第14 終わる世界
隠し事はいつまでも隠しておけません。
「【氷柱槍魔法】」
シスターは再度魔法を唱え、俺を殺そうと氷柱を放ってくる。
しかし今回は体勢が整っているため、俺は模擬戦の時に使用した剣で、氷柱を打ち落とす。
「くっ! 味な真似を!」
シスターは唇を噛みながら悔しそうな表情をする。
「ちょっと待って下さいよ! ラームの街にいたシスターでしょ!」
そう。俺を攻撃してきたは、以前俺とルーナの【聖約】を結んだ、ラームの教会にいたシスターだった。
「あれほど言ったのに! なぜそのようなことになっているのですか!」
「俺を殺す気ですか! ルーナも止めてくれ」
「殺す気ですがそれが何か?」
や、やばい。このままだと本当に殺られる。
かと言って、さすがに魔法を使うわけにはいかない。
ベイル戦は体術で実力を見せて、今度は魔法まで使ったら、いくらなんでもおかしいと思われる。
だからこのままかわし続けるしかない。
だが懸念すべきことは、なぜシスターが攻撃を仕掛けてきたのか。
1番考えられるのは、ルーナを奴隷にしたことが、バレてるということだ。
俺はチラッとルーナの左手に視線を向けるが、【主従の腕輪】は見えない。認識阻害魔法の効果が切れたわけじゃなさそうだ。
考えている間も、次から次へと氷系の魔法が飛んでくる。
「【氷槍魔法】」
いくつもの氷の槍が俺の頭の横を通りすぎる。
さっきから心臓や頭を狙って魔法が放たれていないか?
これ当たったらまじで死ぬぞ。
しかも俺がかわした魔法が、学生達を襲い、背後では「ぎゃあ!」、「ひぃ!」、「助けて下さい!」など阿鼻叫喚の絵図が出来上がっていた。
と、とりあえずシスターの能力を確認するため、俺は急ぎ鑑定魔法かける。
名前:フィオラ
性別:女
種族:エルフ
紋章:十字架と拳
レベル:43
HP:1122
MP:532
力:A-
魔力:B
素早さ:B+
知性:B-
運:B-
な、なんだこれは!
中々洒落にならない能力が表示されている。
十字架と拳の紋章はバトルシスター、上級職の紋章だ。
「ちっ! このままでは埒があきません」
フィオラさんはダッシュをかけて、こちらに近づいてくる。
どうやら接近戦で俺に止めを刺すつもりだ。
何とかやめさせたいが、もし襲ってくる理由を聞いて、ルーナを奴隷にしたからなんて皆の前で言われた日には、俺の冒険者学校生活が終わってしまう。それだけは何としてでも避けたい。
しかし俺の思惑とは裏腹に、ルーナがフィオラさんに向かって言葉を発する。
「シスター! なぜヒイロくんを襲うようなことをするのですか」
ル、ルーナさん⋯⋯止めてくれとは言ったけどそれを聞いちゃダメでしょ。
「そのようなこと、貴女が1番わかっているのでは」
やばい! これはルーナを奴隷にしたのがバレてるっぽいぞ。
「そ、それは⋯⋯」
ルーナはその言葉に動揺を見せる。
このままだと、奴隷の件が話されてしまう。しかし今のは俺には、フィオラさんを止める術がない。
「だって貴女はこの男の⋯⋯」
や、やめろ! やめてくれぇぇぇぇ!
「奴隷にされたじゃない!」
お、終わった⋯⋯全てが終わった。
「奴隷? ヒイロ⋯⋯奴隷ってどういうことだ」
ここにいる全員の目が俺の方へと向く。
その瞳は疑念に満ち溢れ、とても同じ学年の仲間を見る目ではなかった。
どうする⋯⋯どうする俺。
フィオラさんが言っていることは憶測に過ぎず、証拠がない。
もし認めてしまったら覆すことは2度と出来ない。そして俺はこれから同学年の女の子を奴隷にする最低野郎というレッテルを貼られてしまう。
考えろ! 考えるんだ! 今こそ知性Aのステータスを発揮する時じゃないか。
「シスター⋯⋯何を仰っているかわかりません。奴隷? 【主従の腕輪】だってないですよね」
俺はこの場にいる全員が見えるように、左腕を天高く掲げる。
「た、確かにそうだ⋯⋯奴隷の場合2種類あり、1つは奴隷商人のスキルで、奴隷の首輪をつける場合、そしてもう1つは【聖約】が破られた場合だ⋯⋯だが、ヒイロにもルーナさんにもそのような首輪や腕輪が見られない」
以前ネネ先生の職業を当てる際、奴隷商人と言ったサンジが詳しく答えてくれる。
「確かにそんなものは見当たらないなあ」
「平民のヒイロが奴隷を持つ? ありえないだろ」
「もし同学年の女の子を奴隷にするようなら、最低の鬼畜野郎ですね」
いいぞ。1つ不穏な意見があったが、概ね奴隷なんて出来ないだろうという意見だ。
「どうしてシスターは、そんなひどいことを言うのですか」
俺の言葉にシスターは口をつぐむ。
