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自走する監獄  作者: 日下鉄男
本文
17/30

砂漠 二

 

 レッドたちが魔物との本格的な戦闘に突入した一方、

 グレイだけはオリヴィアの命令通り、戦線から離れていた。


 彼が今回の戦いを除外されたのは、ラクマ村での戦闘で経験値を稼ぎすぎたためだ。


 それでも平素ならばオリヴィアの命令を無視してでも魔物討伐に赴いていた彼だが、

 今日は素直に従った。


 理由は、グレイが今いる場所と関係している。


 戦闘に参加しない団員は皆、監獄で待機しているにも関わらず、グレイだけは関所の小屋の中にいた。


 洞窟の魔物が関所まで進行した場合に備え、

 憲兵に対する護衛役としてグレイはここに留まっていたのだ。


 護衛を申し出たのはグレイの方からだった。


「いやぁ、ありがとうございます。レベル憑きの傭兵さんがここにいるだけで凄く頼もしいですよ」


「そうか」


 適当に相槌をうちながらグレイは鼻をひくつかせた。


 彼は小屋に入った時からずっと気になっていた違和感をどう切り出すべきか迷い、


「あんた、子どもは好きか?」


 単刀直入に尋ねることにした。


「はい?」


 腰の低い憲兵は目を丸くする。


「うちの団長、かわいいだろ?」


「あの、おっしゃっている意味がよくわからないのですが……」


「欲情するか?」


「傭兵さん、な、なにを……」


「俺はする」


 至極真面目な顔でグレイは伝えた。


「十歳から十三歳が俺のストライクゾーンでな。二次性徴のあけぼのだ。発育が認められたばかりの乳房を手のひらで捏ねくり回し、成人の女よりも体温の高い、きめ細やかで弾力もあって滑やかなその肌に舌を這わせ、ビクビク跳ねる肩を掴んで押し倒し、大人の成果物をねじこむのが俺の美学だ」


 椅子の上で足を組み直し、平然と変態発言を解き放つグレイ。


 それを前にして憲兵は、ごくりとつばを飲み込み、


 しばしの葛藤の後、


「な、なるほど」


 そう言って控えめに口角を上げた。


「あ、あなたも同志ですか?」


 肯定を求められたのでグレイは答える。


「そうだな。あんたと同じ小児性愛者だ」


 グレイの発言が憲兵の警戒を一足飛びで解きほぐした。


 頬に笑みを浮かべた憲兵がグレイに尋ねる。


「いつ気づきました?」


「あのガキを見るあんたの目つきは異様そのものだったからな」


「あちゃー。すみませんね。これでも隠してたつもりだったんですが……」


 失敗したなあ、と言いながら中年の憲兵は頭を掻いた。


「お名前、グレイさんですよね?」


「ああ」


「グレイさんは、あのかわいい団長さんをもう……」


「なんだ?」


「て、手篭めにしたんですか?」


「いや、まだだ。ああ見えてあいつは一国の王の娘だからな。下手をこいて捕まりたくはない」


「へえ……レベル憑きなのに、王族の娘でいられるんですね」


 その発言に内心でグレイは苛ついたが、感情を表に出すことはしなかった。


「でもいいですよね。ロイヤルロリっこ。すごくプライドの高そうな子だったので、屈服のさせがいがあります」


 腰の低い憲兵は出会った当初よりも口調が流暢になっていた。


「むりやりがお好みか?」


「どちらもいけますよ? 私は和姦も強姦も両方楽しめる口です。あ、いえ、実体験はまだなので、想像する分には、ですけれども」


 そこで彼は、ただ、といって、言葉を区切った。


「私のような中年の醜男を好きになる女児はきっと何処にもいないんだろうなあと。国境の関所に飛ばされたしがない憲兵なので、権力で納得させることもできないですし。最近それをとみに感じているわけですよ。世の中の女児は私に股を開くことはないんだなあと。なので、想像するときの和姦の比率が年齢を重ねる毎に段々と減ってきましてね。強姦の方が私の境遇に合致しているというか、可能性として高いなあと感じてしまっていて」


 憲兵の顔が次第に暗いものとなる。


「あ、リアルではやらないですよ。はい、捕まりますし。ああでも、子どもは本当に良いですね。うん、好きだ、子ども。大好き」


 話しながら憲兵は何度もうんうんと頷く。


「あんた、存外、おしゃべりだな」


「あ、す、すみません。ずっとひとりでここの警備をしているものですから。こ、こんな話ができる人もいなくて。正直、今、とても楽しいんです。グレイさんに会えて良かった」


