最強パーティーの最強勇者と思い込んでいた
閃光が走り、爆発が起きた。
「よし!魔物達を殲滅した!この先へ進むぞ!」
勇者はパーティーに向かって声を上げた。
爆裂魔法を放った魔術士は、得意げな顔で応える。
そのパーティーは、良くある特徴を持ったメンバーで構成されていた。
前列には勇者と甲冑を着けた騎士に斧を担いだドワーフ。
後列には遠隔攻撃と治癒を行う紅一点の魔術士、それにスナイパーとして控える弓を携えたエルフ。
ここまでレベルを上げるのには結構な時間がかかっていたが、やっと最強のパーティーに育った。
今回の依頼はギルドからの指名で、廃墟と化した町にいるゴブリンの調査と殲滅だった。
何でも一年ぐらい前まではちょっとした町だったが、ゴブリン達が大挙してやって来て滅んでしまったとか。
背後には、邪悪な魔王が暗躍していて、この町はそれなりに裕福だったので狙われたらしい。
帝都の騎士団が救援に来た時は既に遅く、ゴブリン達は食料や武器を奪った挙げ句、女子供を拐い、生き残った住人達は町を捨てて逃げ去ってしまった。
今は少数のゴブリン達が再び戻って来て、斥候や見張りをして帝国からの逆襲に備えている・・・と言うのが、ギルドから聞いた情報だ。
「気を付けろ。奴ら文字通り神出鬼没だ。武器は劣っているが、毒を塗っていたりするから侮れない。あと、爆裂魔法を使って自殺攻撃をしかけてくるから、深追いはするなよ。」
騎士が勇者へ注意を喚起する。
「ああ。分かっているって。相変わらずうるせ〜な。」
勇者と呼ばれる若者は、口を尖らせて応えた。
「そう言う君のいい加減さが、パーティーを全滅させるんだ。これだから・・・」
「まーまー。その辺で・・・。喧嘩してたらそれこそパーティーを全滅させてしまうよ。」
魔術士が間に割って入った。
「それより・・・その先、なんかいるよ。探知魔法に反応が出ている。」
そう言って魔術士は手元の魔道具を見ながら言った。
「おい。」
「ああ。」
勇者は身構え、騎士は剣を抜き、ドワーフは斧を構えた。
勇者は思った。
いつでも来やがれ!
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「57番。状態安定しています。このまま進めます。」
「ありがとう中尉。変化があれば報告してくれ。106番はどうだ?」
「106番は若干上がっていますが、問題はありません。」
「了解。ではこれから司令部へ行く。ヒトロクまでには戻る。何かあったら連絡してくれ。」
「承知しました少佐。」
女性の中尉はそう答えると、手にした黒い板を持ち作業を続けた。
部屋は薄暗く、いくつもの白い光が輝き、その中には文字や線があった。
こんなところに長時間いたら健康に悪い。
軍人である少佐は若くは無いが、いざと言う時のために絶えず体を鍛えている。
そして同時に身体に悪い事はなるべく避けている。
酒は深く飲まないし、煙草も吸わない。
周りからはつまらない奴だと見られているが、別に気にしていない。
逆にその姿勢が今の上官に気に入られて、今回の任務を拝命した。
それにしてもこの部屋は嫌だ。
こんな不健康そうな場所からは一刻も早く出たい。
少佐は中尉をやや気の毒そうに見ながら、部屋から出て司令本部へ向かった。
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ズシャッ!シューッ。
血飛沫が勢いよく上がった。
「これで何匹目だよ?こいつらどんだけ湧いてくるんだよ!」
「これで20匹目だ。あと手負いにしたが逃げられたのが18匹。確かに多い。どうする?一旦拠点まで戻るか?」
「チッ!相変わらず細けーな。オッサンはどうだ?一旦戻って作戦を練り直すかい?」
勇者は騎士に悪態を吐きつつ、ドワーフへ話しかけた。
「そうじゃの〜。今日はまだ初日じゃしの〜。様子は少し分かったようじゃし、一旦戻って作戦会議をした方がいいかもしれんの〜。エルフの兄さんはどうじゃ?」
「私はどちらでも構わない。皆の意見に従う。貴女はどうする?」
「わ、私は勇者様に従うわ。」
