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03 あなた、高校生なんでしょ? 魔王倒せるよね?



 声が聞こえたほうへ急いで行ってみると、そこには俺と同じくらいの年であろう少女が二人揃って俺の方を見つめていた。


 一方は、輝くようなブロンドの色のロングヘアに、透き通るような碧眼。衣服はいかにも高級そうな華やかな白いドレスであり、童話に出てくるお姫様のような外見だ。


 もう一方は、シルバーの髪が肩にギリギリかかるくらい――確かミディアムヘアという名前の髪型で、冒険者やハンターがよく着ていそうな革の防具を身に着けている、控えめそうな少女。


 二人の少女を見て、とりあえず挨拶しようと思い立ったジュン。

 しかし、それよりも先に、ふとした疑問が口からこぼれてしまった。


「言葉通じるのかな……」


 かねてからジュンが異世界モノの小説を読むときに気になっていたのが、これだ。

 多くの小説にはそう言った記載はなく、何も疑わずに普通に会話している主人公が多く、ジュンは疑問に思っていたのだが――今回はそういった心配は杞憂であったらしい。


「はい、大丈夫です。通じてます」


「よかったです……二人とも言葉が通じて」


 お姫様のような少女が、はきはきとした声でジュンの疑問に答え、大人しそうなハンターっぽい少女が小さな声で安心を口にした。


「二人とも、っていうことは、お二人もここで出会ったんですか?」


 ジュンがふとした疑問を口にすると、お姫様の方から答えが返ってきた。


「はい、ついさっき出会ったばかりです。……あ、そういえばまだ自己紹介をしていないですわね。私はエリーナ・ヴェル・アルネガリヤ。アルネガリヤ王国の第二王女でございますわ。よろしくお願いしますね」


 アルネガリヤ王国という聞き慣れない王国の名前に、そこの国の第二王女。

 白いドレスのスカート部分を横に広げてカーテシーのような礼を優雅にこなしているのを見る限り、高貴なお方だということは明らかである。

 というかそもそも公用語が日本語の、日本以外の国なんて聞いたことが無い。


――やっぱり、異世界っていうのもおかしな話ではないんだな。


 ジュンがそんなことを考えていると、今度は控えめな声が聞こえてきた。


「ええと……別の世界とはいえ、王女様の後に自己紹介するのは申し訳ないんですけど……私はユキと言います。ここに来るまでは冒険者をしていました。得意なのは回復魔法なんですけど、まだ失敗することも多くて……。不束者ですが、よろしくお願いします」


 ジュンが予想した通り、ユキという名前の少女は冒険者だったようだ。

 冒険者というのは冒険のプロなのだろうと思うジュンは、これから始まるであろうサバイバル生活で頼りになりそうだと期待する。


 そして、自己紹介はジュンの順番が回ってきた。


「俺は緑丘ジュンです。剣も魔法もファンタジーもない世界で育った高校生です。特技は友達の声真似です。ここじゃ全く役に立たないですね」


 よろしくお願いします、と言ってジュンは軽く頭を下げる。

 するとエリーナが少し首を傾げたようだった。


「少し質問いいかしら?」


「はい、エリーナ様。どうなさいました?」


「こうこうせい、って何ですの? 初めて聞いたのですが、どういう職業でいらっしゃいまして?」


「ええと、高校生、というのはまあ簡単に言えば学生、もしくは学院生みたいなものですね。それで分かりますか?」


 そうやって言い換えると納得したように頷く二人。

 言葉は通じるとは言えど、知らない言葉、通じない言葉はあるようだった。


「ということは、ジュンさんは凄い方なんですね」


 ユキは憧れの目をこちらに向けてくる。

 どうやらユキは、何かを勘違いしているらしい。


「ええと、凄い、とは?」


「だって、学院っていうのは凄い才能のある人たちでないと入れない狭き門ですよね? 入学試験で先生に圧勝しちゃったり、ドラゴンを一人で倒したり、留学生の王女を悪の組織から救ってそのまま結婚したり!」


 どうやら、ジュンの思っている学生と、ユキの思っている学院生に大きな認識の差があるようであった。

 ジュンが少したじろいでいるのを見て、ふと我に返ったユキが「すみません、少し取り乱しました……」と恥ずかしそうに俯く。

 おそらくユキの世界の学院生は、キラキラと輝くような、トップアイドルのような、そんな存在なのだろう。


 ジュンは誤解を解くために説明を付け加える。


「うーん、いや、なんというか……。確かに入学試験とかはあるんだけど、大体この年の人はみんな高校生になるからなー。逆にこの年齢で高校生じゃない方が珍しいというか……」


 ジュンがどうにか「そんなにすごいものじゃない」と伝えようと頭をひねっていると、今度はエリーナが「へえー、凄いわね」と呟き、ジュンは内心で頭を抱えた。


「ほとんど全ての国民が教育を受ける、ですか。なかなか興味深いですわね。確かに様々なところで国として恩恵を受けられそうですが、教育にかかる費用などはどうしているのでしょうか?」


 え、高校生ってそんなに凄かったっけ……?

 もしかして、「悪を断ち、正義を守る。みんなのヒーロー、高校生!」って……そんなわけが無いよな……。

 NPCノンプレイヤーキャラクター、村人、高校生……このくらいの位置付けだし、変に期待されても困る。

「あなた、高校生なんでしょ? 魔王倒せるよね?」みたいな暴論を言われても困惑するだけだし……。


 よし、話を逸らそう。


「その話はまたの機会としまして。

ところで、エリーナ様、ユキさん。お二人もそれぞれ別の世界から来られたようですが、ここはどこなのか、とか分かりますか?」


 ようやく、本題である。




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