これはやはり予想で言ってきたのか。俺はシスターの様子を見て、ルーナを奴隷にしたことがバレていないと安堵する。
さあ、ここからどう出るシスター。
「い⋯⋯た⋯⋯か⋯⋯」
シスターが何かを呟いているが、声が小さくてよく聞こえない。
「いいた⋯⋯こと⋯⋯すか⋯⋯」
段々と言葉が聞こえてくる。
「言いたいことはそれだけですか! 「【輝細氷魔法】」
シスターが魔法を唱えると、空気中の水蒸気が細氷となり、辺り一面を氷の世界へと変える。
「ひぃ!」
氷系の広範囲に及ぶ上級魔法が放たれ、俺は思わず声を上げてしまう。
これを避けるのは不可能だ。
俺の身体に細氷が降り注ぎ、次第に手足が動かなくなっていく。
やばい! これは本当に死んでしまう。
何とかしたいけど魔法を使うことが出来ないので、どうすることもできない。
「死ん⋯⋯じゃ⋯⋯う⋯⋯」
「助⋯⋯けて⋯⋯」
「美人の⋯⋯シスター⋯⋯に殺される⋯⋯なら⋯⋯本望だ⋯⋯」
グレイはともかく、このままだと皆まで死んでしまう。
俺は右手に魔力を集め、魔法を使うことを決意する。
しかし突如、細氷の吹雪が消え、多くの人間の命が助かる。
「危うくヒイロさん以外の方も殺してしまうところでした」
今の言い方からすると、やはりフィオラさんは俺を殺す気にだったようだ。
そしてフィオラさんはゆっくりと俺の方へ向かってくる。
クラスメート達は助かったかもしれないけど、俺の命は風前の灯だ。
しかし寒さで身体の動きが鈍い。このまま接近戦で戦ったら負けるかもしれない。
「ヒイロ⋯⋯なんかよくわかんねえけど、お前の命を本当に狙ってるなら助太刀するぜ」
「グ、グレイ⋯⋯」
俺を護るように立ち、フィオラさんと対峙するグレイ。
普段はチャラチャラしているが、さすが俺の親友だ。
その行為に涙が出そうになる。
「いい加減認めたらどうですか? 貴方は知らないかもしれませんが、【聖約】が成されたかどうか、立ち会ったシスターはわかるんですよ」
「えっ⁉️ 嘘?」
俺は驚きの声を上げ、ルーナ方を見るとコクンと縦に頷いた。
「魔道具か何かで誤魔化しているようですが、私には2人の左手に主従の腕輪が着いていることをしっかりと認識できます」
「そ、そんなあ⋯⋯」
俺は思わぬ情報に膝から崩れ落ちる。
「えっ! ちょっと待て! それじゃあシスターが言ってた、ヒイロがルーナちゃんを奴隷にしていたことは本当だっていうのか」
「だから最初からそう言ってます」
そして今のやり取りは、ここにいる全員に聞こえていた。
「ルーナさんがヒイロの奴隷⋯⋯だと⋯⋯」
「俺、ルーナさんのこと狙ってたのに⋯⋯」
「ちくしょう! 神はいないのか! こうなったらヒイロを殺るぞ!」
男子学生が一斉に俺の方へと向かってくる。よく見ると、Fクラスだけじゃなく、Eクラスの奴等までいやがる。
さすがにこの人数を殺さずに1人で突破するのは不可能だ。
「グ、グレイ! 助けてくれ! 親友だろ!」
俺1人なら無理だけど、グレイと一緒ならこの場から逃げることができるはず。
「了解だ! 後ろからくる奴は俺に任せろ!」
頼もしい言葉が返ってきたので、俺は前方のクラスメートに集中する。
さてどうやって突破するか⋯⋯ガシッ!
「何⁉️」
突然背後から羽交い締めにされる。
バカな! 後ろにはグレイがいたはず。まさかやられてしまったのか!
グレイを倒すほどの強者はフィオラさんしか思いつかない。だが、彼女は俺の視界の中にいる。
俺はその謎を解くため、ゆっくりと振り返るとそこには悪魔の笑みを浮かべたグレイがいた。
「ど、どういうことだグレイ! まさか裏切ったのか!」
親友であるグレイの行動に俺は頭が追い付ず、その理由を問いただす。
「裏切った? 裏切ったのはお前だろヒイロ! ルーナちゃんを奴隷にするなんて⋯⋯許せねえ!」
くそっ! 身体が凍えてしまったこともあり、力が出ない。
条件は同じはずなのに⋯⋯何だこのグレイのパワーは。
「俺は独り身で寂しい思いをしているというのに、お前は毎晩ルーナちゃんの身体を弄んでいるかと思うと⋯⋯」
その言葉を聞いてルーナは顔を赤くする。
いやルーナさん⋯⋯そんな顔したらますます誤解されてしまいますが。
「うらやましいぞこんちくしょう!」
そしてその言葉が合図だったのか、男子全員が俺に襲いかかってきた。
10分後。
その後ヒイロがどうなったのかわからないが、校庭には1つのぼろ雑巾が転がっていたという。
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