①
何となく思い浮かんだ短文を繋ぎ合わせてみました。
上手く繋がっていたらラッキー。
7時23分のバスから、ぼくの一日は始まる。
バスは決まって同じ場所で車体を大きく揺らす。
冬の名残を残した道を走って行く。
平凡過ぎる毎日を、ぼくは生きている。
不満がある訳ではないんだ。ただ何となく、虚しさがじんわりとぼくを襲ってくる。
そんな退屈なぼくの日常は、きみに出会って変わった。
すべてが色づく。
春の匂いがする街を、きみと歩く。
どんな些細な事でも、輝いて見えるのは、きみがいたから。
遠くで手を振る、きみとの待ち合わせ。
一緒に居るだけで、それでいいと思っていたのに。
いつからだろう、こんがらがってしまった糸、解けずにぼくらははぐれだした。
二人で暮らし始めたのは、川辺のアパート。
何をするのも一緒だった。
料理なんてしたことがなかったきみが、台所に立つ。
偶然、帰りが一緒になって、きみが嬉しいと微笑む。
ベランダに椅子を出して、夜空に咲く花見上げていた夏の日。
いろんな街にも出かけた。
数えきれない思い出の中で、愛をはぐくんできたのに、どうしてかな、ぼくはまた新しい恋をし始めてしまっていた。
――二回目の春。
別れの予感を抱えたまま、二人で訪れた街の景色は、もやがかかったようにぼやけて見えていた。
どうしてきみが、この場所を選んだのか分からなかった。
いつだってきみは唐突で、海が見たいと言い出したり、急に泣き出した時もあった。つまらないことで、怒ったり、出かけようとするぼくの背中に抱き付いてきたりして、困らせた。
きっと不埒なぼくに気が付いていたからなんだろう。
きみが切り出すサヨナラに、ぼくは黙って頷いた。
旅が終わり、きみが出て行く。
寝たふりして、気が付かないふりをしているぼくに、まだ好きだよってきみが呟く。
ドアが閉まり、ぼくらの恋は終わった。
数えきれきれない思い出が詰まったアパート。
荷物を運び出すぼくに、鍵を返し損ねたきみからの電話。
気にしないふりして荷物を運んでくれている人のために、出来るだけ明るい声を作り、スピーカーを使って話す。
雪が積もり溶けて、花が咲き暑い日差しが照り返す夏が訪れ実りの秋を迎える。
その繰り返し、季節は巡り巡って新たな住人が鍵を開ける。
ただそれだけ。
いつか時間が風化して、ここであった二人の物語は色あせ、埃をかぶって、記憶の奥底に葬られて行く。
だからまた新しい季節が訪れ、物語が始められるんだろうと、そのアパートを見ながら思った。
すれ違う心。
溝が深まるばかりなのに、いつまで続けるのだろう。あの頃はそんなことばかり考えていた二人だった。