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16.能ある鷹

 3月7日:本編の文章を全て推敲し、基本的なルールに則って比較的読みやすい文章に直しました。

 まだ、描写や分かりやすい説明等については試行錯誤中ですが、出来る限り頑張りますので何卒よろしくお願いします。

「あー、とにかくあれだ。そんなもん見た事ねえしお前さんみたいなガキンチョが かの勇者や魔王と同ランクなワケねえだろ。俺だって暇じゃねえんだほら帰った帰った」


「な、ななな……!!」


 私は怒りのあまり地団駄を踏みます。

 必死の形相で睨みを効かせた先にいるのは、立派な髭をたくわえた体格の良いスキンヘッドの男性。ギルドマスターです。


「じょ、冗談じゃないです! ワールドドラゴン討伐の為にせっかく王都まで来たんですよ!?」


 そう、私は一人で王都に来ていました。理由は先程言った通りです。

 レイチェルと一緒に過ごすようになってから1ヶ月。私達は家で豪勢かつのんびりとした毎日を過ごしていました。貴重な素材をふんだんに使った料理が毎日三食、皆で服やアクセサリーのショッピング、お洒落なデザートの専門店で間食。

 働くこともせずにそんな楽しい生活を送っていれば当然直面する問題がある訳でして。

 それは……



──圧倒的金欠──



「このままでは生活費が底をついてしまいます……お願いします! 今ワールドドラゴンの依頼が出ているのは王都だけなのです! 破格の達成報酬の為、是非受けさせてください!!」


「しつけえ嬢ちゃんだなあ。いい加減にしねえとつまみ出すぞ? そもそもお前さんみたいなのがワールドドラゴンに勝てるワケねえだろ」


 とまあ、こんな感じの押し問答を10分近く続けているのです。

 ギルドのトップなのに受付なんかやってるギルドマスターのおじさんは、SSS級プレートを見た事が無いらしく、頑なに私の肩書きを認めようとしません。

 外見が少女なので信じられないのも無理は無いのですが、それにしても頑固です。全く譲ってくれません。


「良いかお嬢ちゃん。これはお前さんの為でもあるんだ。俺ぁ冒険者生活の中でな、背伸びして死んでった奴をたくさん知ってんだ。だからここのギルドマスターを務める者として、ランクではない部分でも依頼の適正を見極める必要があるんだよ」


「わ、私がそんな弱っちく見えるんですか!?」


「逆に強く見えると思ってんのか……」


 先程も言いましたがこのおじさん、本当に頑固です。そろそろ周りにいた冒険者の方や順番待ちの人達からの視線が痛くなってきました。

 でも! ここで引く訳にはいきません。ルシファーさんのような有無を言わさぬ交渉術を得る為にも、相手を納得させる手段を考えるのです。


「なあ嬢ちゃん、悪いこた言わねえ。帰ってママのお手伝いでもやってな?」


「帰ってもお母さんはいませんっ」


「ああ?そりゃ悪かったな。……って、とにかく順番もつかえてんだ。どうしても受けてえなら俺と決闘でもして勝ってから受けるんだな」


「!!」


 決闘ですか。そう言えばそれを失念していました。


 ギルドに所属する冒険者達には、決闘という制度が存在します。冒険者の中にはどうしても馬が合わない者同士や意見の対立などがあります。

 そんな時に役立つのが決闘です。

 お互いに同意してギルドに申し込むことで、職員立ち会いの元に二人で戦う権利が得られます。

 そして、降参させるか気絶させるかして見事決闘に勝利した側が言い分を通せるのです。


 力こそが全てと言わんばかりのギルドにお似合いの採決方法と言えるでしょう。

 でも、恐らく今の私にとってはトラブルを合法的に、かつ絶対的(・・・)に処理できる最高のシステムです。

 ギルドマスターから言ってきたのですから、これを逃す手は無い。そう考えた私はギルドマスターに詰め寄りました。その時の私はルシファーさんと同じくらい悪い微笑みを浮かべていたことでしょう。

