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プロローグ


「うわぁ……」


 のどかな田舎町の一角、風車の立ち並ぶ丘で一人しゃがみこんでいる、ピンク色の長髪の淑女は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 田舎も田舎、筋金入りのド田舎の景色にはあまりにも場違いな彩度の強いドレス姿。

 それだけでも十分に異様な光景ではあるのだが、その足元にはさらに衝撃的な光景が広がっていた。


 覗き込む淑女の視線の先には、仰向けで地面に倒れている一人の少女。

 体中は血で赤黒く染まっており既に息をしていない。

 可愛らしい年相応のフリル付き衣服を貫通し、体中の至る所に致命傷となる程の刺し傷があった。


 彼女の足元には死体が転がっていた。


 傷口から流れ出た血は周囲の草花を赤く染め上げている。

 成人男性ですら堪えるであろう惨状を目の当たりにして、淑女はショックで閉口……とはならなかったようで、やれやれと落胆のつまった溜め息をついた


「この傷口、人口的な刃物によるものね……まったく、小さい女の子相手にここまでするかしら普通。」


「周りに僅かながら鉱物の欠片が転がっていますね。恐らくは野党に襲われた若き鉱石ハンターもしくはどこかのご令嬢…といったところですかね。いかがいたしますか?」


 どこからか淑女に尋ねる落ち着いた女性の声が聞こえたが、周辺には他の人物は見当たらない。

 淑女は自分の柔らかそうな頬に右手を添え、悩まし気に、しかし観念した様子で応える。


「もう、言わなくても分かっているでしょう? 助けないでどうするの。」


「3年間は故郷に帰れなくなりますよ。」


「たった1000日くらいどうってこと無いわ。それよりも今この子を見過ごすことの方がどうかしてるわよ。」


 淑女は血塗れの少女に自分の右手をかざす。


「流石は我が主様にございます」


「はいはいありがとう。それじゃやるわよ」


 従者と思われる者の声にそっけない返事をした直後、かざした右手からまばゆい光が放たれ少女の体は包まれた。見るものすべてを温かく抱擁するようなやや紫がかった光。


 輝きが最高潮に達してから数秒後、光はゆっくりと光度を弱めていき、やがて消えた。

 光の消えた後に残されたのは先ほどの少女、依然として血濡れの恰好で仰向けに倒れこんだままだ。

しかし、先程と比べて明らかに異常な点が一つ。


「すー……すー……」


 なんと、先ほどまで絶命していたはずの人間が穏やかな寝息を立てているのだ。

 その様子を間近で確認した後、淑女は一仕事終えたと言わんばかりに左手で額をぬぐった。


「主様、今の紫の光はまさか……」


「ごめんなさいセルア。3年どころかあと100年は戻れそうに無いわ」


「……お人好しが過ぎますね」


「そうなったのは何故かしらね」


 分からないわ、と言う割にはその声色は既に何かを悟っているように聞こえるが。


 淑女に抱きかかえられ、何処かに連れていかれた少女が元通りの体で目を覚ましたのは、それから二日後のことであった。

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