「それはなによりだ」


 差し出されたコップにグレイは口をつけ、中の真水を半分ほど飲んでから置く。


「せっかくだ。あんたの幼女に対する想いを俺にもっと語って聞かせてくれ」


「そ、そういうことなら――」


 あとは、水を得た魚だった。


 彼が自分の性癖を楽しそうに話している間、グレイはずっと鼻をひくつかせていた。


 ここは彼にとってあまりにも臭すぎた。



◇◆◇


 

「ヴォルテック・バスターアアアアアアア!」


 洞窟から追い出した十二の魔物のうち、四匹のA型がレッドの炎で散らされた。


 液状化する四つの死体を踏みつけながら、レッドは一足飛びで残りの魔物との距離を詰める。


 そのまま、一体のB型魔物の腹にエンチャント・ATKで強化したジャスティス丸を突き刺し、中のコアを破壊。


 だが目の前の魔物を狩ることに夢中になりすぎて、背後から迫る別のB型魔物をレッドは捉えきれなかった。


 そのB型はレッドの真後ろから猿の腕を振り上げる。


「知覚死亡」


 だが、B型魔物の腕がレッドに振り下ろされることなかった。


 全身に電流が走ったB型が仰向けに倒れる。


 直後、レッドの頭上からパープルが降ってきた。


 そのまま彼の両肩に足を乗せて着地する。


「ぐえ」


 その重みに耐えられずに蛙が潰れるような声を上げながらレッドは転びそうになったが、全身の筋肉を駆使し、幼馴染をかろうじて支える。


「パープル。重いから降りてくんねーか?」


「てい」


 パープルがレッドに肩車をされたまま、水晶の杖の底でレッドの頭を小突いた。


「ピンチを助けた恩人に対する第一声は、そうじゃない」


「……さ、さんきゅー」


「あと、パーさんは重くない」


「そ、そうだな。オマエは軽い、うん、軽いよ」


「よろしい」

 

 パープルが発動した《知覚死亡》はデバフ魔法だ。


 敵を麻痺状態にして無力化できる。


 だがスノウの氷雪魔法とは異なり、生命活動そのものに害は与えない。

 あくまで一時的に足止めするだけの代物だ。


 人間相手に使った場合は一時間、魔物ならば数分で麻痺が解ける。


 パープルが麻痺状態にした魔物はすぐに起き上がった。

 しかし、ゴシックロリィタは慌てることなく、水晶の杖を構える。


「時/使役/天使」


 パープルは魔法の狙い撃ちが下手なレベル憑きだった。


 自身の体内から発せられた魔法をコントロールして対象にのみ着弾させることが苦手な彼女は、

 昔は平気でフレンドリーファイアをやらかしていた。


 デバフと即死魔法をメインとする彼女にとって、そのコントロールの無さはあまりにも致命的。


 だから、即死魔法を獲得した頃、彼女は派遣先の国で知り合ったレベル憑きに、魔法を出力する外部装置の作り方を教わり、自ら作成した。


 出来上がった水晶の杖はパープルの魔法のコントロールを補助し、精密な着弾を彼女に与えた。 


 ゆえに《時/使役/天使》は、レッドに肩車をされた状態でも、麻痺状態から回復したB型に正しく命中し――その身体を即座に液状化させる。


 即死だったため、敵の翅から無数の棘が射出されることもない。


 砂漠地帯でパープルが倒した魔物は、これで二匹目。


「よっしゃ。残り六体だぜ」


「後はスノウたちに任せる」


 これ以上自分たちが魔物を狩っては経験値の配分が偏ってしまうので、パープルとレッドはいったん身を引くことにした。


「で? オマエはいつまでオレの肩に乗ってるつもりだ?」


「……あと、五分」


「寝起きか」


「……あと、十分」


「いや、勝手に増やすなよ」


 肩車をされたまま、レッドの頭に腕を乗せてモチのように伸びるパープルであった。



◇◆◇



「この国における小児性愛者の扱いはレベル憑きと同じでしてね。表沙汰になったら家族もろとも表を歩くことはできなくなります」


 つまり、私もあなた方と同じ被差別民なんですよ、と憲兵は続けた。


「私も若い頃は大人の女性を好きになろうとしたのですが、無理でした。私ね、成長したお胸やお尻を見ると吐きそうになるんですよ」


「気持ちはわかる。俺も巨乳を見るとムカムカする性質だ」


「でしょう? 小児性愛者は一部では《大人の女性との恋愛が怖いから子どもに逃げている》と言われがちですが、鼻で笑っちゃいますよね。逃げるも何もこちらは最初から興味がないのに……」


