。この軍勢差⋯⋯普通であれば、直ちに攻め込んで来てもおかしくないが、それをしてこないとなると何か要求、又は交渉を考えているのではないか」
魔物が? バカな。奴らにそんな知性はないと重臣達が考えたその時。
王都の上空で巨大何かが写し出された。
リアナside
ヒイロ達と別れた後、リアナ達は喫茶店で食事を取っていた。
「あ~あ⋯⋯私もヒイロちゃんに付いていけば良かったかな、かな」
ルーナとマーサが我慢して言葉にしなかったことを、リアナが口にしたため、2人も同じ思いに駆られてくる。
「やはりあの時、奴隷として付いていけば良かったです」
「2人共ずるいです。私だって宿屋のお手伝いがなかったら皆に黙って付いていく⋯⋯いえなんでもありません」
そして3人の中で、誰が行くとか、ヒイロが心配だとかの話が始まり出す。
「ねえナンパ男。みんなまたあの変態ロリエロ男に付いていくとか言い始め⋯⋯てっ! 何であんた泣いてるの⁉️」
隣に座るグレイに視線を向けると、大量の涙を流している姿が見えた。
「ラナちゃん⋯⋯俺は今猛烈に感動してる!」
「な、なにあんた頭大丈夫? 前から思っていたけど1度病院に行った方がいいんじゃない?」
訳がわからない行動を起こすグレイに対して、ラナは辛辣な言葉を浴びせる。
「美人で⋯⋯可愛い娘達と喫茶店⋯⋯しかも男は俺1人⋯⋯俺の待ち望んでいた展開がついに来たんだ⋯⋯ああ神様⋯⋯ありがとうございます⋯⋯生きてて良かった」
ラナはバカなことを言い出したグレイに頭を抱える。そしてこんな奴にリアナやルーナのことを頼んだヒイロのことが理解できないと改めて思い始める。
リアナ達はヒイロの話ばかり、そしてグレイは1人涙に打ち震えている。
もう私帰ろうかしらと考え始めたその時。
「助けて!」
「どけどけ! 俺様が先だ!」
「魔物の大群が攻めてきたぞ!」
突如東門の方から、多くの人が走ってこちらに向かってきた。
「何? どうしたの?」
いち早くラナが店を出て、住民達が逃げてくる方向を確認すると、ゴゴゴという音と共に東門が閉まる様が見えた。
「ラナちゃん! 一体何があったの?」
リアナが慌てた様子でラナに質問する。
「あれを見て」
そう言ってラナはヒイロが旅立って行った東門を指で差した。
「えっ? 門が閉まってる? 何で?」
「また魔物が来たのですか」
誰かに聞こうにも皆パニックになって、とても教えてもらえる状況じゃない。
そんな中グレイは、老人や子供を押し退けて逃げようとしている、中年の男の首根っこを掴む。
「おいあんた! そんな逃げ方だと周りが怪我するぜ」
「うるせえ! 離せ! って動かねえ」
職が遊び人とはいえ、グレイのステータスは並みではないため、一般人が振りほどけるわけがない。
「何があった? 教えてくれれば離してやるよ」
グレイは少し威圧感を込めて中年の男に問いかける。
「あ、ああ⋯⋯わかった、話す⋯⋯だからそんな目で見ないでくれ」
中年男の言葉に従って、プレッシャーをかけるのを止める。
「お、俺も詳しくはわからねえけど、魔物の大群が攻めて来たんだ⋯⋯しかも前回襲撃があった時の倍以上の数らしいぜ」
「魔物の大群だと!」
魔物が攻めてきた、しかも前回の倍⋯⋯その話を聞いてグレイへ思わず声を荒げてしまう。
「な、なあもういいか、早く逃げないと死んじまう」
「行っていいぜ」
グレイが手を離すと、中年の男は一目散に駆け出していった。
「さすがグレイさん」
「私ではあのような訊き方はできません」
「たまには役に立つのね」
女性陣は、多少力業ではあったが、早急に情報を仕入れたグレイの行動力に称賛する。
「だが急いでいたようだし、本当のことかはわからねえ。もう少し聞いてみたいが」
グレイは他の人にも状況を聞こうと思い、次のターゲットを探す。
すると思いもよらない所から情報が降りてきた。
「皆、上を見て」
「人? いえあれは魔族よ」
「何で空にあんなものが映っているの」
突然空に1人の老人の魔族が映り、ルーンフォレスト王国にいる全ての住民が天を見上げる。
「我はボルデラ⋯⋯魔導軍団団長ボルデラじゃ」
ボルデラの言葉により、改めて魔王軍が攻めて来たことに民達は恐怖する。
「現在ルーンフォレスト王国は、6000の忠実な部下達の手によって完全に包囲されている」
「ろ、6000⋯⋯だと⋯⋯」
「このまま安易に滅ぼすことは可能だが、1つ助かる道を授けよう」
どうせろくなことではないと、この場にいる全員がそう考える。
「我からの要求は1つ⋯⋯1時間以内に勇者を差し出せ! さもないとルーンフォレスト王国の歴史は今日で終わることとなる」
勇者を差し出せ⋯⋯ボルデラが出したその要求は、王都にいる全ての者達が知ることとなった。
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