16 地下迷宮①
「ここは……?」
ジュンがたどり着いたのは、大きな広間だった。
ぼんやりと壁が発光しており、薄暗く気味の悪い場所。
広間の中央は地面よりも少し高くなっており、石板のようなものが埋め込まれている。
広間の奥には、薄暗く細い通路が三本伸びていた。
ジュンは地面の陥没に巻き込まれてここに来たはずなのに、この広間の床は石で出来ており土は一切存在しない。
さらに、浮遊時間を考えれば結構深いところまで落とされたようだが、着地したときに痛いとは感じなかった。
どこかから入ってきたはずなのに、入り口は一切見つからない。
不思議なことだらけである。
「ジュン君、エリーナさん。無事ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
「私も無事よ。ただ、ここはどこなのかしら?」
みんなが思っているだろうことをエリーナが口にする。
先ほどまでの自然の風景ではなく、まるでダンジョンの広間のような場所。
模様がなく無機質な、発光する石の壁に囲まれた、広間。
もともと冒険者として活動していたユキなら何か分かることがあるのではないかと思い、ジュンはユキの方に向く。
「正直、分からないです。もしかすると元の世界に帰るための方法が隠されているかもしれませんし、ただの隠し迷宮かもしれません。後者の場合、多くは強力な魔物が潜んでいると言われているので、このままいくと……」
そう言ってユキは視線を落とす。
このままいくと、の続きはおそらく、魔物にやられて死ぬ、ということなのだろう。
そして、ユキの態度を見る限り、その確率はとても高いと。
「とりあえず、いかにも説明書きがありますよ、みたいな感じで石板が置かれているから、それを見てみるか」
ジュンはそう言って広間の中心にある石板へと足を進める。
エリーナとユキも頷いて、その後に続く。
もしかすると、この迷宮が何者なのかが書かれているのかもしれない。
もしくは、迷宮から脱出するための方法が書かれているのかもしれない。
はたまた、広間の奥から始まる三つの通路のうち、どれが安全なのかが分かるかもしれない。
そんな期待を持って、石板をのぞき込む。
「これは……知らない文字だな……」
「私もこれは見たこと無いわ。ユキはどう?」
「すみません。私、そもそも文字が読めないんです……」
見事に全滅であった。
文字というよりはどちらかというと絵の羅列に近いような、象形文字のようなものが石板に刻まれていた。
絵のようなものから何か読み取れないだろうかとジュンが首を捻っていると、エリーナが何か思いついたかのように顔を上げた。
「文字があるってことはおそらくこの石板は人間が作ったんじゃないかしら?」
「だとすると、この世界に来て初めて人工物に出会ったことになるな」
「でも、だとするとなんでこんな場所に迷宮なんて作ったのかしら」
「ここに紛れ込んだ異世界転移人の手助けをするため、とかだったら嬉しいんだけどな……」
「まあ、読めないなら仕方ないわ。他に何かヒントになりそうなものもないし……ここから出るためには三つの通路のうちのどれか一つに行かなきゃいけないみたいね。ユキはどれがいいかしら?」
「どの通路も奥の方まで見えないので何とも……」
三つの通路はいずれも、ぼんやりと光った壁が一直線に伸びている。
いずれも模様の無い無機質な壁で、目印のようなものもない。
遠近法で書かれた絵のように、通路の幅がだんだんと狭くなっているように見える。
「迷路の脱出だけを考えるなら、ずっと同じ方向の壁に沿って歩いて行けばいつかは脱出できるって聞いたことがあるな」
確か、左側の壁に沿って進むのを左手法と言ったはずだ。
そのようにジュンが言うと、ユキもエリーナもその提案に飛びついた。
「そんな方法があるんですか?」
「うろ覚えだから正確なところはわからないけど、多分それで行けると思う」
「じゃあ、決まりね。左から行くわよ」
エリーナが先頭になって、三つあるうちの一番左の通路に入っていく。
念のため、エリーナとジュンはゴブリンアクスを構えながら。
初めて足を踏み入れる所だし、警戒は怠らない。
「……本当に、迷路みたいだわ」
「だな。いつまで経っても景色が変わらん」
30分ほど経っただろうか。
何の目印もない無機質な壁の通路は、どれだけ進んだのか、どれくらい時間が経ったのかといった感覚を狂わせてくる。
さっきからずっと、仄かに光を発する通路が続き、他には何も視界に入らない。
左側の壁に沿って迷宮を歩くだけ。
単純作業にも程がある。
「これ、同じところを何回も歩いてたりしないよね?」
「エリーナさん、そんなこと言わないで下さいよ。私までそんな気になってきちゃったじゃないですか!」
「普通の迷路ならそんなことは無いんだけどな。俺たちが気づかないうちに別の場所にワープとかしていなければいいんだけど……」
「ジュン君もそんなこと言って……。そんな転移魔法聞いたことが無いので大丈夫だと思いますよ」
ユキがそう言うものの、この三人はいずれも元の世界から転移してこの世界に来ているだけに、もしかしたらそんな転移魔法もあり得るかもしれないと思ってしまう。
「それに、この迷路を突破できれば元の世界に戻るための何かが分かるかもしれませんし」
「確かにユキの言う通りかもな。あの石板には文字が書かれていたっていうのはつまり、過去に誰かが来たことがあるってことだろ? なら、この迷宮のゴールに何かが残されていても不思議じゃない」
「それならそれでありがたいんだけど……何か嫌な予感がするわ」
通路が直角に曲がっているところで、エリーナが少し後退った。
今までは直進するのみで先の見えない角を曲がることは無かったが、迷宮の端にたどり着いたのか、初めての一本道の曲がり角。
「見通しがあまりよくないので、気をつけた方が良いかも――きゃあぁぁぁあああ!!!」
ユキが曲がり角の先を覗くと同時に、悲鳴を上げて一目散に逃げだした。
ジュンとエリーナも、ユキが顔を真っ青にしているのを見て、慌てて曲がり角から引き返す。
何かに追われている気がしてジュンは走りながら後ろを振り返ってみると。
貝殻を背負った、ヤドカリ型の魔物。
それも、通路の天井近くまで背丈がありそうなほど巨大な。
十本の脚のうち、前に持ち上げた二本には鋏が付いており、残りの八本の脚で素早く走る、異質な魔物。
そんな巨大ヤドカリが、追いかけてきていた。
すみません。ちょっと更新止めます。
ストックが尽きてしまって、また、イベントが思い浮かばないので……。
見切り発車が裏目に出てしまって申し訳ないです……。
展開を思いつき次第更新再開したいと思っているので、よろしくお願いします。




