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6.悪意

 私がミスラさんの住処に住まわせてもらってから1ヶ月が経ちました。ここでの生活にも慣れ、ミスラさんのお手伝いもするようになりました。


 ミスラさんの住処は、私とミスラさんが出会ったオーネルズ丘陵から歩いて30分程の廃村にあります。建物の造りや投げ出された同工具等の様子からおそらく大昔に捨てられた村だと思われます。寂れた家々が立ち並ぶ小さな村の中で、ミスラさんが手直ししたその家だけは神々しいほどの神聖な雰囲気を放っていました。

 とても違和感があります。浮きまくりです。


 水や生活必需品など、自給自足では補えないものは近くの村まで買い出しに出掛けたりもします。今日は隣のセルア村まで一人で買い出しに出ていました。今はその帰りです。昼後に出発し、本当は3時間もかけずに帰る予定だったのですが、セルア村に新しくオープンした服飾店の可愛いアクセサリや服に興味を惹かれてつい寄り道してしまいました。店内を隅々まで見て周り、結局帰る頃には日没を迎えていたので少々焦ってしまいます。



 帰り際、私は生き返ってから今までの出来事を思い出します。この1ヶ月の間で、私はミスラさんにみっちりと戦闘に関するいろんな知識や技術を伝授してもらいました。とはいえ、底なしのステータスとスキルのおかげで、とにかく素早く動いてデコピンでもしてあげれば勝てない相手はいないらしいんですけどね……それではなんと言うか、華が無いので色んなことが出来るようになるに越したことはありませんね。


 村までの道のりは、街道が整備されているのでそこを通ります。普通に歩いて片道1時間といったところでしょうか。本気で走れば1秒もかからないと思うのですが、衝撃波やら何やらで周りに大変な被害を及ぼすことになりますし、私自身としてものどかな景色を見ながら歩くのは好きでした。

 なので、こうやって鼻歌なんかも歌いながら歩いているのです。浮遊も考えましたが、誰かに見られるとそれも色々とまずい事になるので、あまり滅多には使えません……とても残念です。


 少し前までは、こうやって人目につく街道を堂々と歩くなんて出来ませんでした。しかし、ミスラさんに強くしてもらい、時にはエンガス森林に生息する動物型のモンスターを相手に腕試しもしました。


 私は身長がまだ低く体付きも男の人に比べると貧相なものです。なので腕試しの時、私を見付けたモンスターは餌が自分から来てくれたとばかりに歓喜の表情を浮かべ襲いかかって来ます。

 それこそこちら側にとってはカモのようなもので、目の前に飛びかかってきた所をはたき落とせば、跡形もなく消滅してしまうのですが…


 こうした経験を経て、私は自分の力について理解を深めていきました。この世界で悠々自適と暮らすには有り余る力です。これからは自分で自分の身を守れるという自信がついた結界、街道や街中でも堂々と歩くことが出来るようになったのです。



 自分で自分の身を守るとはどういうことか?

 そう、例えば…


「おいおいこんな所に可愛いお嬢ちゃん一人たぁ不用心だなぁ? キヒヒ」


「見ろよ、すっげえ上玉だぜこりゃあ」


「まだ10歳前後ってところか? コイツを売ったら金貨200枚は下らねえよなぁ……くく……」


 街道があるとは言え、人口の少ない小さな村々を繋ぐものですので、日も暮れたここの街道は人通りがほぼ無くなります。

 その時間帯に通ることがあるのは、ワケありの者か商人の者か。人目に付かない上に狙い得の獲物が通る、となれば野党や盗賊がこれに目をつけないわけが無いでしょう。


 彼らもそのクチです。どこから湧いて出たかは不明ですが、剣や斧を持った男達が十数人で私を取り囲んでいます。


「あの、どいてくれませんか……?私急いで家に帰らなきゃいけないんです」


 絶対に無理だとは思いつつ、対話ができるか試してみました。相手方が明らかに私に害を加えようとすれば取るべき措置を取りますが、やはり事は荒らげたくないのです。


「帰れると思ってるのか? お前はこれから売り飛ばされて奴隷行き確定だってのに。抵抗しなきゃ痛くしねえからよぉ、大人しく捕まってくれや」


 目の前の斧を持った大男が薄ら笑いの表情を浮かべて私を諭すような口調で言ってきました。

 先程私は、できれば事を荒らげたくないとは言いましたが、相手によってはこちらも容赦はしません。メリハリというやつです。


「そうですか……後悔しますよ?」


 私がそう男に言い放つと、周りからは下品な笑い声が聞こえてきました。未だに私はただの非力な少女と思っているのでしょう。


「ギャハハハハハ!! 後悔するだと? 舐めた口利いて後悔すんのはてめぇの方だよ、両腕両脚切り落として愛玩具にしてやるからな! やれお前ら!」


「ヒヒ! 良い声で鳴いてくれよォ嬢ちゃん!」


 まず一人こちら側に飛びかかってきました。いくら私が強くなったとはいえ、油断は絶対にいけません。ただし、全力を出してしまって周りの環境もろとも破壊するなんてのも論外です。そのことを強く意識し、力加減を考えます。


