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妖姫  作者: kikuna
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「権助さん」

 睦は絶叫しました。

 すっかりやつれ果てた権助が、虚ろな目で振り返ります。

 「おお睦じゃないか。おめえさんには悪いが、俺はこのお菊さんと一緒になるから」

 「権助さん、何を言っているの?」

 「おおあまりのべっぴんで驚いたか」

 「よくも権助さんを。そこから退きなさいこの化け物めが」

 

 そうです。権助が可愛いと頭を撫でているのは、大蛇です。

 


 「フン。うるさい女だね」

 権助の体に巻き付いていた女が、シュルシュルと舌を出して、睦に襲い掛かって来ました。

 睦は必死で、抵抗しますが、容赦ない攻撃に追い詰められ、ついに大蛇の牙が睦を目がけて迫って来ます。

 睦は懐に忍ばせていた剣を思い出しましたが、もう間に合いません。もうダメだと目を瞑った瞬間です。

 「うわっ」

 一体どうしたことでしょう。大蛇の動きが止まったではありませんか。その隙に睦は懐にあった剣を取りだし、大蛇に向かって振りかざしました。

 「どうしてお前がそれを」

 睦の足元ではきらきらと何かが光っていました。

 そうです。あの鏡が追い詰められた拍子に落ち、光を反射させたのです。

 とにかくにもこの隙を逃しては、権助を助ける機会はありません。

 「なんじゃなんじゃ。美しいのぅ」

 腑抜けになってしまった権助が鏡を拾い上げ、自分の顔を覗き込みます。その途端、ぎろりと大蛇の目が睦を睨みました。

 生唾を飲みんだ睦は権助の手を握り、必死で表へと飛び出します。 

 振り返ると、大蛇が牙を剥きもうそこまで来ているではありませんか。

 一貫の終わりです。身を屈めた拍子に鏡が権助の手から落ち、大蛇の姿を映しだします。

 「止せ、私を映すな」

 「権助さん、早く逃げましょ」

 睦の叫び声も虚しく、ものすごい形相の大蛇の顔がそこまで迫って来ています。

 権助を庇うように、睦は鏡を大蛇に向け、剣を振り回わします。

 怒り狂った大蛇にはもうその手は通用しません。

 長い尻尾で鏡が振り落とされ、真っ二つに割れてしまいました。

 

 大きな口を開けた大蛇に足を竦ませ、睦は剣を無我夢中で振り回します。

 目の前が真っ暗になり、手から剣が落ちてしまい、恐怖で身が動きません。

 あっと思った瞬間です。


 それまで腑抜けになってしまっていたはずの権助が、剣を握り自ら大蛇の腹の中へ飛び込んで行きました。


 大蛇は躰をのたうちまわり苦しがりはじめ、やがて動かなくなってしまいました。


 「権助さん」

 睦は泣き叫びながら大蛇の体に追いすがります。


 お天道様はもう真上まで上り、大蛇の躰の下で何かが光っているのを見つけた睦は、それを引っ張り出しました。


 「鏡?」

 

 二つに割れた鏡の片割れです。

 鋭利になった縁を見て、睦はそれを大蛇の腹へと当て、一気に引きました。


 大蛇の躰はあっという間になくなり、ぐったりした権助が現れたじゃありませんか。

 睦は大急ぎで汲んできた小川の水を、一口飲ませました。


 さて、正気を取り戻した権助は、首を傾げます。

 なぜ自分があやかしにあったのか、さっぱり見当がつきません。あのお菊という者の正体もです。

 睦が静かにお茶を淹れ、微笑みます。


 遠い遠い昔、遥か古の話です。

 


  

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