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7.旧知の仲

「おっとそれ以上はいかんぞ」


「むぐっ……!?」


 後ろから近付いて来た何者かに手で口を塞がれました。そのせいで魔法の口上を最後まで言いきれず、森羅万象は不発に終わります。

 私は急な出来事で一瞬動揺しましたが、すぐに手を振り払い、後ろの人物から距離を取りました。


「……全力で押さえつけとったんじゃが、こうもあっさり抜けられるとはのう」


 私が後ろに振り向くと、そこにいたのは一人の女性でした。そして私はそれが人間では無いことに気づきます。

 目を引く青肌に紺色のストレートなロングヘアー、側頭部からは黄金に輝く二本の太く曲線状の角が生えていました。大人びていて、見た目は20台、ミスラさんより少し大人っぽい感じでしょうか。

 鼻はすらっと通っていて端正な顔立ち、ややつり目気味です。



 私はすぐに臨戦体勢を取ろうとしましたが、青肌の女性は慌ててそれを制止します。


「おっと待て待て! 別にお主と争おうという訳では無い。一旦話を聞いてくれんか」


「……誰だか知りませんが、先に襲ってきたのは貴女じゃないですか!」


「それについてはすまんかった。じゃがお主を止める為にはああするしか無かったのじゃ」


止める? 何の為に? 私がそう聞く前に青肌の女性は続けて説明します。


「そこにおる斧の男には懸賞金がかかっておってな。余はそいつを倒しに来た冒険者なのじゃ」


冒険者と言えば、ギルドからの依頼で魔物や悪党を退治する職業。そんな悪魔みたいな見た目で冒険者って無理があるんじゃ……と、いろいろつっこみどころがありましたが、まずは一つ質問してみます。


「じゃあ、私を止める必要は無かったんじゃないですか? どうせ殺す予定でしたし」


「いやそうはいかんよ。だってお主、その男を跡形も残さず消滅させる気じゃったじゃろ」


「何か問題でも?」


「大アリじゃ!! 跡形も残さんかったら倒した証拠が無くなるじゃろ証拠が!」


 あぁなるほど、と私は納得しました。

 そういうことなら、この男を引き渡したところで私にデメリットはありませんし、素直に言うことを聞いておこうかと思います。

 本音を言えば、怪しい人とはあまりお近づきにはなりたくないので、それで手を引いてくれるならそうしたいという感じでした。


「……分かりました。ではこの男は貴女に譲ります。」


「うむ。なかなか利口な娘ではないか。」


 青肌の女性が腕を組み満足げに頷きます。

 すると彼女が何かを唱え、手元に大きな次元の穴を生み出しました。その中に男をぽいと片手で投げ入れます。そして手を振ると次元の穴はみるみるうちに閉じ、やがて完全に無くなりました。


「……すごい」


「じゃろ?これは余じゃからなせる技じゃ」


 格好も去ることながら、使う魔法も中々に奇抜です。厄介事に巻き込まれるのは嫌ですが、私は彼女のことが気になったので、思い切って色々聞いてみることにしました。


「貴女のその格好…仮装してるとかじゃ無いですよね……?」


「当たり前じゃわ! ……そう言えばお互いにまだ名乗っとらんじゃったのう。余はルシファー、歳は10万501歳と5ヶ月じゃ。つい先日まで魔王をしておった者と言えば分かるかの?」


「……え?」


 キャラが濃すぎます。前職"魔王"で10万歳を超える異色肌の自称冒険者。一体何からつっこんで良いのか分からず口をぽかんと開けることしか出来ませんでした。

 ……ですが、私も現在女神様であるミスラさんと同棲していることを考えると、もう何が起きても不思議ではない気がしてきました。


「本当……なんですよね、はあ……」


「なぜ溜息をつくのじゃ」


「ご、ごめんなさい」


「うむ。じゃがお主、信じるのか?」


 最初こそ驚きはしたものの、割とすんなり受け入れた様子の私を見て、ルシファーさんがやや不思議そうにしています。


「えぇ、まあ……既に女神様とも出会ったりしているので、もう何でも受け入れちゃえますよ……あはは……」


自嘲気味に説明した中でふと飛び出た「女神」という言葉に、ルシファーさんの眉がピクリと動きました。


「女神とな? お主、ミスラと会ったのか!?」


「えっ……ええ、今は同棲してますよ……あ」


 しまった。つい言ってしまいました。女神と同棲しているなんて言われて信じられるのでしょうか。今度は私の方が疑われる、そう思いましたが、ルシファーさんの反応は意外なものでした。