「ヒヒヒ! ゲイニス盗賊団一の高速斬撃が見えるかなァ!?」


 剣が私の右肩目掛けて振り下ろされきてました。ひと月前の私ならば絶対に反応できなかったでしょう。そもそも戦いに関しては素人でしたから……

 ですが今はその高速斬撃とやらもナメクジが這うような速度に見えてしまいます。これも戦闘に関する基礎ステータスの暴力が成せる技です。


 私は体を一歩前に出して、剣の間合いの内に入ります。そして彼が剣を持っている左腕を掴んで、軽く外に引っ張ってやりました。


「…………ヒ?」


 彼は本来なら肩の先に付いているはずの左腕が無いことに気付き、悲鳴をあげました。


「ヒ………オォォォアアアアアア!!! いてぇええええ!!! あぁあああああ腕が!! 俺の腕がァァァァ!!」


 遅れてやってきた凄まじい痛みに顔を歪め、すごい動きでのたうち回っています。身体ごと投げ飛ばして、右側の男達に当ててやろうと思ってたんですが、どうもまだ力加減が出来ていないようです……対人戦は初めてでしたので、調整をしなければいけないと思いました。


 そして、腕を引きちぎってしまった周りがどよめいています。かなり慌てているようですが、かと言って一向に引く気配もありません。数で押し切れると思っているのでしょうか。

 このままでは彼らは全員返り討ちになるのでは無いでしょうか。私はまだ、かろうじて騒ぎをできるだけ最小限に抑えたいとは思っていますので、懸命に提案します。


「今ならまだ間に合います。自首しませんか?」


「てめぇ!!!」


「調子こいてんじゃねーぞ!!」


 今度は前から二人、さらに後ろから二人が一斉に襲いかかってきました。

 まるで話を聞いてくれません。鉱石ハンターとして鉱石との対話はできても、人と対話が出来ないなんて……自分や、男達に対する諦めに似た悲しい感情が湧き上がり、心の中でプツンと何かが切れる音がしました。


「……そうですか。じゃあ死んでください」


 これまで抑えていた理不尽に対する黒い感情、力を得たことにより色を強くした復讐心、自分を疑うような汚い何かがとめどなく溢れてきます。


「このクソガキ! 殺してやる!!」


 悪意を纏った4つの刃が私に向かってきます。私は"殺してやる"という言葉に眉をひそめました。

 複数人で一人に寄ってたかり命を奪うという卑怯な行為の癖に「殺して "やる"」とは、なんて上から目線なんだろうと。もう、我慢できません。


「獄炎!!!」


 私は悲鳴にも似た叫び声で名前を叫び、攻撃魔法を行使しました。炎属性のオリジナル魔法です。

 私が魔法名を叫び終わる頃には、私の立っている位置を中心にして業火の火柱が立ち上り、切りかかってきた4人と、最初に腕を引きちぎった男一人は悲鳴をあげることすら、いえ、何が起きたか理解する間もなく灰になりました。


 火柱を解き周りを見ると、生き残りの野党9人の顔は恐怖に引きつり、まるで化け物に出会った風に腰を抜かしています。1分前の下卑た笑い顔とはかなりの違いです。

 全員が完全に戦意を喪失していたのでしょうが、もはや私にとって敵の戦う意思なんてどうでもよく、ただこの人たちを全員殺すという明確な意思のみに突き動かされています。


「……次は貴方です」


 私は尻もちをついて震えている男を一人指さします。指をさされた男は「ひぃっ」と弱気な声を上げました。近くにいた男2人が慌ててそいつから距離をとって行くのが見えましたが、そいつらとみすみす逃す気はありません。


「どんな死に方が良いですか? 選ばせてあげますよ。さあ」


「い、いやだ……死にたくない……助けてくれ……助けて……」


「…………雷極」


 次の瞬間、男の身体がバチンッ!! と凄まじい光量・そして耳をつんざくような音を伴い爆発しました。突然起きた感覚器官への攻撃、そのあまりの眩しさと鋭利な音爆、その場にいた男達は全員、一瞬にして視力と聴力を失います。

 そして、発光の中心となった男がいた場所には、すすの溜まり場が一つできているだけでした。


 それでも私の怒りは収まりませんでした。風魔・水艶・氷華などあらゆる魔法を使って一人、また一人と塵も残さず殺していきます。


 ついに最後の一人になってしまったのは、斧を持っていたリーダーと思しき男。周りの状況が理解出来ていないようですが、彼にも一つだけはっきりと分かっていたことがあります。


 あぁ、自分はもう助からないんだ────と。


 私は、ピクリとも動かなくなったリーダーの男に近付き、胸ぐらを掴みます。光を失った瞳が、恐怖の色に滲んでいくのが分かりました。


「何か言い残すことは……って、そう言えばもう耳も聞こえないんでしたね。」


 私は掴んでいた手を離し、男を目の前に放り出すと、魔法を唱えます。


「今、殺して"あげます"。森羅万しょ……」


 もう詠唱も終わり、男にあらゆる状態異常が降りかかる────


 その時でした。

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