 

「それなら、私は貴方に決闘を申し込みます!!」


「……ほう」


 それまで騒がしかったギルド内が、私の申し込みにより水を打ったように静まり返りました。

 次第にまたざわざわと、私に対する反応で騒がしくなります。


「おいおいレジストに挑むとか命知らずかよ」


「ありゃ終わったな」


「死んでも知らねーぞ…」


 この反応を見るに、おじさんことレジストさんは王都の冒険者の中でも一目置かれる実力と思われます。

 中には私を止めようとする人や面白半分で囃し立てる人などもいました。


「言っとくが、俺ぁ決闘となれば女子供だからって容赦はしねえぞ」


 面倒臭そうにしていた先程とは打って変わって、真剣な面持ちのレジストさんが私を見据えます。


「もちろんです。後で言い訳なんてされたら困りますから」


 私はそんなレジストさんを余裕たっぷりの笑顔で見上げるのでした。



◆ 王都プレリュード郊外の荒野 ◆



 あの決闘の申し込みから2時間後、私達と冒険者達は王都から大分離れた荒野に来ていました。

 辺り一面を赤色土が埋めつくし、草木も生えていないような平地です。遠くに見える山も丸裸となっており、ここの環境の厳しさを物語っています。


 普通なら決闘はギルド横の模擬戦闘施設内で行われるのがベターらしいのですが、そんな狭いところだと実力を出せずに不完全燃焼になりそうです。

 それならば、と今回はこの広い荒野を指定し、少しばかり力を解放したいと思っていました。


「なんだってこんな遠くに来たんだよ」


 レジストさんはもはや移動で少し疲れてしまったようで、心底嫌そうな顔をしていました。

 冒険者の方々も同様ですが、勝手に着いてきたのですからそこは自己責任ということで……


「ここなら、多少暴れても問題ないと思いまして」


「余程俺に本気を出させたいらしいな」


 レジストさんから溢れんばかりの闘気が湧き上がってくるのが分かりました。

 そう来なくては。全力のレジストさんを正面から倒して、私を女の子供だからとあしらおうとした事を後悔させてやりますっ。


 お互いに軽くアップをした後、荒野のど真ん中向かい合っていて、その距離はおよそ10メートル。いよいよ戦闘開始の間近です。

 レジストさんは、自身の身の丈程ある巨大な件を構えて開始の合図を待っています。軽々と構えているあたり、力は強そうです。


 対する私は何も持たず立っているだけ。そのせいかレジストさんの表情は更に険しいものとなっています。



「それではこれより決闘を開始します。相手が降参または気絶することにより決着とします。怪我の治療費は自己負担です。また、相手を死亡させた場合は法に則り投獄・冒険者資格剥奪となりますのでご注文ください。それでは両者準備はよろしいですか?」


「はいっ」


「いつでもいいぜ」


「それでは……初め!!」


 立ち会い員の威勢のいい合図と共に試合開始となりました。私はレジストさんの実力を測る為にあえて隙を見せておき、出方を伺うようにしました。


 対するレジストさんは、私相手にどの程度の力までならいけるか考えているようです。

 レジストさんの私に対する認識は未だに"ただの少女"なのですから、うっかり攻撃してしまえば大惨事になると考えているのでしょう。


「ちっ……考えても埒が明かねえ。何せお前さんみてえな奴は初めてだから俺もどうして良いのか分かんねえんだよ。だから、悪く思うなよ!」


 そう言うとレジストさんは両手に持った大剣を右後ろ、剣先を地面に降ろすように構えました。 

 そして、腰の高さに来た持ち手を強く握ると、大剣に魔力が集中していくのが分かりました。


(来る!)


