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自走する監獄  作者: 日下鉄男
本文
14/30

収容区


 レベル憑きの住まう収容区は商業区を抜け、王都の北門を出て街道を進んだ先にある。


 区内はT字型の構造をしており、四方を高さ三.六メートルの壁に囲まれていた。


 収容区は屋根の低いバラック小屋が等間隔で立ち並んでいるが、南側の一角だけ閑静で日当たりの良い場所になっている。


 そこは区内で死んだレベル憑きたちを弔う墓苑であった。


 墓苑に訪れたレッド・フォルラーヌとパープル・シェルヘンは、とある墓の前に立つ。


 《ソーニャ・フォルラーヌ》


 墓石に彫り込まれた死者の名だ。


「そうか……もう四年も経っちまったんだな」


 自分を納得させるようにレッドは言った。


 墓石の名の主は、レッドの姉だった。


 血縁関係なくランダムで生まれるレベル憑きにしては珍しく、

 ソーニャとレッドは、姉弟ともに憑き物を持っていた。


「……パーさんは、まだ実感がない。今でも収容区のどこかにソーニャがいて……パーさんたちを出迎えてくれるような……そんな気がしている」


 幼少期に親と死に別れ、祖国に棄てられ、収容区に連れてこられたパープル。

 そんなひとりぼっちの彼女に対して保護者のような役割を果たしたのが、レッドとソーニャだった。


 幼少期、パープルはどこにいくにもレッドとソーニャの後をついてまわった。


 そして四年前。


 姉のソーニャは二十歳の誕生日を迎え、魔物となった。


 いつの頃からか、

 収容区には一つの慣習が生まれていた。


 区内でデッドラインを迎え魔物化した者は、国軍の騎士ではなく――そこの住民たちの手で責任をもって《処分》されるという慣習が。


 彼らの小さな居場所を守るために。


 魔物化した仲間が王都の人間を襲えば、彼らは収容区にもいられなくなる。


 皆、この国に来たくて来たわけではないが、それでもここにはレベル憑きの仲間がたくさんいる。


 区内にいる限りは表立って迫害を受けることもなく、食料も提供される。


 収容区はレベル憑きの廃棄所であり、

 同時に、彼らにとっては、一種の避難所アジールであった。


 追い出されれば、生きてはいけない。


 だから、ソーニャが魔物化した時も区の住民は同様の対応を行った。


 魔物のソーニャを区内のレベル憑きたちが総出で倒し、

 とどめは、レッドが刺した。


 その日、十三歳のレッドは生まれて初めて魔物を殺した。


 魔物を殺してレベルを上げた。


 姉を殺した経験値を得て。


「姉さんはずっと望んでいたんだ。レベル憑きと人との共生を。世界中のレベル憑きが差別から解放される日を祈ってたんだぜ」


 収容区に住むレベル憑きの待遇は、現王の手で改善されたかもしれない。


 だが、レッドの理想からは程遠い。


 他国では今でもレベル憑きは酷い迫害を受けている。

 その結果がこの収容区である以上、真の共生が実現したとは言い難い。


 ゆえに、レッドは叶えたかった。


 亡き姉の願いを。


「人間がレベル憑きを嫌う理由はよくわかるぜ。そりゃ怖えよ。身近にバケモノになるかもしんねえやつらがウヨウヨいるんだからな。だからこそオレらは行動で示すんだ。レベル憑きの力は魔物から人を救うためにある。そうやってレベル憑きの正義をアピールしていけば、いつかは、人類社会は、レベル憑きという存在を受け入れてくれるはずだ。オレはそう信じて前に突き進むぜ」


 レッドの言葉に、パープルは力強く頷き、肯定の意を示す。


 パープルも生まれ故郷の国にいた時に悲惨な差別を受けていた。

 差別のない世界を目指すレッドの考えを彼女は昔から支持し、彼になついていたのだ。


「はは、しんみりしちまったな。さて墓参りも終わったし、古巣に顔を出すか」


 自分より頭二つ分小さいパープルの紫がかった黒髪を、レッドはわしゃわしゃと撫でる。


「レッド、めっ。パーさんの髪に乱暴をしない」


 昔の関係の延長線上でパープルを子ども扱いし続けるレッドに、

 当のパープルは内心で不満を抱いていた。


 確かに、昔はパープルもレッドのことを兄のようなものとして見ていた。


 だが今は違う。その段階はとうに過ぎている。


 十四歳のパープルがレッドに抱く感情は、

 過去の彼女よりも繊細で親密なものであった。



◇◆◇



「レッド! 久しぶり!」「最近顔見せねえから魔物に殺されたかと思ったぜ」「きゃー! ちっこかわゆいパープルちゃんのご帰還だ!」「ひしっ! この抱き心地、全然変わってない!」