「そうだな。あんたの言い分は正しいよ」


「女児というのは女児の時点で完成されているのですよ。そこから成長すればするほど、肉体は劣化していくだけ。私からしたら世の中の《まともな性癖をお持ちの男性方》こそ異常者ですよ。成人女のブヨブヨした肉体を犯して何が楽しいのやら」


「自分に嘘をついて妥協しているんだろうな」


「その通り。世の男は皆、性的敗北者です。私たちこそが勝利者だ。女児の完成されたちっぱいや完成されたモチ肌や完成された丸いお目々や完成された無毛恥丘を前に射精しないほうがむしろ完成された肉体に失礼だというものだ!」


 自分で言ってて興奮してきたのか、憲兵の鼻息は荒くなり、手は震え、目は血走り、股間は盛り上がる。


「それなのにどうして手を出してはいけないでしょうねえ。ああ、でも、貴族のお偉方は女児奴隷を買って裏で楽しんでいるという噂も聞きますし、うーん、いいなあ、生まれが高貴な方々は。私みたいな平民の出は、一生かけてもそこまで上り詰めることはできないんでしょうねえ」


「……だから、レベル憑きにしたのか?」


「はい?」


 オリヴィアたちが戻るまで、グレイは待つつもりだった。


 本格的なネタばらしは他の団員がいる前で行ったほうが、後でいちいち説明する手間が省けるから楽だと考えていた。


 その間に憲兵を泳がせて、彼の口から先に色々と白状させるつもりだった。


 しかしながら、想像以上に憲兵の口は軽かった。


 もう、グレイはお腹いっぱいだった。

 

 ただでさえ臭すぎるこの場所で、中年男の女児に対する異常な執着を聞きつづけることは、ただでさえ色々と我慢弱い彼に耐えられるはずもなく。


 はっきり言って、相槌を打つのも疲れた


 グレイは立ち上がると、床を足で二度叩いた。


 下は空洞になっているのか、足で叩くと軽い音になって部屋に響く。


「地下に案内しろ」


 そう言ってグレイは憲兵を睨みつけた。


 当の憲兵は、この方はいきなり怖い顔をしてどうしたのだろう、私は何か不愉快なことを言ってしまったのだろうか、と首を傾げた。


 せっかく見つけた同志だ。嫌われたくはない。


 この短期間で憲兵はグレイを心の友だと思うようになっていた。



◇◆◇

 


 グレイが憲兵に地下への案内を命じたその頃、

 スノウやチャーリーは残り六体の魔物との戦闘を続けていた。


 洞窟での役割を終えて彼女らに合流した第二班も、残敵討伐に加わる。


『皆さん。今回の強化素材は二匹で構いませんわ』


 オリヴィアの念話が全団員に送られた。


「りょーかい!」


 まずはノルマをこなしてやるとばかりに、スノウは足を踏み出す。

 直線上の魔物に《氷拳》を叩き込み、氷漬けにした。


氷蹴撃ひょうしゅうげき!」


 一匹の魔物を凍らせると跳躍し、氷雪を纏った左足でもう一匹の魔物へと回し蹴りを決める。


 氷漬けの巨体が二つ、出来上がった。


「ブラスト!」


 続いて、チャーリーが魔法を発動させた。 


 彼の魔法は風を操る。


 氷漬けになった二体の魔物の周囲に疾風が巻き起こり、その巨体を後方の監獄まで吹き飛ばした。


「お、うまいこと飛んだ。チャーリーちゃん、やるねえ」


 スノウがチャーリーの短髪をワシャワシャと撫でた。


 憧れの先輩の一人に褒められたチャーリーは、心臓をバクバクと高鳴らせながら、きょ、恐縮っす、恐縮っす、と頭を下げまくった。


 チャーリーの風で運ばれた二体の魔物を前にして、

 オリヴィアは石版にコマンドを打ち込み、監獄を動かす。


 巨木のごとき腕が伸びた。

 

