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15.危険な親権

 私の名前はレイチェル・フォールン。以前はレリューム街の誇り高き公爵、クリオネ様の元で給仕としてお仕えしておりましたの。


 でもそれは表の姿。

 有事の際には我が主……クリオネ様の刃となって輩を打ち倒し、またある時は敵対する勢力の主要人物を闇討ちし……全ては孤児である私を拾い上げ、愛情を込めて育てて下さったご主人様への恩返しとして全身全霊を込めて参りましたわ。

 親の温もりを知らぬ私に与えられたのは、先輩方との他愛もない世間話や、公爵の自慢の一人娘とのおままごと、そして私の名。人並みの生活とはこんなにも暖かくて、幸せなんだと気づかされました。


 裏の仕事内容は精神的に生易しいモノではありませんでしたが、それも我が主の為と思えば迷う暇など一瞬もありません。


 私を拾ったご主人様──クリオネ様はそれは素晴らしい方でした。己の利益だけにこだわらない政策、身分に関わらず親身になれるその姿勢、そして、多くの者を先導しまとめ上げるカリスマ性。どこを取っても非の打ちどころがありませんわ。


 私のような者を迎え入れ決して公には出来ないような命令も確かに行いましたが、それはあくまで自己防衛。街の貴族達から見れば、クリオネ様の政策は自分たちにとっては旨みの無いものであり、邪魔なものを潰そうと刺客をけしかける者もいたからです。

 この街の貴族達の大半は自分勝手で、私服を肥やすことしか脳のない家畜以下の存在です。そして機会を伺ってクリオネ様を手にかけようとする連中も少なからずおりましたわ。


 幼い頃より自発的に、そして徹底的に鍛えてきた戦闘能力をもって私はそれらを全て返り討ちに致しました。そして、クリオネ様の隠し刀として暗躍を続けたのです。


 ご主人様や仲間と共にこの街を改革する……そんな夢は呆気なく崩されました──


 ワールドドラゴンの群れの襲来です。


 奴らはこの街に降り立つなり破壊の限りを尽くしました。

 私やその場に居合わせた冒険者達で必死に応戦致しましたが、能力は相手の方が格上であり、しかも多勢に無勢という最悪の状況。

 奇跡などそうそう起きるはずも無く一人、また一人と殺されていきました。


 屋敷には触れさせまいと必死に抵抗を重ねましたが、私は一瞬の隙を突かれてドラゴンの尻尾を受けてしまい遠くまで吹き飛ばされてました。鍛えていたおかげか、一撃で絶命することはありませんでしたが、あの時のダメージは確実に過去一番でしたの。



 しかし、護るべきものがある以上このまま終わる訳にはいきません。意識を失いそうになりながらも、私は再び屋敷に戻ります。涙を堪えながら、ふらふらの脚にムチを打って曲がり角を駆け抜け屋敷の目の前に立った時────


 そこに屋敷はありませんでした。


 荘厳な佇まいの屋敷も、自慢の女神像も、公爵の愛娘様が大切にしていた薔薇の庭園も、その何もかもが一瞬のうちに破壊され尽くした後でした。


「そんな……」


 そこで私は希望と共に意識を失いました。


 次に目が覚めた時にはベッドの上。倒れていた私はギルドの一室にて保護されました。

 冒険者たちの話を聞くとどうやら襲撃したドラゴン達は親玉を倒され4分の3以上が討伐。生き残りも慌てて逃げ出したそうです。


 そしてそれを成し遂げたのは二人の冒険者、ルシファーとフリルというパーティーだと。私が話の中で一番驚いたのはフリルという少女の存在です。


 なんと取り巻きのドラゴン達を倒したのは全て彼女で、規格外の強さを持つはずの親玉も仕留め損ないはしたものの、まるで相手にならなかったとも聞きました。しかも年齢はまだ12になったばかりと言うではありませんか。


 恐らく、とてつもない才能と度量の持ち主。

 この世の理からかけ離れた存在。


 身近にいるであろうそんな英雄のことを思うと、自分という存在がとてもちっぽけに思えます。


「私の鍛錬の日々は……無駄だったのでしょうか」


 安静にしてろという心配の声も無視して私は屋敷だった場所に向かいます。もしかしたらご主人様や他の使用人達は生きているかもしれない。

潰えかけた希望の光を探して……


 しかしそこは、昨日私が最後に見た光景と代わり映えしませんでしたわ。


 呆然と立っていることしかできない私。本当は泣きたかった。でも、現実を受け入れられなくて泣くことすらできませんでした。

 一体何分の間、そこに立っていたのでしょうか。


 やがて目の前の"惨劇"をゆっくりと受け入れ始めた私の後ろから声がかかりました。

 私が振り向くと、心配そうにこちらを見つめる少女と青肌の女性。そうでしたか、この二人が──


 この少女が多くのドラゴンを屠った本人……


(とてもそうは見えませんわね)