 一帯にバラック小屋が建つ収容区の広小路に着くと、レッドは昔なじみの男たちに囲まれ、一方のパープルは女友達に抱きつかれ玩具のようにこねくり回されて目を回していた。


 レッドやパープル以外の団員の姿も、区内にはあった。

 皆、家族や友人との再会を喜びあっている。


 収容区のレベル憑きは、そのほとんどが未成年だ。


 だが、全員が全員レベル1というわけではない。


 レベルを二桁代まで上げているものも多数いる。


 中西部には魔物が出ないのに、何をして経験値を稼いでいるかといえば――


「お、きたきた」


 区内にいる男の一人が、外からやってきた騎士団の一行を指さした。


 騎士団は、二台の檻を十二匹の馬に運ばせていた。


 檻の中には魔物が収まっている。

 そのモノクロの身体には大量のパイプが突き刺さっていた。

 

 檻の中の魔物はノアの繭がラクマ村で捕獲したものだ。


 ノアの繭が狩った魔物の内、

 一部は殺さずに瀕死の状態で王国まで持ち帰る決まりとなっていた。


 それらの魔物は《強化素材》と呼ばれ、収容区のレベル憑きたちの元へと運ばれる。


 現在はレベル憑きを閉じ込めるための用途を放棄した監獄だが、魔物に対しては未だ現役だ。


 監獄の一層フロアは、団員たちが捕らえた魔物の収容に使われる。


 一層(底部)には魔物用の巨大檻が全部で二十台置かれており、魔物がその檻に落とされると壁に埋め込まれた大量のパイプの一部が抜け、磁石のように魔物に突き刺さる。貫いたパイプが魔物の動きを封じ、コアを壊さずにひびだけを入れる。