「いくぜ……ソニックカットォ!!」


 レジストさんが思い切り剣を振り上げ、土くれを巻き上げながら三日月形の斬撃波を飛ばしてきます。

 周りの地面をえぐりながら直進する風属性の鋭利な刃は、私の横スレスレを通り抜けていき、50メートル程進んだで所で消失しました。

 ソニックカットの通り道には、巨大なイモムシが這ったような痕が残っています。


「やっぱいつ見てもレジストさんのソニックカットは次元が違う……」


「ありゃあ間違いねえ。あのグレートワイバーンを一発で切り裂いたって話は本当だったのか!」


 なるほど、今のがレジストさんの必殺技ですか。確かに今の斬撃の鋭さなら、あのワールドチャンピオンにもかすり傷くらいは負わせられると思います。

 そのくらいの威力は確かにありました。

 レジストさんは周りの称賛の声を受けてもなお表情を変えずにこちらを説得しようとしてきます。


「見ただろ、この威力? お前さん、反応すら出来て無かったようだな。さっきはあえて外してやったが、降参しねえってんなら……次は当てるぞ」


 そしてレジストさんは先程と同じ構えに入りました。前回のそれとは比べ物にならない魔力が集まっていくのが分かります。

 一発目の斬撃も威力は高かったですが、今回はその倍程度でしょうか。風ひとつ無かった荒野に気流が発生し、周囲の砂を剣に巻き上げていきます。


 周囲がどよめき距離を置く中、私はまだ一歩も動いていません。あの大剣にいったいどれ程の魔力が集まるのか興味があったからです。

 恐らくレジストさんは、先程の牽制で私を降参させようと目論んでいたのでしょう。全く平静を崩すことの無い私を前に、魔力のチャージが鈍くなっていきます。


「良いのか? 本当に撃つぞ? 降参するなら今の内だぞ?」


 まるで私に降参して欲しいと言わんばかりです。レジストさん、言葉や態度は荒いですが根はいい人なんでしょうね。

 でも、それに免じて退くという選択肢はありません。



 絶対に勝ちます。



「良いですよ。私も全力で迎え撃ちますから。フルシールド!!」


 全力で迎え撃つためには、周囲への被害を防がなければいけません。そこで私は、私とレジストさんを囲むように球状の防御壁を展開。冒険者たちを外に追い出すような形になりました。

 ここで、ようやくレジストさんと周囲の人達の目の色が変わります。


「ほお……こいつぁ上等な防御魔法じゃねえか。どうやら本当にただのガキって訳じゃ無さそうだな」


「さ、最初からそう言ってるじゃないですか」


「そら悪かったよ。だが決闘は決闘だ。俺に勝てねえような奴がワールドドラゴンに勝てると思うな……よッ!!」


 レジストさんが、躊躇い無く剣を振り抜きました。凄まじい鎌鼬(かまいたち)を全身に纏った斬撃が飛んできます。

 防御壁の中は巻き上げられた砂塵により全く見えなくなりました。視界の悪い中、唸りをあげてこちらに迫ってくる斬撃の声だけが聞こえます。


 ここが頃合いでしょうか。私も動くことにします。レジストさんには申し訳ないですが、真正面から叩き潰します!