 二匹の魔物を掴んで一層フロアにある出入口に押し込み、中の監獄に収容する。


 これにて、強化素材のノルマは完了。


『ご協力感謝いたしますわ。残りの経験値は皆さんのものです』


「よっしゃ! チャーリーちゃんいくよ!」


「う、うす!」


 残敵は四体。


 あとは、一方的だった。


 魔物は為す術なく、スノウやチャーリー、そして合流した第二班のメンバー等に蹂躙されていく。


 だが、戦っている最中、スノウは小さな違和感を覚えていた。


 魔物が弱いのだ。


 いや、正確には弱いというより、普通の魔物と違って、攻撃の意志があまり感じられない。


 自分たちのテリトリーを脅かされたから仕方なく応戦しているような、そんな戦い方だった。


 もしかしたら、この魔物たちは、あの洞窟の中で平和に暮らしていただけなんて、そんなことは……。


 まさかね、とスノウは内心で頭を振る。


 奴らはただ暴れ、ただ壊し、人間社会に死体の山を築き上げる知能の低いバケモノに過ぎない。


 スノウは余計な考えを頭から追い出す。


 心の中の違和感をこれ以上膨らませたら、気づかないでもいいことに気づいてしまいそうだったから。


【レベルが55に上がりました――】

 

 B型魔物を殺したスノウの脳内に、エーテルの声が響く。


 レベルアップ。これでまた一歩、このバケモノどもから遠のく。


 残敵は一匹。


 それはA型の魔物で、十二匹の中で一番小さかった。


 まるで子どものように小さかった。


「……マーレイ」


 土偶の頭で戦いを見守っていたオリヴィアが、マーレイに声をかける。


【なんだ?】


「あの寸足らずなA型の魔物……さっきからずっと、攻撃をせずに震えていますわ……」


【……主は気づかなかったか?】


「え?」


【他の魔物は皆、あのA型を守るように動いていた】


「…………どういうことですの?」


【さあ、吾にもわからん】


 小さなA型はスノウたちに背を向けて、元いた洞窟へと駆け出す。


「待つッス!」


「あ、こら! チャーリーちゃん! 先に行っちゃだめ!」


 戦闘の高揚感に支配されたチャーリーは、スノウの制止を聞かずにA型を追って走り出した。



◇◆◇



「地下に案内しろ」


 グレイはもう一度、同じ言葉を口にした。


 憲兵は、そこでようやく、彼の言わんとする事に気づく。


「……ああ、そうか。よく気づきましたね、グレイさん」


 ――なんだ、私が独り占めしていることに怒っていたのか。


 グレイが自分を睨んでいる理由を憲兵はそう解釈した。


「でも、すみません。今は動くやつはいなくて」


「構わない。見てみたいんだ」


「であるならば……どうぞ」


 憲兵は小屋の隅に行くと、床板の一つに手をかける。


 取っ手がつけられたその床板を開けると、下に階段があった。


 憲兵は棚の上にあったランタンに火を灯すと、ついてきてください、と言って、階段を下りていった。


 グレイは言われるままに、後に続く。


 下りた先には地下室があった。グレイが予想した通りだ。


 そこは、薄暗く、湿っていた。


 家具や食料はなく、かわりに、血痕があった。


 大量の血痕が床や壁に付着していた。


「えっと、動いているやつはここに置いておくんです」


 気恥ずかしそうに言いながら憲兵は頭をかく。


「それで、動かなくなったやつは、もう一つ下です」


 ランタンで照らされた一角には、また、階段があった。


 臭いはよりいっそう、強くなるばかりだ。


 