 こうすることで魔物は再生能力を失う。


 半壊したコアは生命維持装置の役割しか果たさなくなるのだ。


 一層フロアの巨大檻は取り外しが可能なので、中に魔物を入れたまま運び出すことが可能だった。


 魔物が収まった檻を区内に移動させるのは、王国の騎士団の役目だ。


「餌の時間だぞ、バケモノども! ありがたく食え!」


 騎士たちは侮蔑的な調子で区内の者どもに呼びかけた。


 レベル憑きの何人かが眉を顰める。


「セージ、リン」


 収容区におけるリーダー格の男が、二人のレベル憑きの名を呼ぶ。


 呼ばれた彼らは男女で、レベルは双方ともに、3。

 魔物はまだ一匹しか殺したことがない。


 今日は彼らが《強化素材》を食べる番だった。


 二つの囲いの中には、

 それぞれ、六メートルのB型魔物と五メートルのA型魔物が閉じ込められていた。


 セージとリンが生まれて初めて殺した魔物より、二匹ともサイズが大きい。


 コアはすでに露出していた。


 A型の水晶体の目とB型のカメレオンの目が二人を睨む。


 セージとリンは両手を前に掲げ、レベル2で覚えた低ランクの魔弾を撃った。


 魔物から目を逸し、恐怖でガチガチと歯を鳴らしながらの攻撃。 


 当然、当たるはずもなく。


 コアから外れた魔弾は、魔物の皮膚に着弾。


 二匹は二つの檻の中で赤ん坊の鳴き声を上げ、

 格子を壊そうと暴れはじめる。


「なにしてんだ! 下手くそ!」「早く殺せ!」


 檻から魔物が逃げ出すかもしれないという恐怖が、監視役である騎士たちの声を荒げさせる。


「す、すみません!」「ごめんなさい!」


 セージとリンが必死に謝りながら次弾を撃とうとするが、身体が震えて思うように動かない。


 そんな二人の間に、


「視線、魔物に固定」


 バイオレットの瞳を持つ少女、パープルが立った。


「そらすの禁止。じょーざいせんじょーの精神、だいじ」


「…………」「…………」


 自分より年下の少女に指導を受けた両名は、一度息を整えると、あらためて魔物を見据える。


 震えを止め、今度は目を逸らさずに、コアめがけ魔弾を放った。


 彼らの頭の中でエーテルの声が響く。


 セージとリンのレベルが8に上がった。


 コアを壊された檻の中の魔物二匹は、ドロドロに溶けて跡形もなく消え去る。


「えらい」


 パープルが背を伸ばして、二人の頭を撫でた。


「ありがとうパープル」「おかげで助かったわ」


 胸を撫で下ろした後、セージとリンは心からの感謝を小さな傭兵ロリに伝えた。


 収容区に運ばれた《強化素材》の魔物は区内のレベル憑きによって、殺される。


 強化素材は外に出て戦えない彼らの経験値となる。


 このシステムが収容区の住民の魔物化を防いでいた。


「終わりだ。撤収するぞ」


 中身が溶けた檻を再度馬に背負わせ、王都に戻ろうとする騎士団の背中に、


「え? これだけ? 少なくない?」


 区に住む少年の戸惑いの声が飛んできた。


「まってくれ。オレたちが捕まえたのは二十匹だったはずだぜ。なんで二匹しかいねえんだ?」


 レッドが、先んじて声を上げた少年の疑問を具体的な数字にして、騎士団にぶつける。


「ああ、残りはぜんぶ、ここに運ぶ前に死んじまったよ」


 どうでも良さそうな調子で答える騎士を見て、

 住民の一人がカッとなり、前に出た。


「おい、ふざけるな! もっときちんと扱ってくれよ! 毎度毎度、移動させる途中で魔物を何匹殺せば気が済むんだ!」


 騎士団のメンバーが強化素材を台無しにしたのは、一度や二度の話ではない。


「ああ!? だったらお前らが運べや! こっちはな、危険な思いしてわざわざ持ってきてやってんだよ!」


 騎士たちは反省した様子もなく、クレームをつけた住民に逆ギレをかます。


「できることならそうしている。しかし、あんたらは俺たちを王都に入れてくれない。移動許可を出さないだろ。その権利がないんだよ我々には」


 クレームをつけた男とは別の住民が、

 努めて冷静に自分の意見を騎士団に伝えた。


 監獄内の強化素材に関する所有権はノアの繭ではなくヨハン王にあった。

 王都に到着後の素材運搬、その権限は団員ではなくヨハンお抱えの騎士たちにのみ認められていたのだ。


「移動許可? はは、お前らさ、まだ権利を得たりないの? 図々しいねえ」


 馬の手綱を握っていた古株の騎士が鼻で笑った。


「魔物モドキの分際で、一丁前の口を聞きやがって。王に甘やかされて調子に乗ったか?」


「魔物モドキだと……っ! 差別だぞ、それは! 発言を取り消せ! 公民権法違反だ!」


 収容区におけるリーダー格の男が、聞き捨てならないとばかりに騎士団へと食って掛かる。


 だが、彼の抗議は騎士団のあざ笑う声にかき消された。


「はは、差別ね、それ言えばこっちが引き下がると思ってんのかよ」「痛え、公民権パンチ食らっちまった!」「勘違いするなよ。今だけだ。国がお前らに優しいのは」「俺らには親切にしておいた方がいいぜ。もし、国の方針が百八十度変わって、お前らを徹底的に弾圧する方向に舵を切ったら、それを実行するのは国軍である俺らだからな」


 彼らの身勝手な物言いに、レベル憑きたちの間に強い怒りの感情が広がる。


「なんだと!」「こいつら、脅す気か!」


 導火線に火がつき、皆の心に燃え移った。


 だが、それに水をかける存在がいた。


「てめえらやめろ!」


 レッドだった。


 彼は収容区のレベル憑きたちを諌めながら、

 騎士団に頭を下げた。


「すまねえ。あんたらを怒らせるつもりはなかったんだ。た、ただ、強化素材を運ぶとき、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ今より気をつけてほしいって思っただけで――」


