表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/20

4.蘇生ボーナス?

 私が落ち着いてからは、お昼ご飯を取りつつ改めてお互いの自己紹介をすることになりました。私がいた二階の寝室から一階に降り、リビングのテーブルに二人並んで座って食事を取っています。


 ちなみにお昼ご飯はミスラさんが手作りしてくれたようで、輪切りにした固いスナック食感のパンと、コーンのスープ、そしてこの辺に生息しているイノシスという獣のステーキなのだとか。

 質素な味付けがとてもさっぱりとしていて、疲れた体でもパクパクと食べ進めることができます。


 お母さんがいなくなってからは自炊をしていたのですが、自分の為に作ってくれた料理とはこんなにも温かいものなのかと、涙が出るようでした。


「それじゃ、改めて自己紹介するわね。私はミスラ、さっきも説明した通りこの世界を創った女神よ。私のお仕事は世界の調律なんだけど、より良い世界統治の為に各地を歩き回って独自の文化や生き物の進化を勉強しているの」


 調律だとか世界だとか、やっぱり神様のお話となると規模が桁違いです。私は終始ぽかんとするばかりでしたが、丁寧に説明してくれたので何となくは理解できたと思います。まったく実感は湧きませんけどね……


 ミスラさん曰く世界の調律というのは、ガナの世界に生きる人間を初めとした色んな動物達がより良い進化・発展を続けられるよう、種族間で過度な侵略などが起きないように運命の流れを変えていく事なのだそうです。

 調律は世界規模で行われる為、どうしても細部まで管理しきるのは難しいようで、度々ミスラさん自らがガナを訪問して様子を観察しているのだとか。


「…とまあこんな所ね。天界から現世に姿を実体化させるのには結構なエネルギーがいるから、今はそのエネルギーが時間と共に回復するのも待っているのよ」


「へぇ……なんだか、凄いですね。やっぱり神様なんだなぁ……」


「私からしたらこんな突拍子もない話を信じるアウネちゃんの方がよっぽど凄いけれどね」


 ミスラさんがそう言いながら私の頭を撫でてくれました。ミスラさんの手はとっても優しくて、撫でてもらっているだけでなんだか体が熱くなってきます。


 ひとしきり頭を撫でてもらった後、今度は私が自己紹介をする番になりました。


「私はアウネって言います。職業は鉱石(ミネラル)ハンターです」


「やっぱり鉱石ハンターだったのね。それにしては随分と若いようだけど...…歳はいくつなのかしら?」


「歳は……一昨日、かな……? 12歳になりました」


「12歳!?」


 私が年齢を答えると、ミスラさんは驚いたように語気を荒らげました。


 鉱石ハンターという名前で誤解されやすいのですが、ただ金や銀をツルハシなどで発掘するこの世界の冒険者とはそもそもが違います。この世界の鉱石には、それぞれ意思があり、自我があります。


 並の人が鉱石を採掘しようとしても、掘り起こすことはおろか、傷一つ付けることも出来ないでしょう。もしも何らかの方法で周りの土や石ごと剥ぎ取ったりしようものなら、鉱石は輝きを失いただの石塊になるのです。


 ではどうやって鉱石を得るのかというと、私たち鉱石ハンターの出番です。ハンターという肩書きは付いていますが、私たちが行うのは"鉱石との対話"です。対話と言っても直接言葉を交わすわけでは無く、この場合輝きを失わないよう鉱石内部の組織を保ちつつ、魔力を使って丁寧に対象を抽出することを指します。


 まず生まれ持った素質ある者のみが鉱石との対話をする資格を持ちます。さらに、どれほど素質がある者でも、実際にこの対話が出来るようになるまでは毎日休まず訓練したとして最低20年はかかるとされていました。


 ですから、12歳になったばかりの私が鉱石ハンターを名乗るというのは、誰もが驚いて当たり前のことだったのです。

 女神ミスラさんですらそれは例外では無かったようで、すごい娘がいるものねと頬をかいています。私は苦笑いで返すとさらに話を続けました。



「私は、王都で生まれて両親に大事に育てられてきました。6歳のある日、旅行先の海岸で岸壁に埋まっている綺麗な石を見つけたんです。それが鉱石とは知らずに、私はその石に手を触れました。そしたら石が輝いて、気が付いたら私の手元にあったんです。」


 その後も私は説明を続けました。実はその鉱石は、長い間どの鉱石ハンターとの対話も拒んでいた事で有名な物であったこと。その場を偶然見ていた有識者によってたちまち噂が広がり、その鉱石を手に入れた私も一躍話題の人物になったこと。


 ただでさえ人数が少なく貴重な鉱石ハンター、しかも将来有望なのはほぼ確実。それを冒険者や国が放っておくはずも無く……


 お父さんとお母さんは、私を引き渡して欲しいという数多の誘いを懸命に断り続けてきました。それは私を鉱石ハンターとして必要としているからでは無く、愛する娘として手放したくなかったから。