魔術士は少し顔を赤らめて勇者を見た。
「だそうだ勇者殿。一旦戻ろう。」
「ったく嫌味な奴だな。そうだな。一旦戻ろう。何か引っかかるしな。」
勇者は何か異変を感じていた。
何かがおかしい。
漠然とした不安だったが、何かと言われれば何とも答えようが無い。
こう言う時は引くに限る。
「君がそう言うのであれば間違いは無かろう。では戻ろう。」
「なんか皮肉を言われたような気がしてむかつく!」
そう勇者は言ったが、決して悪い気分では無かった。
彼とはいろいろあったが、お互いに信頼している仲だ。
彼があの様に言う時は、意見に賛同している時だ。
だてに長い時間をかけて作ったパーティーでは無い。
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「ご命令により参上しました!」
少佐は背筋を伸ばし上官に敬礼をした。
ここ司令部には佐官級の人間が詰めている。
事務方として、下士官や尉官もいるが、実際の作戦策定や司令は佐官級の参謀が行っている。
殆どが幹部候補学校での同期だったり、先輩や後輩だったりする。
この様な場所には一般人は無論、将官級の者は滅多に来ない。
だが、今日は別だった。
目の前の人物には、肩に将官である事を示す星が付いていた。
今回の一連の作戦を策定し、取りまとめた上官だ。
今回の任務は、この上官からの指名で携わることになった。
「状況を報告してくれるかね?」
「はッ!作戦は滞りなく進んでおります!」
少佐は直立不動で応えた。
「そう堅苦しく応えないでくれ。各個体に問題は無いか?」
「特に大きな問題はありません。」
少佐は敢えて「大きな問題」と言った。
「では小さな問題は?」
上官も良く心得ていた。
少佐の性格を良く知っているからこそ、彼を起用したのだ。
「個体によっては、若干不安定になるケースがあります。しかし、作戦に問題が生じる事はございません。」
「不安定になるので有れば、作戦遂行に支障が生じるのでは無いのか?それは大きな問題では無いのか?」
上官は戸惑った。
あれらが使い者にならなければ、今までの努力が水泡に帰す。
失敗は許されないのだ。
ましてや制御出来ないのであれば、危険極まりない。
完璧なコントロールが必要なのだ。
不安定になると言うのは聞きづてならない。
しかし・・・部下はその様な事は充分知っている筈だ。
「いいえ。コントロールは良くされています。こちらの・・・・・」
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鳥のさえずりが始まった。
最初は、一羽二羽程度のさえずりが段々と増えて行き、やがて大集団のさえずりとなった。
鳥が大合唱を始めた頃、地平線が白くなり太陽が昇った。
勇者はそんな風景をぼんやりと眺めていたが、井戸から桶を引き揚げると、中に手を入れた。
「冷た!」
水は氷の様に冷たかった。
それでも無理矢理水を掬い、顔にかけた。
冷たい水で一気に目が覚める。
そして気合が入った。
あれからあの廃墟の町からこの拠点まで戻り、パーティーのメンバーと状況を話し合った。
あの町は聞いていた話と違う。
あそこにいるのは、斥候のような役割を持ったゴブリンだった筈だ。
町から奪えるだけ奪ったあと、彼らにとってはあの町にもう用は無い。
あの場所に未だにいるのは、帝国の動きを監視するためだ。
帝国が、本科的に魔王領へ侵攻する際の通り道に近いからだ。
その様な監視目的だけなら、必要なのはせいぜい小隊規模。
20匹から30匹であれば事足りる。
中隊規模のゴブリンがいる必要は無い。
何より、中隊規模以上のゴブリンがあの町にいる事は、彼らにとっては困難である筈だ。
何故なら、彼ら自身が殆どを奪い町を廃墟にしたお陰で、留まる為に必要な食料や資材があの町には無いのだ。
しかし、昨日のゴブリンは小隊規模では無かった。
小隊ぐらいのゴブリンを潰した筈だが、魔術士が魔道具にまだまだ多くの反応があると言っていた。
つまり、相当数のゴブリン達がいると言う事だ。
大隊規模のゴブリンが駐屯している可能性もある。
だが何故?