 籠手をはめた騎士の右拳が、レッドの顔面を打ち抜く。


「……っ!」


 パープルが目を見開き、殴られ倒れたレッドの元へと走った。


「おい坊主。謝るところまでは良かったぞ。だが最後に俺たちに要求をかますのはいただけねえな。それじゃあ、謝罪が霞んじまう。謝罪がクッションにしかなってねえ」


 パープルがレッドを抱き起こしながら、古株の騎士を睨みつける。


「お、やんのか小娘?」


「……やる」


 パープルは手に持った杖を強く握りしめた。


 先端の水晶が彼女の魔力によって輝きを帯び出す。


「……パープル、落ち着け」


 暴れ馬になりかけているパープルを、レッドは止めた。


 よろよろと上体を起こすと、

 レッドはそのまま地面に手をつき、頭を下げる。


「オレが悪かった。本当に申し訳ねえ。この通りだ」


 土下座だった。


 それは騎士たちの溜飲を下げるのに絶大な効果を発揮した。


 彼らの哄笑が周囲を満たす。

 騎士の一人が笑いながら鎧の靴でレッドの頭をぐりぐりと踏みつける。


「よしよし、許してやる!」「自分の立ち位置よくわかってんな、おい!」


 その間、レッドは一切の反抗をせず、相手の気が済むまで頭を踏ませ続けた。



◇◆◇



 区を出て行く騎士たちの姿が見えなくなると、レッドはようやく身体を起こす。


 パープルが手でレッドの髪の土汚れ(騎士の靴に踏まれてついたもの)を払ってくれた。


「お前、何してんだよ……」「プライドがなさすぎる」「王都の奴らに媚び売りすぎだって」


 非難の声が収容区の皆の口から、漏れ出す。


 レッドは立ち上がると大きく息を吐き、彼らに聞こえるように声を張り上げた。


「オレらは数が少ねえんだ! 逆らえば、居場所なんてすぐになくなっちまう!」


「なら、どうしろっていうんだよ! 差別されているんだぞこっちは!」


 レッドの友人であるレベル憑きの男の感情的な問いに、


「差別なんて言葉、使うんじゃねえ!」


 レッドは堂々と言い返した。


「実際余所者なんだよオレらは。この国に住まわせてもらってる立場なんだぜ。差別だなんだと喚いて権利ばかり主張してたら、嫌われて当然だろ!」


 致命的な発言だった。


 収容区の住民とレッドの間に大きな亀裂が走った。


 異常なものを見るような眼差しを、収容区の者たちはレッドに向ける。 


「……レッド、お前……魂まで名誉人類になっちまったのかよ」


 レッドの友人は落胆した声を上げながら、信じられないというように首を横に振った。


「お兄ちゃん……あたし魔物になりたくないよ」「おれもいやだ、あんなもんに変わるなんて!」


 十にも満たない小さな兄妹は肩を震わせて抱き合っていた。彼らはまだこの収容区に連れてこられたばかりで、魔物を見るのも初めてのことだ。檻の中の醜悪な生命体は自分たちの未来の姿。現実を受け入れるには、彼らはあまりにも幼かった。


「レッドくん。我々は意味もなく権利を主張したりはしない。王都の人間に期待するのは、生きたまま魔物を運搬してくれること、ただそれだけだよ。魔物の数が足りなければ、いずれはまた、この中から人でなくなる者が現れてしまうんだ……そう、君のお姉さんのように」