 そして私はしばらくフリルさん達と話をしました。途中で突然ルシファー様に頭を下げられたり、フリル様に慰められたり、最初こそ戸惑いましたが二人は本当に暖かかった……


 そしてフリル様は、私の心に刻まれた後悔の念も拭い去ってくれました。


 私を抱きしめ、自らの境遇を教えてくれたフリル様。貴女も私と同じ……温もりを求め泣いていた女の子だったのですね。

 何よりも、フリル様に包まれている間は不思議なことに、まるで大地に抱かれ心地よく揺蕩うような空間が広がるのです。


 それは、母の温もりを知らない私にとって、初めて得た"慈愛"でした。クリオネ様に撫でられた時にも、友達になったメイドと手を繋いだ時にも味わえなかった至福の感覚。


 ああ、この方こそが私の──────




 クリオネ様、どうか主を変えこの屋敷を去る私を許してください。

 オリヴィア、カレン、レイラ、私の友達になってくれてありがとう。

 トレニア先輩、メイド業務が上手く出来ない私を目にかけ熱心に指導してくださり、ありがとうございましたわ。





 そして、お母様。

 私に本当の愛を教えてくれてありがとう────







「……と言う訳ですわ、ミスラ様。私はフリル様、もといアウネ様をお母様として敬い、この身を捧げ仕えることにしたのです」


「レイチェル……なんて健気な子なの……!」


「ミスラよ、泣くのは構わんが鼻水くらい拭いたらどうじゃ……」


「な、なによ。貴女も泣いてるじゃないのよ!」


「こ、これは違うぞ、ちょっと目から獄炎が……」


「なんで炎なのよ! 大惨事じゃない!!」


「…………」



 という三人の会話を娘の膝の上で聞いていた私、レイチェルの母アウネは思うのです。何だか良い話に纏まってますけど、違くないですかレイチェルさん。娘は普通お母さんを膝の上で愛でたりしませんよね? 逆ですよね?

 あとレイチェルは私をときどき舐め回すような目で見てきますけど、娘は普通お母さんに向けてそんな妖しい眼差しを送ったりしませんよね?

 もっと言うと普通に考えて娘は母の寝込みを襲ったりしませんよね?


 この家に来てからの七日間で貴女がやったことですよ全部。

 しかもどうやら我が娘は前職での鍛錬により隠密スキルを身に付けているようです。普段ならともかく、寝ている間に這い寄られでもしたらとても私には察知できません。

 その、性だとかえっちな事とか、そういうこと(・・・・・・)に関する知識は昨日ルシファーさんに教えて貰ったおかげである程度持ってはいるのですが、まさかこの歳で貞操の危機を感じるとは思いませんでした。(ルシファーさんの授業もかなり刺激的で何度も倒れそうになりましたけど…)


 流石に未遂とはいえ寝込みを襲われた時点で私も危機感を覚えました。そこでルシファーさんに相談すると、そういう知識を教えてくれたのです。

 非常に助かりました。このままでは何が何だか分からない内に娘の毒牙にかかって花を散らすところでしたから。


 そう、気付いています。

 気付いてしまっているのです。



 (レイチェル)が、(わたし)に欲情していることを。


(娘がロリコンでマザコンって……どないやねん……です……)


 本当は直ちにやめて欲しい。

 ただ、レイチェルに面と向かってそれを伝えるのはかなり怖くて踏み出せないでいます。立ち直りかけてた所をもう一度私のせいで挫きでもしたら、自暴自棄になったレイチェルに無理やり……なんてことも考えられるからです。

 結局、現状はちょっと過剰なスキンシップくらいしかしてこないので、また寝込みを襲われたりしない限りは何も言うまいと考えていた私です。


 ……で、もう一つ訂正というか補足しなきゃいけないことがありまして、それは彼女の屋敷の人達のことです。

 彼女は勝手に主人や友達を亡きものにしていますけどそんなことはありません。地下室で全員生き延びており、今は再建に向けて着手しているそうです。

 ていうかレイチェルもちゃんと挨拶してたじゃないですか……




 まあ、それはさておき……今日の夜も、七日目にして既に恒例となった"よしよしタイム"の時間です。





「お母様……本日レイチェルはお母様のお気に入りの服の解れを直して裾のシワも取り除いておきましたわ」


「本当? 流石はレイチェル、やっぱり貴女は私の自慢の娘だわ。ほ〜ら、ご褒美に抱きしめてあげるわ。こ、こっちにおいで」


「ん、お母様……暖かいです……えへへ」


「可愛いレイチェル……よしよし、良い子良い子」


「お母様ぁ……んっ、ちゅぱ、れろ……んん」


「ひゃんっ……もう、レイチェルったら。そんなに私の指が恋しかったの? しょうがない子ね」


「らって、お母ひゃまの、ん……指……おいひいんれすもの……ちゅぷ、ちゅう……」


「……………」


(この拷問みたいな仕打ちはあと何日続くの?)


 子供にあやされて幼児退行して欲情する大人って、(はた)から見たらかなりやばい画です。現に当事者である私にもやばいという自意識があります。そのくらい歪な関係ですよ、これ。


 結局、それから5分後にレイチェルは私の膝の上ですやすやと穏やかな寝息を立てて就寝しました。私は精神的にくたくたになりながらもレイチェルの顔を覗きます。

 やっぱり整った顔立ちで綺麗なお姉さんです。こんな綺麗で凛とした女性が、私みたいな少女と逆転母娘プレイしてるだなんて言われて誰が信じるのでしょうか……きっと私は信じません。



 でも何だかそう考えると、謎の優越感があります。んん?この感情は一体……そもそも優越感って、私は何に優越してるんでしょうか?謎です。


(ま、いいか。そろそろ私も寝よう……)


 レイチェルを起こさないようにそっと頭から脚を退け、仰向けに寝るレイチェルの上に覆いかぶさって就寝の体勢に入ります。

 ちょうどレイチェルの大きな胸が枕代わりになり、それはもうどんな枕よりも心地が良いです。これはよしよしタイム二日目に発見した究極の就寝システムで、極上の寝心地を実現します。


 こうするとレイチェルは、寝ていながらも必ず私のことを抱きしめてくれます。前も後ろも優しい温もりに包まれて、私もすぐに夢の中を揺蕩うことになるのです。


(もしかしたら、私も既に親バカ? なのかも……いやいや、これは普通です。私(12歳)がお姉さん(25歳)に甘える……普通の事じゃないですか。なにもおかしくないです、うん)


 誰に言うかも分からないそんな言い訳を考えている内に、眠気に身を委ねていつの間にか意識を手放すのでした。

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