 ◇◆◇



「へへ、もう逃さないッスよ」


 チャーリーは鼻息を荒くしながら、洞窟の壁に追い詰めたA型と対峙する。


 A型は怯えきっており、チャーリーに背を向けて獅子の足で壁をガリガリと削りながら、尚も逃げようとしていた。


「……変な魔物ッスね」


 戦意を喪失した魔物など初めて見るチャーリーだ。彼の中にある騎士道精神めいたものが、無抵抗の生き物を殺すことに対する若干の躊躇を覚える。


「いやいや、こいつは魔物ッス。殺さないと」


 魔物を甘やかしてもろくなことにならない。

 一匹でも逃せば数を増やし、村や町を襲って人々を害する存在だ。


「ブラスト!」


 チャーリーは右手を前に突き出し、風の魔法を唱える。


 撃ち出された旋風がA型を襲った。


 風は刃となってA型の身体を切り刻み、風圧が敵を洞窟の壁に押し付ける。


 赤ん坊の叫び声が洞窟内で反響し、チャーリーの耳を苛む。


 早く終われとチャーリーは強く思った。


 この声をこれ以上聞きたくない。


 終わってほしい理由はそれだけではない。


 チャーリーは右手で魔法を撃ち出しながら、左手で鼻を押さえる。


 この洞窟は何故か、やたらと酸っぱい臭いがするのだ。


 その時、彼の足が何かを踏んづけた。


 石にしては柔らかく、土にしては固いそれに視線を落とす。


 洞窟に入ってから少し経ったので、暗闇にも目が慣れてきた。


 だから、見てしまった。


 自分の足元にあるモノを。


 腐りかけの眼窩が自分を見上げていることを。


「うわ!」


 チャーリーが驚愕のあまり尻もちをついて倒れる。


 A型を捉えていた魔法がその拍子に解ける。


【OGYAAAAAAAAA!】


 ズタズタに切り刻まれたA型は、最後の力で攻撃に転じた。


 赤子の鳴き声を上げながら、チャーリーに向かって突進してくる。


 蟻の口がチャーリーの喉笛に食らいつこうとしたその瞬間――


「おらよ!」


 レッドが、ジャスティス丸の切っ先を、敵の口内に突き刺した。


 目の前に倒れたA型の口から刀剣を抜くと、レッドは敵を蹴りつけて仰向けにし、そのままコアに向かって刀剣を突きおろした。


 鼓膜が破れそうなほどの断末魔の後、A型は絶命した。


「れ、レッド先輩!」


 自分を助けてくれた憧れの先輩の名をチャーリーは叫ぶ。


「おい、チャーリー。独断専行はダメだぜ? あの馬鹿みたいにはなんなよな」


 レッドの言うあの馬鹿とは当然、グレイのことだ。


「す、すいませんでしたッス! ああ、でも、レッド先輩はやっぱすごいッス! かっけえッス! マジリスペクトッス!」


「はいはい世辞はいいから」


「世辞じゃねえッス! マジッス!」


 まったく暑苦しいやつだぜ、とレッドは自分を棚に上げて心の中で突っ込んだ。


「つうか、無事か? 魔物に傷とかつけられてねえよな?」


「は、はい! 大丈夫ッス! ピンピンっす!」


「おお、そりゃあ良かった」


 ――傷がついてたらこいつを殺さないといけねえからな。


「そういえば、レッドさん……あの……」


 チャーリーは立ち上がると、さっき自分と目があった悪臭の原因を指さした。


 目を凝らしてもうまく見えなかったので、レッドは刀剣に炎の渦を纏わせる。


 途端に、洞窟内が明るくなる。


 ちょうど、スノウたちも洞窟内に入ってきたタイミングだった。


「レッドちゃん、これ、なに?」


 合流したスノウが、レッドの炎で照らされたそれを見て、疑問を投げかける。

 話す声は少し震えていた。


 レッドやスノウ、チャーリー、パープル、その他の団員等の目に飛び込んできたのは、まだ幼い二人の女児の腐乱死体だった。



◇◆◇



 地下二階は、水浸しだった。


 石灰を溶かしたような白い液体が、陽の光が入らない室内に溜まっていた。


 その液体の上で浮いているモノがあった。


 たくさんあった。


 団員たちが来る前にこれを見ておいてよかった、とグレイは自分の判断を肯定する。


 魔物は殺せても、人間のグロには慣れていない団員も多い。


 地下二階にあったものは、二十を超える幼い少女たちの死体だ。


 それらはほとんどが服を剥かれ、身体のあちこちを損壊された状態で、

 白い液体の上でプカプカと浮かんでいた。


「すごいでしょう」


 憲兵は自分の成果を自慢した。


 無邪気に自慢した。


 火花放電のような音と光が生まれた。


 数瞬の後、グレイの右手に握られた幻影剣の切っ先は、憲兵に向けられていた。


「お前を殺す」


 とグレイは言った。


「……えっと、だめでしたか?」


 と憲兵は言った。



*******************



【パープル・シェルヘン】


Lv48

体力:409

物理攻撃力:380

素早さ:470

魔力攻撃:570

魔力防御:600

魔力移送:640

知力:701


獲得済魔法:

・知覚死亡 Rank2

・石棺 Rank2

・混沌 Rank1

・拒絶/反転 Rank1

・時/使役/天使


【スノウホワイト・アリア】


Lv55

体力:480

物理攻撃力:581

素早さ:557

魔力攻撃:711

魔力防御:553

魔力移送:557

知力:427


獲得済魔法:

・氷拳 Rank3

・氷蹴撃 Rank2

・守護氷雪 Rank3

・流氷侵食 Rank1

・スノーボールアース

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