 リーダー格の男がレッドを諭す。


「魔物なら……オレがまた取ってくるからよ」


 そう言って、レッドはパープルや里帰り中の団員たちの顔を見回した。


「はっ。レッドはいいよな。自分だけいつでも魔物をぶっ殺せるんだからさ」


 ため息混じりに呟かれた友人の一言に、さしものレッドも心穏やかではいられなくなった。


 もっと正直に言えば、彼はイラッとした。


 友人の言葉に同意するようにウンウンと頷く他の住民たちの姿が、

 彼のイラつきに拍車をかけた。


 ――おかしいだろ。


 レッドの内側に溜まっていたマグマが、溢れた。


 ――てめえらは嫌がるくせに。


 ――危険地帯にいって魔物を倒すことを嫌がるくせに。


 ――オレたち傭兵団に《寄生》して、瀕死の魔物を安全に殺して経験値を稼いでるだけじゃねえか。


 この前のラクマ村の一件で九人の団員が死んだ。団は人手不足だ。


 現在のノアの繭は前王の頃と違い、区内のレベル憑きの志願制を採用している。

 多少の適性試験はあるが、ここ数年は、ほぼフリーパス。


 だが、レッドは知っている。

 ここに長年住んでいる古株のレベル憑きたちは、誰一人、勧誘しても入ってくれないことを。


 様々な理由をつけて断るのだ。


 一桁代の子どもはともかく、パープルと同年齢以上の奴は一考してくれてもいいじゃないかとは、レッドの本音だった。


 名誉人類になるよりも、安全な後方を選んだ。

 捕まえてきた魔物を殺して、楽にレベルを上げる道を選んだ。


 ずっと前から、自分たちノアの繭の団員が犠牲を払って得た物を当たり前のように受け取るだけの収容区のレベル憑きに、レッドは内心で強い不信と不快感を抱いていた。


 小刻みに震えるレッドの手をゴシックロリィタが掴む。


「レッド、いこ」


「いくって……」


「ホテルに戻る。ここは、不愉快」


 半ば強引にレッドを歩かせ、パープルは収容区の出口に向かう。


「パープルちゃん、そいつについてかない方がいいって」


 女友達の親切心から出た言葉を受けて、パープルは振り返り、処断を下すように言い返す。


「今の貴方たちは太った豚。痩せた賢者にならなければ、パーさんは貴方たちを軽蔑する」



◇◆◇


 

 収容区と王都を結ぶ街道を、パープルはレッドの手を掴みながらズンズンと大股で進む。


 感情をあまり見せないパープルには珍しく、あからさまに、怒っていた。


「お、おい、引っ張んな、引っ張んなって。自分で歩けるっつの」


 レッドが逃げるようにパープルの手を振りほどく。


「つうか、いいのかよ。さっきの一言で、たぶん、オレだけじゃなくて、お前まで収容区の友達に嫌われちまったぞ?」


「いい」


「そ、そうか」


「今の彼らをパーさんは好まない。頭を冷やして猛省すべき」


 こんなにご立腹なパープルも久しぶりな気がするなと、レッドは思った。


「レッド、今度から土下座する時は事前に言ってほしい。パーさんも一緒にげざるから」


「げ、げざる?」


「土下座の動詞系」


「そんな北方語、初めて聞いたぞ」


「パーさんが作った」


「…………」


 付き合いは長いが、時折彼女の冗談なのか本気なのかよくわからない発言についていけなくなるレッドであった。


「つか、いいって別に。あの土下座はオレの自己満だ。お前を巻き込む気はねえよ」


「……パーさん、仲間はずれ?」


「そういうことじゃねえっての」


 パープルがスタスタと歩き、レッドの目前まで近づく。

 

 そして、バイオレットの瞳で彼の顔を見上げた。


 その瞳にレッドは吸い込まれそうになる。


「レッド、膝を屈する」


「んだよ当然……」


「いいから」


 言われるままに、レッドはその場で膝をつく。


 いつも見上げる形だったレッドと目線の高さが合ったことにパープルは心中で喜びつつ、レッドの方へと一歩進み――


 その細い両腕で自分の胸に抱き入れた。


 レッドの頭が、パープルの平らで温かな胸の中にすっぽりと収まる。


「よしよし」


 子どもをあやすように、パープルがレッドの赤毛をクシャクシャと撫でた。


「これ、なんかの嫌がらせか?」


「それもある。レッドはいつもパーさんの髪を乱暴に撫でてくる。たまには自分で味わうべき」


 レベル憑きと一部の騎士以外通行するもののいないこの道に、今立っているのは、彼らだけだった。


「言語化するので、覚えておいてほしい」


「お、おう」


「レッドは偉い。収容区のみんなのために頑張っている。レベル憑きへの偏見を無くすためにずっと努力してること、パーさんは知ってる」


 真摯な声で、バイオレットの少女は赤毛の幼馴染を褒めた。


「どんなことがあっても、パーさんはレッドの味方。パーさんはレッドの考えを肯定する。レッドの正義をパーさんは絶対に否定しない」


「…………」


「レッドは負けないでほしい。挫けそうになっても、そばにはパーさんがいるから」


 大事な幼馴染。世界で一番の彼の理解者。


 そのぬくもりがレッドを癒やした。


「ありがとな」


 パープルの胸から顔を離し、レッドは立ち上がる。


「正直、さっきまですげえ落ち込んでたけど、パープルのおかげで元気出たぜ」


 そう言って親指を立て、白い歯を見せてレッドは笑った。


「そうだ。誰になんて言われようが関係ねえ。オレは正義の味方だ」


 ――差別。それは弱い奴らの持つ武器だ。


 ――オレは違う。オレは差別に逃げねえ。


 ――オレの武器はジャスティス丸だ。この愛刀で魔物を殺す。世界中の魔物を残らず消して、人類を救ってやる。


 ――正義の味方になってやる。


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