「もしかしたら、帝国へ攻め込む気じゃ無いですか?」
エルフがそんな事を言った。
だとしたら、冒険者の仕事では無い。
もはや帝国騎士団総出で対応しなければならない。
取り敢えず、ギルドへ連絡して撤収しようと言う話になった。
事前の依頼内容と異なるし、一応調査もした。
ドワーフに近くのギルドまで行ってもらい、戻って来たら撤収する事にした。
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少佐は上官の部屋から出て、司令室に入った。
同僚の佐官たちが何やら騒いでいる。
どうやら状況に変化があったようだ。
司令部員は情報収集に躍起で、あちらこちらで怒鳴り声がする。
駄目だなぁ。
軍人は感情的になったら判断を誤る。
そうは言っても無理か・・・完璧な人間なんてこの世にはいない。
いたらこんな愚かな任務も生まれていない。
司令部内の喧騒の中、少佐は旧知の大尉を見つけた。
「よう。どうしたんだ?」
「あ、た、じゃ無かった。少佐殿。お久しぶりです。」
「堅苦しい挨拶は抜きにしてくれ無いか?貴様と俺の仲じゃ無いか。」
「いや。ここは司令部内ですし、今は任務中ですから。」
正論を言われた。
何とも堅苦しいなとは思ったが、先ほど上官から同じ事を言われた。
軍隊とはどうしようも無く堅苦しい。
それが組織的暴力装置として、必要である事は理解はしているのだが。
秩序が崩壊した時の悲劇は歴史が示している。
そうならない為にも、普段からこの様な堅苦しさは必要だ。
「改めて聞くが、何があった?」
「こちらの予測を覆すような事態が起きました。今、情報を収集していますが、奴ら破れかぶれになったようです。」
「詳しく聞けるか?」
「ええ。」
少佐は司令室の椅子に腰をかけた。
そして上官が向こうから歩いて来るのが見えた。
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ドワーフがギルドから戻って来た。
「ギルド長から直々に話があった。」
予想外の言葉が出た。
ギルド長から直接話があると言うのは余程の事だ。
下手をすると、断れない依頼を持って帰って来た可能性がある。
いや、断ろうと思えば断れる。
だが断れば、この先指名依頼が来なくなる可能性が大きい。
ギルド長から直接話があったと言う事は、指名依頼がギルドからの直接依頼へ変わったという事だ。
直接依頼は皇帝からの命令に等しく、名誉であると同時に断る事は非常に難しい。
せっかくここまで育てたパーティーを瓦解させたく無い。
何より、このメンバーが損をする様な事はしたくない。
だが・・・嫌な予感がマックスだ。
昨日の様子から、相手はゴブリン達だけで無く、オークや他の魔物もいる可能性がある。
敵が多い上に、ドラゴンまでいたらパーティーの全滅は必死だ。
「どうする勇者?断る事もできるぞ。」
「お前分かってて言ってるよな?」
騎士は相変わらず嫌なところを逆撫でして来る。
だが、分かっていた。
これは彼なりに背中を押してくれているのだ。
「わしは受けて良いと思うぞ。っとその前に、まだ何も言っておらんのに何故受ける受けないの話になる?」
ドワーフの言葉に皆キョトンとした。
そう言えばそうだった。
何も聞いていない内に悲壮感が漂ってしまった。
パーティーのメンバーは顔を見合わせると、自然に笑い出した。
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少佐は喧騒の最中にある司令室を一旦出て、中尉のいるあの部屋へ向かった。
予定より早く向かう事になったが、急いだ方が良い。
「少佐?随分と早いですね!何かあったのですか?」
相変わらず不健康になりそうな部屋で、中尉は驚いて少佐を見た。
「ああ。ちょっとした大事でな。作戦が大幅に変わった。プランCが適用される事になった。作戦開始は明日の朝、サンサンマルだ。やってくれるな?」
「ぷ、プランCですか!?まだ完全な状態では無いですが?」
「無理は承知で言っている。それでもやるしか無い。」
中尉の抗議に少佐は静かに言った。
そう無理は承知なのだ。
だが、不可能では無いのだ。
それなりの準備はしてある。
それに事前の実験的実戦で、個々のデータは揃っている。
あとは大量投入をし、問題が発生しない様に運用すれば良い。
多少の犠牲は出るかも知れないが、それは織り込み済みだ。
その為にこれまでいろいろと調整をし、面倒な交渉ごとも行ってて来たのだ。
「足りないスタッフは、他から応援が来て助けてくれる。君はコアの調整に集中してくれ。必要数と装備は・・・・・」
そう言って、少佐は作戦内容の詳細を中尉へ伝えた。
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ドン、ドン、ドカーンッ!
