5.過保護スキル
それから私は、ミスラさんに今の私が出来ることを教えて貰いました。家を出て近くにあるエンガス森林にやって来て、講義や実技でみっちり指導を受けています。
これはミスラさんの計らいでした。力の使い方を正しく学ぶことで、危険から身を守って欲しいのだと言います。正直、私は力も無く一人では心もとなかったので、これはとても助かると思いました。
鉄をひしゃげてしまった時点でほぼ分かっていたことですが、やはり私の力は凄まじいものでした。純粋なパワーもさることながら、魔法においても桁外れです。
ここでまず魔法について説明しますと、この世界の魔法は大きく分けて三種類です。
一つ目は、火・水・風・氷・雷の五大属性による攻撃魔法。
次に、結界を張ったり盾を召喚したりして敵の攻撃から身を守るのが防御魔法。
そして三つ目は解毒や傷の回復を行う回復魔法。
その他詳細な分類をすればたくさんのものがありますが、そのいずれも自分の体内にある魔力を消費するという前提があります。まずは攻撃魔法と防御魔法、そして回復魔法この三つの違いを理解することが大切だとミスラさんは言います。
あとはスキルですね。スキルというのは鍛錬や加護によって得られるものとされています。例えばパワースポットに行ってご利益を頂いたり、毎日の習慣がスキルとなって具現化したりと、持っているスキルは人により様々です。
本来はぽんぽんと身につくような物でも無いのですが、ありがたいことに私はミスラさんから"女神の加護"によりたくさんのスキルを貰いました。
半日近くの講義を終え、森も暗くなってきたので私は家に戻ってきました。ミスラさんがお夕飯を作っている間、今日の講義内容を忘れないようにメモに残します。
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【使える攻撃魔法】
・炎獄
・雷極
・水艶
・風魔
・氷華
・森羅万象
敵単体に「火傷・凍傷・麻痺・混乱・毒」を確実に付与
【使える防御魔法】
・フルシールド
【使える回復魔法】
・慈愛癒
自身の傷・欠損・状態異常を全回復
他者に使用しても効果無し
・慈悲
範囲内にいる味方の状態異常を全回復
【スキル】
・鉱石採取
・物理攻撃無効
打撃・斬撃・突撃を完全無効
・魔法攻撃無効
魔法による攻撃を完全無効
・状態異常無効
毒・催眠をはじめとするその他ステータス異常を完全無効
・ダメージ無効
いかなる場合もダメージを無効
・絶対効果
所持しているスキルは相手によって無視及び無効化されない
・属性相性無視
五大属性の相性及び魔法・物理の相性を無視
・防御無視
相手の防御・結界・障壁・特性を無視してダメージ貫通
・スキル無視
相手のスキル効果を無視、及び効果を受けない
・魔力消費0
魔法等による魔力の消費をしない
・浮遊
任意に浮遊できる
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……化け物ですね。書いていて目眩がしてきました。
私に与えられた魔法は全て、この世に存在するそれぞれの属性最上位のものより遥かに高い威力を誇る私オリジナルの魔法だそうです。ミスラさんの命名した魔法の名前はとてもかっこよくて結構お気に入りです。出力は自在に調節でき、割と自由に使えるという話でした。
そしてスキル……こんなにスキルを持ってたら魔法とか使えなくても良いんじゃないかと思えてきます。私としては、自分の身を守れる程度で良いような気もしていたのですが……ミスラさんは過保護スキルでも持っているんでしょうか? とはいえ、スキルや魔法は一度身につけると持ち腐れることが無いものなので、ここはありがたくご好意に甘えさせてもらうことにします。
ちなみに攻撃力や防御力、素早さなどの基礎ステータスは底が見えなかった為に書きようがありませんでした……
こんな過剰とも言える力は貰いましたが、私は自分から人に危害を加えたりするつもりは全くありませんし、争い無く平和な日々を望んでいますので、やっぱり持ち腐れるかもしれませんね……
ある程度今日の講義をまとめ終わったタイミングで下からミスラさんの呼ぶ声が聞こえてきました。寝室のドアを開けるとお肉の焼けるいい匂いに誘われましたので、期待しつつ足早に階段を降りていきます。
「お疲れ様、アウネちゃん。今日も私が腕によりをかけて作ったから、たーんと食べてね」
「ありがとうございます、ミスラさん。何から何まで、感謝してもしきれないです……」
「良いのよ、私が好きでやってる事なんだし、もうアウネちゃんに辛い思いはして欲しくないもの」
「でも……」
「じゃあ、ありがたくお気持ち受け取っておくわね。ちゃんとお礼が言えてアウネちゃんはお利口だね〜」
エプロン姿で出迎えてくれたミスラさんが私の頭をよしよしします。なんというか、こう、ミスラさんといると自分がだめだめなぐーたら人間になっちゃうような気がしてある意味怖いです。
それに、ミスラさんによしよしされると、何だか心と体が熱くなって、心臓がドキドキして変になっちゃいます。これは由々しき問題です。これ以上おかしくなる前に止めさせなければ!
「も、もう! 子供扱いしないでください!」
「子供扱いも何もまだ子供じゃない。あぁでもでも、おませなアウネちゃんも可愛いわよ〜よしよし」
「う、うぁ……」
可愛いとか直接言われるとどうしようもなく恥ずかしくなってしまい抵抗できません。嫌がる私をひとしきり撫で回した後、満足したミスラさんはお皿によそった料理をテーブルの上に並べました。
ま、まあ、本当に嫌っていうワケじゃないんですけどね? 気持ちいいし、安心もするんですけど、それよりも恥ずかしさの方が勝ってしまうだけなのです。
かと言ってできればずっと撫でたり抱きしめたりして欲しいとか、ぜんぜん、これっぽっちも思ってませんよ!? ほんとですよ!?
「どうしたの? お料理もう準備出来たわよ?」
「へっ!? あ、あぁ! い、今行きます! わぁー美味しそうだなーあははー……!」
かなり動揺してしまいました。絶対怪しかったです。ほら、既に椅子に座っているミスラさんがきょとんとした顔でこちらを見てきます。あぁ女神様というだけあってどんな表情でも綺麗です………ってそうじゃなくて!!!
頭の中で自分になんだかんだと言い訳していると、怪訝な面持ちだったミスラさんの表情がはっと閃いたように明るくなりました。
「ふふ、私のお膝の上で食べさせて欲しいのね?」
ミスラさんがとんでも推理を披露しつつ「おいで」と膝を手でぽんぽんしています。
「え!? そ、それは流石に恥ずかしいとか、もうそういうのを超えてます!!」
「良いのよ遠慮しないで。ほらほら、つーかまーえた」
「うひゃぁ! は、離してーっ!」
「もう、本当に恥ずかしがり屋さんなのね。でも大丈夫、そんなアウネちゃんも可愛いわ」
ミスラさんは聞く耳を一切持たず、無理やり私を乗せて椅子に座りました。
「はい、じゃあ仲良く食べましょうね〜」
「ふ、ふぇ……」
「このスープ、ちょっと味付けを変えてみたの、とっても美味しいと思うわ! ふー、ふー……アウネちゃん、はいあ〜〜〜ん」
「あ……あ…………あ〜ん……」
あぁぁぁミスラさんの太もも、とっても柔らかいです。それに密着してるせいでその、む、む、胸が……豊満なお胸が当たってます……押し付けられてます……! って、あぁ! ミスラさんがふーふーしてくれたスープが口の中に運ばれてきますぅ……!!!
結局料理の味なんて全然分からないまま、私はミスラさんにお料理を全部食べさせてもらうのでした。