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12 ゴブリンの焼肉



 ジュンはユキの行く方へついて行き、昨夜のゴブリン戦の跡地にたどり着いた。

 戦場跡は特に手を加えられていないらしく、そこら中にゴブリンの死骸やゴブリンアクスが転がっていた。

 改めて見ると、凄絶な戦いだったのだなと実感する。


 それにしても、よく勝てたよな。

 特に武術などを習っていたわけでもない、単なる帰宅部高校生だった人間が、ゴブリンの群れと戦って勝つなんて、世の中分からないものだ。

 とは言っても、こちらも一人でいたら間違いなく死んでいただろう。

 あの時のことは必死すぎたせいかほとんど覚えていないのだが、おぼろげに、ゴブリンから攻撃を食らったことが思い出せる。

 たぶん、致命傷を何発も食らいながらも、気力だけで立っていたような感じだったのだろう。

 そんなボロボロの身体を治してくれたユキには感謝してもしきれない。


「現場に着いたのは良いんですけど、何を回収します?」


「えっ?」


 ユキは冒険者だったらしいので、戦利品回収なども慣れており、むやみに素人が口を出すのもよくないと思っていただけに、いきなり意見を聞かれて少し間抜けな声を上げてしまった。


「いや、戦利品の回収は私の役割じゃなかったので……正直よくわからないです。ギルドから必要な部位を指定されているわけでもないですし……」


 確かに、ゲームなどでも魔物を倒したら素材がドロップしたり、魔石が獲得できたりと、自分の得られるものが明確になっているわけだが、そういうものが明確でないと、まあ確かに困るのかもしれない。


 それに、何か価値のある物が転がっていたとしても、それを誰かが買い取ってくれるわけではないので、自分たちで使わないのなら結局無駄になってしまう。

 あれもこれも、と回収してしまうと、荷物がかさばって移動に制限がかかってしまうし、それを拠点に置いておくとすれば、邪魔で仕方がない。

 よって、本当に自分たちに必要なものだけを回収しなければならないわけだ。


 なんか、物が溢れた部屋を整理するのに似ている気がする。


「そうだな……ゴブリンアクスとかは使えるんじゃないか? 最後はあれのおかげでゴブリンに勝てたようなもんだし」


「そうですね。こう言っては失礼かもしれないんですけど、ジュン君があれだけ傷だらけになったということはきっと切れ味も良いんじゃないかと思います」


 昨日の戦闘後の俺は、相当見るに堪えない姿になっていたらしい。

 それを、今では何事もなかったかのように傷がすっかり治っているのは、ひとえにユキの魔法がすごいからであろう。

 ユキがすごいのか、魔法がすごいのか……多分どちらもすごいのだろう。


「じゃあ、予備も含めて一人2本で考えて、状態の良いやつを6本だけ回収するか」


「え? 私は使わないので、ジュン君とエリーナさんのぶんだけでいいですよ。私、力はそんなに強くないので武器を持っても使いこなせないでしょうし……」


「魔物に近づかれて何もできないのは困るから何か武器を持った方がいいと思うけどな。それにこれ、いろいろと使い道があると思うぞ。木を切ったりとか、邪魔な枝を払ったりとか。何より、ユキがゴブリンアクスを使うのかっこよさそうだし」


「そう言っていただけるなら……頑張ってみます」


 そう言ってユキは手頃なゴブリンアクスを拾い上げる。

 少し嬉しそうにしているように見える気のせいだろうか。


 そして、ユキは使用感を確認するために何回か素振りをして、納得したようにゴブリンアクスを左手に持ち替えた。


「じゃあ、俺のぶんはこれとこれで、エリーナにはこの二本でいいかな」


 朝の草原の上に積みあがったゴブリンの死体の山から、状態の良さそうなゴブリンアクスを4本回収する。

 状態の悪いものになると、軽量化するために斧の真ん中に大穴を開けている部分から割れていたり、刃先が欠けていたりして使い物にならない物もあるのでよく見分けなければならなかったのだが。