魔術士達の放つ爆例魔法があちこちで炸裂する。
ギルドから依頼を受けた幾つものパーティーが周りにいた。
ギルド長からの依頼は、応援のパーティーと共に、なるべく多くのゴブリンや魔物を帝国の騎士団が到着するまでに倒して欲しいという事だった。
だったら騎士団が来てからで良いでは無いかと思うのだが、それまでに魔王軍が増強される可能性もあり、出来る限り数を減らして欲しいとの事だ。
心のどこかで、これは悪手で最悪のパターンだ、と言う思いが勇者の心に生じていた。
何故悪手なのか、と聞かれたら上手く答えられないが、悪い予感が大きい。
それでも冒険者パーティーとしてはやるしか無い。
「うわーッ!」
他のパーティーの剣士がオークにやられた。
彼らのパーティーは魔術士を失っていた。
「お前ら!ここはいい!もう下がれ!」
「駄目だ!背後に奴らが周り混んでいる!下がれねー!」
「わ、私が治癒魔法を・・・」
魔術士が、そう言って走り出した矢先だった。
「€*&^※〆?\>!」
何かを叫びながらゴブリンが魔術士へ向かった。
「危ない!防御魔法を・・・」
そう勇者が叫ぶと同時に、騎士が魔術士の方へ向かって走った。
次の瞬間。
辺りを閃光が走った。
直後に熱風と爆風がやって来た。
そして・・・バラバラと肉片と鉄の塊も飛んで来た。
「そ、そんな・・・。嘘だ。嘘だろ・・・。」
今まで魔術士と騎士のいた辺りには大きな穴が開き、そして仲間だった者はあちらこちらに肉片となって飛んでいた。
勇者は下を見ると、飛んで来た腕の肉塊をそっと拾った。
「勇者―!ボケっとしてる場合では無いぞ!」
ドワーフが叫ぶ。
ドワーフもすでにボロボロの状態だった。
自慢の斧は刃先が欠けていて、斬り殺すよりも叩き殺していると言った状態だ。
それでも何とか頑張ってはいたが、相手が多過ぎた。
強靭な体力を持ち合わせている筈のドワーフが、肩で息をし今にもやられそうだ。
エルフは矢が尽きていて、手に剣を持って戦っている。
矢が無くても俊敏な動きで立ち回れるが、動きが鈍っていて彼も力が尽きそうだ。
何故こうなった?
大切な仲間が、想いを寄せていた人が、目の前で呆気無くやられた。
これまで苦労して築き上げたパーティーが、仲間が消えようとしている。
「勇者殿!気をしっかり持て!」
エルフが叫んだ。
その瞬間、周りにいたオークとゴブリンが一斉に剣をエルフに突き刺した。
「ゴフッ!」
そう言ってエルフは口から血を吐き出し、その場に倒れた。
「う、うわーッ!」
勇者は感情に任せて剣を振るった。
先ほどまで聴こえていた剣戟の音や、爆発音は聞こえなくなっていた。
もはや残っているパーティーは自分達だけらしい。
他は逃げたか、やられたのか・・・。
生き延びなければ。
生き残らなければ。
勇者は必死になってゴブリンを斬って行った。
ズシュン!
何か嫌な音が後ろからした。
振り向くと、ドワーフの首の無い胴体が地面に横たわっていた。
その横でオークが、嫌らしい笑い顔でドワーフの首を手に持ち、食っていた。
勇者は血の気が引いた。
何故だ?
どうして?