「そうかそうか! お主やたらと強いから何者かと思っておったが、お主がミスラの施しを受けたものか!」


 なんだか急にご機嫌になり、右手で私の背中を叩いてきます。しかも何だか事情を知っているご様子です。


「あやつは元気にしておるか?」


「は、はい。とっても元気ですよ。ルシファーさんは、ミスラさんと知り合いなんですか?」


「うむ。あやつとは旧知の中じゃ。気の置けない親友としてたまに魔界に招いてパジャマパーティーとかやっておったな」


 衝撃でした。女神と魔王が仲良くパジャマパーティー……なんというかこう、言葉にすると得体の知れない違和感があります。


「なんじゃその顔は、やはり余が信用ならんか?」


「え!? い、いやいや、ちょっとびっくりしちゃっただけですよっ」


「なら良いが…そうじゃ! 今からミスラの所に案内してくれんか? 久しぶりにあやつの顔が見たくなってきた。お主、これから帰るのじゃろう? 着いていくぞ」


「わ、分かりました」


 本当に友人かどうかは未だに分かりませんでしたが、何かあってもミスラさんなら対処できるだろうと思い、ルシファーさんの提案を受けます。

 すると、突然背後から声がしました。


「その必要は無いわよ〜」


「うひゃあ!! ……ってミスラさん!?」


 声の主は他でもないミスラさんでした。私の頭を撫でながらルシファーさんに向き合います。


「久しぶりねルシファー。こうして顔を合わせるのは20年振りくらいかしら?」


「おおおおミスラ! 会いたかったぞ!」


 ルシファーさんはミスラさんの登場で一気に盛り上がり、ミスラさんにハグをします。お互い胸がかなり大きいので、つっかえて邪魔そうだなと思いました。くっ……


「私も会いたかったわ。元気してたかしら?」


「うむ、余は至って健康じゃ。お主こそ変わらんな。それにこんな()い子供までこさえおってからに、隅に置けん奴じゃのう!」


「もう、そんなんじゃないわよ。手紙にも書いてたでしょう?」


「あっはっは、そうじゃったな! 月イチの手紙だけじゃ物足りんくてな、寂しかったんじゃぞ?」


「ふふっ……やっぱりルシファーも変わらないわね〜」


 ルシファーさんの言った通り、二人はとても仲がよさそうで、それこそ紛れも無い親友という風に写りました。二人はそれから三十分程、近況やお互いの話で盛り上がっていました。私はその間手持ち無沙汰なので、魔法で作り出した水玉をつついたり形を変えたりして遊びます。

……なんだか蚊帳の外にいるようで、ちょっとつまらないです……



「ほらミスラ、お主が余ばっかり相手するから可愛い妹が拗ねておるわい」


 突然こちらに振られて驚いてしまいました。ルシファーさんに心を見透かされたような事を言われて途端に顔が熱くなってきます。


「な、なななんですか! 妹じゃないですし、それに拗ねてなんかいません!」


「やだ私ったら! ごめんねアウネちゃん、寂しかったのね? こっちにおいで、なでなでしてあげるわ」


「寂しくなんか無いですっ! 離れてください〜!」


 人前だと言うのにミスラさんは相変わらず凄まじい勢いでハグとなでなでをしてきます。……だけど、やっと相手をしてもらえた事がちょっとだけ、ほんのちょっとだけ嬉しいとも思いました。恥ずかしいからそんなことは言ってあげませんけど!


「見え見えの照れ隠しなんぞしおって、ミスラの言った通り本当に愛いやつじゃな〜うりうり」


 ルシファーさんも一緒になって後ろから私をなでなでしたり、ほっぺたをムニムニしてきたりします。

あぁ、駄目です……大人の女性二人に甘やかされるなんて、そんなっ……


 拒否する言葉とは裏腹に、私は二人の猛攻であっという間にふにゃふにゃになってしまいました。悔しいですが、綺麗なお姉さん二人に挟まれてしまってはどうすることも出来ません。だからこれは仕方ないことなのです。誰だって抵抗できません。


 撫でられているだけで全身の力が抜けて、前にいるミスラさんにもたれかかってしまいます。



 私はそれから十分程の間、二人のされるがままになるのでした。

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