「ジュン君。ゴブリンの肉って食べられると思います?」


「なんか不味そうな気がする。いや、食べたことは無いから分からないけど」


 というかそもそも地球にゴブリンはいなかったし。


「でも、さすがに昨日の昼から何も食べていないとなるとお腹がきますよね」


 ユキは昼から何も食べていないのか。

 日本でも昔は一日二食だったらしいからおかしいことではないけれど、そのぶん一食の重要度が高いから、食事を抜いた時に辛くなってくる。

 食事を抜くのに慣れていたジュンでさえ、昨日の昼は学校の購買でパンを買って食べていたというのに。


「毒がないならやっぱり食べるしかないよな。空腹度合いがヤバいし。そういや、ユキの治癒魔法って食中毒とかにも効くの?」


「ええと……しょくちゅうどく、ってなんですか?」


「俺も詳しいことはわかんないけど、肉に含まれてる細菌かウイルスに蝕まれて腹が痛くなるやつ。……ってか、焼いて食べれば問題ないか。ユキって、火の魔法使って料理したりとかできる?」


「なんか、よくわからないですけど、魔法で肉に火を通せばいいんですね。頑張ってみます」


 ユキはゴブリンのむくろの山から一匹分だけ引っ張り出し、ゴブリンアクスを使って手慣れた様子で内臓や骨を取り出していく。

 そして呪文を唱えてファイアボールを手元に維持して肉を焼いていく。


 結局、最初の二回は火力が強すぎたのか一瞬で黒焦げになってユキが涙目になっていたが、3回目でなんとかちょうどいいゴブリンの焼肉ができた。

 肉の焼けた香ばしい匂いが辺りに広がっており、食欲がそそられる。


 ユキはその場に座って、出来上がった焼き肉をゴブリンアクスで一口サイズに切って、それを口に入れた。

 ジュンも地面に座り、ユキの反応を窺う。

 ゴブリンの亡骸というイレギュラーもあるが、森の手前のピクニックにも見えなくない状況で、ユキが肉を咀嚼する。


「ん。おいしいです。ジュン君もいかがですか?」


「じゃあ、お願いしようかな」


 ユキにひとかけらだけ肉を手渡されたので、それを眺めてみる。

 サイコロステーキみたいな見た目の、良い焼き具合の肉だ。


 ユキが伏し目がちにこちらの様子を窺っているのは、ジュンの反応が気になるからなのだろうか。

 焼いただけとはいえユキの手料理とも言えなくはないし、他人の感想も気になるのだろうか?

 それとも、手渡すときに手が触れ合ったから緊張して――いや、そんなわけはないか。


 そんなことを思考しながら、一口で肉を口に入れる。


「お、美味いじゃん。今日の朝食これにしようぜ」


 そう言うと、ほっとしたようにユキが微笑んだ。

 もしかしたら、違う世界から来て味覚や食べ物の好き嫌いが違うかもしれないと心配したのかもしれない。


 ゴブリン肉はというと、脂身が少なめの鶏のササミみたいな食感と味だった。

 ゴブリンという先入観のせいかもしれないが、想像したよりもかなり美味しかった。


 もっとも、空腹もここまで来ると、どんなゲテモノでも美味しく感じてしまいそうな気がするのだが。


 洞窟で寝ているであろうエリーナの取り分を残して、ユキとジュンで一匹分のゴブリンを完食する。

 それでも、まだまだゴブリンの死体の山は減っていない。


「そういえばユキって、物を凍らせる魔法とか使えたっけ?」


「火の魔法に比べれば得意ですけど、ちょっと苦手ですね。できなくはないですけど」


「じゃあ、ゴブリンを凍らせて冷凍保存とかってできないかな? そうすればしばらく食料には困らないと思うんだけど」


「ゴブリンの肉は、2,3日くらいなら腐らないはずですよ。それに、氷魔法が得意だったとしても、その氷を維持するのは大変ですし、現実的ではないと思います」


「そういうことなら、そのままゴブリンの食べられる部分だけ分けて洞窟に運んでよさそうだな」


「そうですね。10匹だけ解剖して持っていきましょう」


 ユキに教えられてジュンもゴブリンの解剖に挑戦してみたが、初めてだからか、かなりの時間がかかってしまった。


 途中から、ジュンはユキの方から視線を感じていたのだが、何か言いたいことがあるのかと思いユキの方を見ると、そのたびに慌てて視線を逸らせていた。

 若干顔が赤いように見えたのは自意識が過剰なのだろうか。

 こうなったらいいな、という意識下の願望が自分の中であるのだろうか。


 これからはちょっと謙虚になることを心がけようと思う。




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