水艶(すいえん)!!」


 まず私が行ったのは砂塵の除去。私の足元から湧き上がった大量の神水が、目にも止まらぬ速さで防御壁内を飛び回り、砂塵を一つ残らず濡らして地面に落としました。

 ちなみに、レジストさんのソニックカットは加減した雷極の稲妻を当てて、既に消滅させています。


 砂が消えた事により、再び視界がクリアになりお互いの姿が見えます。


 レジストさんは呆然としていました。先程の一撃で魔力をかなり消費したのか、肩で息をしています。


 一方の私は、砂が髪や服に付いてしまったので神水を身体に纏わせて浄化していました。あとは風魔と獄炎を極小火力で使えば、熱風送付の効果となり身体は直ぐに乾きます。

 無論、地面の砂にはたっぷりと神水が染み込んである上に、氷華で水と共に凍らせてあるので巻き上がることはありません。

 戦闘中ですが、身だしなみは乙女の最重要項目ですからね。如何なる時も疎かにすることはできないのです。



 ……とまあ、この一連の流れからも分かるように、私は多属性の複合魔法を使えるようになっていました。

 魔法演算を並行して構築するのは非常に難しい作業でしたが、こんなことができるのも1ヶ月に渡る特訓の末の代物です。


 通常、人には魔法の適正属性というものがありまして。個人につき適正は大体一つの属性しか付きません。

 稀に複数属性に適正を持つ人もいますが、属性の違う魔法同士を同時に使うというのはかなり大変なことなのです。


 属性が違うと、魔法の構築式もかなり変わりますからね。例えるなら、計算問題と読解問題を同時に解いているような物です。

 そんなこんなで、現状で五属性魔法の同時行使なんて芸当が普通の人に出来るはずもなく……


 レジストさんはとても驚いているみたいです。

 まあ、当然ですよね。


「五属性魔法の同時発動……お前さん、一体何者だ」


「だからさっきから言ってるじゃないですか! SSS級冒険者のフリルですってば!」


「お前さんが? にわかには信じられん……いやしかし、さっきの魔法といい、俺のソニックカットを消し飛ばした事といい……だが……」


「ああもう! じゃあ次は私の番です。この一発で認めさせてやりますっ!」


 そして、私は遠くに見える山に向かって魔法を打つことにしました。それは、五属性魔法を全て使った大規模攻撃です。


「いきますよ……マジカル・メテオ!!」


 五属性魔法となれば構築に2秒ほど要してしまいます。しかし、まともに発動させることすら出来なかった前と比べれば上出来でしょう。


 私が魔力を放出すると、空にかかった一面の雲を押し割り、巨大な氷の隕石が一つ落ちてきました。

 王都くらいは入りそうな体積の氷は、水艶を氷華で凍らせて個体にしたものです。

 また、落下の速度を早める為に、隕石の後ろでは連続的に獄炎の爆発が起こっており、風魔による風の推進力もあってとんでもないスピードです。


 瞬く間に落下した隕石は、連なる山の全てを粉々に消し飛ばし、自身も砕けると共に内包していた雷極──稲妻が辺り一帯に撒き散らされます。

 ちょうどその辺を飛んでいたワイバーンの群れらしきものが雷に直撃してひゅるひゅると落ちていくのが見えます。




 強烈な砂煙をあげる遠景をただ眺めることしか出来ない冒険者一同。流石にここまでやって実力を認めない者は居ないはずです。多分。


「レジストさん、これでも認められないと言うのならまだ魔法はたくさんありますよ。次は何を撃ちましょ……」


「わ、分かった! 分かったらもうやめろ!! 疑ってすまんかった!! この通りだ、な!?」


 現実逃避していたレジストさんが慌てて静止しました。威厳に満ち溢れていた最初の面影は無く、ひたすら頭を下げます。

 周りで見ていた冒険者達も、腰を抜かしたり泣き出したり、私を拝みだしたりと様々です。


「本当ですか! じゃ、じゃあワールドドラゴン討伐の依頼を受けても良いんですね!?」


「認める、認めるとも。決闘も俺の負けだ。 ただし、あの魔法は無しだ! あんなもん連発されたら何もかもぶち壊れちまう!!」


「大丈夫です。ワールドドラゴンなんて素手で十分ですからっ」


 やりました。何とか信頼を勝ち取り、正式に討伐依頼を受けられることに。

 私は満足して頷くと、レジストさんに親指を立てました。レジストさんが魂の抜けた様な表情でグーサインを返してくれます。





 そしてその日の夜、討伐の証明であるワールドドラゴンのツノを85組持ち帰った私は、ギルドで思わぬ事態に遭遇することに────

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