 でもある日、権力の象徴とも言われる宮廷からの誘いも断った両親は、突然いわれもない罪で逆賊扱いされて国を追われる立場になったのです。遂に国は私を手中に収める為の最終手段に出たのでしょう。


 そこからは地獄のような日々でした。


 国の手を逃れる為に家を飛び出し、モンスターの出る危険な夜の森をさまよったり、時には下水の中を通ったり。

 立ち寄った村でお父さんが流行病に感染し、そのまま帰らぬ人となったり。


 残されたお母さんと私は、それでも懸命に生きてきました。安息の地を求めて各地を転々とする日々。そしてお父さんの死から1年程立った日、その時がやってきたのです。


 古びた廃屋で夜を過ごした私が目を覚ますと、そこにはお母さんの姿はありませんでした。

 私は、その廃屋で何とか生き延びつつお母さんの帰りを待ったのですが、いつまでもお母さんは姿を見せませんでした。そしておそよ5年の月日が流れ、ついに私は廃屋を離れる決心をし、安住の地探しを1人で再開したのです。


 あとはミスラさんに話した通りです。鉱石を集めて生計を立てつつ旅を続けていたのですが、野党に目をつけられあんなことに……




「……それが私の全部です」


 私が自分の生い立ちを話終わり、ふと顔を上げると、ミスラさんが俯いてふるふると震えているのが見えました。

 私が困惑して「ミスラさん?」と呼びかけると、綺麗な顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしたミスラさんが私に飛び付いてきました。


「なんて健気な娘なの! 可哀想に……」


 私はまたもやミスラさんにきつく抱き締められ、身動きが取れなくなってしまいます。顔がミスラさんの豊満な胸に埋まってしまい息がしづらいです...…


「ミスラさん……く、苦しいです…」


「そうね、苦しいでしょう。でもそんな中で貴女は頑張ってきたのね……! すごいわ! 私、貴女のことすごく気に入っちゃった」


「ち、ちがっ、そうじゃなくて……息が……」


 どうやら私のことをミスラさんは気に入ってくれたらしいです。抱き締められたまま頭を何度も撫でられます。私は、何だか急に恥ずかしくなってきたのとそろそろ息が限界なのもありじたばたともがきました。

 やっとの思いで開放されると、ミスラさんは少しもの惜しそうな表情をしていましたが、涙を拭うとすぐに自信ありげな笑みを浮かべました。


「か弱い女の子の旅は危険が付きまとうもの。さぞ大変だったでしょう。でももう大丈夫よ!」


 大丈夫とは?

 私がキョトンとしていると、さらにミスラさんが衝撃の発言をしました。


「もうモンスターや怖い人に怯える必要は無いわ。実はアウネちゃんを蘇生する時に、私の力をたくさん貴女に与えたの。今のアウネちゃんはどんな悪意も跳ね返すし、デコピンで山を跡形もなく吹き飛ばせるくらい強くなってるはずよ!」



「……え?」


 デコピンで?


 山を?


 私は自分の手とミスラさんを何度も見ました。

 さすがの私もこればっかりは信じられないとミスラさんも勘づいたようで、どこから出したのか不明ですが大きな鉄の塊を私に渡してきました。直径1メートルはあろうかという鉄の塊なのに、ミスラさんは片手でそれを丸めた紙のようにひょいと扱っています。


「こ、これ、鉄ですよね?」


「そうよ?」


「よく片手で持てますね……」


「女神にはこのくらい当たり前なのです」


 ふふん、とミスラさんは自慢げに鼻を鳴らしました。


「でも、今のアウネちゃんもこのくらいは余裕なのよ? ほら、持ってみて」


「えぇ!? わ、分かりました……あれ、本当に軽い」


 確かに感触は鉄なのですが、重さがまったく感じられません。それこそ紙や葉っぱよりも軽く感じるほどです。かなりびっくりしましたが、なんだか夢のような光景に嬉しさの方が大きくなってきます。


「す、すごいです! 私、本当に力持ちになったんですか!?」


「そうなの! 今のアウネちゃんはこの世の誰よりも力持ちなんだから。試しにほら、ちょっと手に力を入れて鉄を握ってみて?」


 言われた通りに、鉄を持っている右手の指に力を入れてみると…


 鉄が凄い音を立てながらちぎれ、私が持っていた部分は跡形もなく消滅していました。

 凄い…凄い力なのですが、これはさすがに、力持ちとかそういう次元を超えた何かだと思います。


「はい、よく出来ましたっ。いい子いい子」


「…………」


 ミスラさんが満足げに私の頭を撫でます。

 私は自分がもはや人間じゃなくなったような気がして、しばらく右手のひらを見つめて固まっていました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