リハビリ
大きな手術後、あちこち痛む藤子。
夫の清次に愚痴ったり、相談したり。
痛みについての描写があるので、苦手な方は避けてください。
大切な事なので、2回書かせていただきました。
藤子は、全身筋肉痛だった。
先月、病気入院、手術をし、幸いにして、経過は良好らしいが、傷を無意識にかばっているらしく、傷口と関係ないはずの腰やらお尻やら、足やらが痛いのである。
入院中、リハビリの先生がついてくれて、言うには、「よく動かす事。ただし、無理はしない事。」という、理屈は解らんでもないが、どこで止めればいいんですか?状態の指示が出て、当惑したものである。ちょっといい男で、ときめいてしまったのは、夫の清次にはナイショである。
そんなわけで、籐子は、動くたんびに、「ウォー!」「痛いー!」と叫びつつ、家事を行うのであった。
見兼ねた清次が、
「…わかった。屈むのが辛そうだから、風呂はしばらく俺が洗う。」
と言ってくれた。
嬉しさのあまり、
「きゃーステキ!清次さん、大好きー!!!」
と抱きつこうとしたら、思ったより体が俊敏に動かず、油切れのロボットっぽい動きで抱きついたのは余談である。
「そう言えば、痛みってどんな感じなんだ?」
と、清次に聞かれ、
「んー。袈裟懸けに切られるって、痛いんだなー!と思ったー!麻酔なしなんて有り得ないー!
昔の武士、偉すぎ!切腹なんて絶対無理無理無理!
傷口の表面の痛みと、手術した病気自体痛みがあるから、ちょー、痛い!
出産の時の痛みとはまた種類が別かなあー?」
と、ここぞとばかりに詳細に解説したら、
「ありがとう。もういい。俺が手伝える事はするから。」
…ドン引きされてしまった。聞かれたから話したのに。…人間、ほどほどが大事なようである。
ギー、ガシャン、ギー、ガシャン、ギー、ガシャン!
を、流石に声には出さずに、心の効果音で、病院に来た。
今日の僕、ならぬ、運転手および付き添いは清次だ。
動転して事故ったら、シャレにならないからー。とよくわかんない理屈で泣き落として、付き合ってもらった。
「お名前で失礼します。山形藤子さんー」
「はーい。」
術後の検査発表と、今後の方針。
とりあえず、傷口も、経過はよく、今後は何カ月かに一度の経過観察で済みそうだ。
先生の話をここまで聞いて、つい、清次の方を涙目で見てしまった。清次に、笑みとともにうなずいてもらえて、胸の底から、嬉しさと幸せがこみあげてくる。
痛さについて聞くと、先生には、
「人それぞれではありますが、だんだん少なくなっていきますよ。日にち薬、といいますが、だいたい一年くらいかかって体は戻っていくとお考えください。痛み止めのお薬も出しておきますので、上手に使ってコントロールしてくださいね。我慢はしないでくださいね。」
と言ってもらえた。これも一安心である。しかし、ロボットパントマイムはしばらく続きそうだなあ・・・。
藤子が内心とほほ、と思ってまた清次を見やれば、小さくガッツポーズしてた。(笑)
「ありがとうございましたー。」
診察室から出る。次は2か月後。ホッとする。
「あー良かったなー。」
「そーだな、俺も安心したよ。」
嬉しそうな清次の横顔。そして、久々の2人きりだ。そして、やっぱり、私のいい男(秘密)。
ちょっと不安になった藤子。
「ねえ清次」
「何?」
「妻が大病した時に、夫が浮気する事があるんだって。どよよん、だよ。」
何か思考があさってに行ってしまったらしい。
「暇人なの?!」
「なんで?」
「仕事してて、帰って育児もして、藤子の愚痴も聞いて、時々夕飯も作って、子どもの宿題も見て、明日の仕事の準備もして、なんで疑われないといけないの?」
「す、すみません。時間あったらするんですか?」
「じゃなくて、しませんよ、そんな手間暇かかること。」
「万一の時は、いい人いたら再婚をしてもいいよ。」
「まずは頑張って長生きするように!子ども2人抱えた中小企業のおっさんに、いい相手が来るわけないでしょ。かいかぶりすぎ。買ってくれるのは嬉しいけど。それに、」
「?」
「結婚式で神様に藤子を愛すると誓ったし、大事にすると誓ったし、こんな時のための夫婦だし、有給でしょうよ。疲れてるとろくなこと考え付かないから、美味しいもの食べて、帰りますよ。」
さらっと、清次に嬉しい事を言ってもらえた。
「・・・ありがとう。軽く食べて、肉買って帰ろう!」
痛みも軽く感じた、藤子であった。
健気に頑張ってるのに、浮気疑われた清次くん、哀れ。。。
そして、小5で水滸伝(岩波ジュニア文庫)読んでいた私^_^;
昭和の子どもは心が丈夫でした。
読んでいただきありがとうございます。
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