ギルドから指名して貰える最強パーティーが、何故こうも呆気無く?
ここで死ぬのか?
こんなに呆気無く?
あんなに仲の良かった仲間が!
皆と過ごした日々を思い出・・・。
今までの苦労・・・・・。
今まで・・・?
・・・・・・今まで・・・・・何をしていた?
いつ冒険者になった?
勇者?
勇者って・・・?
何だ?
何か変だ。
ここは・・・・。
ここは何処だ?
目の前にいるのは・・・何だ?
あれはゴブリン・・・・・いや違う。
俺は・・・・・。
俺は誰だ?
勇者がそう思った瞬間だった。
目の前から対戦車ミサイルが飛んで来るのが目に入った。
それが、自分が勇者だと思いん込んでいた男の、最後の瞬間だった。
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「何とか本隊の投入に間に合いました。そちらから戦力を出していただいたおかげで、敵を押し留める事に成功しました。ありがとうございます。」
「間に合って良かったです。ただ、こちらはかなり消耗してしまいました。一旦本国へ戻って、立て直さなければなりません。」
そう言って少佐はため息を付いた。
この紛争地域に派遣された防衛軍、かつては自衛隊と呼ばれたその軍隊は、所謂ババを掴まされたようなものだった。
各国が自国主義になり、軍隊を紛争地域へ出す事を渋っている中、憲法改正により海外派兵が可能になった日本は、他国から軍の派遣を半ば強引に依頼された。
しかし派遣により犠牲者が多く出て、政府は批判に晒され簡単には派兵が出来なくなって来た。
それでも海外からの派兵依頼の圧力は続いた。
そんな国外の問題とは別に、国内では他の問題も発生していた。
それは引きこもりの著しい増加だった。
今や、人口の1割を占めるまで増加している。
世間は、働かず税金も払わない彼らに冷たかった。
しかも、大量殺人や親殺し等の犯罪者がその中から多く出た。
政府は、その様な者達の処理に困った。
そして出て来た解決案は、彼らを集め軍へ入れる事だった。
金を払う事が出来ない者には、血税で払ってもらう。
それで世間は納得した。
そして彼らに犠牲が出ても、文句を言う人間は少なかった。
副産物として、海外派兵がしやすくなった。
何しろ、同情する人間が少ないのだ。
政府は結果に満足し、更に新しい政策を打ち出した。
問題の引き篭もり達の中から、研究の進んでいたBMI技術を使い、凶悪犯罪を行った者を対象に兵器へ人体改造した。
もともと死刑判決を受けていた者や、親に見捨てられた連中だ。
世間の批判はごく少数で、同情する者はいないに等しかった。
このため、政府は人体改造を全く躊躇せずに実施した。
改造された者達は記憶操作され、あたかも異世界に転生したかのような感覚にさせられ、紛争地域へ兵器として投入された。
もともと家ではゲームをしている様な連中だったので、記憶を異世界に改竄する事は容易だった。
おかげで犯罪者だった頃の記憶は無くなり、彼らを簡単に制御する事に成功した。
少佐は、破壊され戦場から戻って来た人体兵器を見た。
元人間だった所は脳以外は無い。
その脳も人為的に手が加えられ、見た事や聞いた事は別の事として認知されるようになっている。
記憶を改竄した段階で、もはや一般社会での生活は出来なくなった。
いや、もともとそう言う者達ではあったのだが。
確かこの脳は、大量殺戮を行った二十歳過ぎの男の脳だ。
この男は死刑判決を受けたが、本人の親との取引で兵器に改造された。
改造される際、かなり暴れたらしい。
人の命をあれだけ奪って、死にたく無いと叫んだようだ。
が、兵器としては上手く動いてくれた。
自分を勇者と思い込んで。
しかし・・・・・・
「やれやれ。これ再利用出来るのか?」
そう言って少佐は、脳が入った容器を取り出すと、深くため息を付いた。
「無理だな。壊れてやがる。いや、元からか。」
短編作ってみました・・・長編の方はまだ更新してません・・・。何とか長編も更新したいと思います。
追記: 元事務次官の事件に触発されたわけではありません。判決日が偶然重なっただけです。