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妖姫  作者: kikuna
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何となく思い浮かんだ短文を繋ぎ合わせてみました。

上手く繋がっていたらラッキー。

 7時23分のバスから、ぼくの一日は始まる。

 バスは決まって同じ場所で車体を大きく揺らす。

 冬の名残を残した道を走って行く。

 平凡過ぎる毎日を、ぼくは生きている。

 不満がある訳ではないんだ。ただ何となく、虚しさがじんわりとぼくを襲ってくる。

 そんな退屈なぼくの日常は、きみに出会って変わった。

 すべてが色づく。

 春の匂いがする街を、きみと歩く。

 どんな些細な事でも、輝いて見えるのは、きみがいたから。

 遠くで手を振る、きみとの待ち合わせ。

 一緒に居るだけで、それでいいと思っていたのに。

 いつからだろう、こんがらがってしまった糸、解けずにぼくらははぐれだした。


 二人で暮らし始めたのは、川辺のアパート。

 何をするのも一緒だった。

 料理なんてしたことがなかったきみが、台所に立つ。

 偶然、帰りが一緒になって、きみが嬉しいと微笑む。

 ベランダに椅子を出して、夜空に咲く花見上げていた夏の日。

 いろんな街にも出かけた。

 数えきれない思い出の中で、愛をはぐくんできたのに、どうしてかな、ぼくはまた新しい恋をし始めてしまっていた。

 

 ――二回目の春。

 別れの予感を抱えたまま、二人で訪れた街の景色は、もやがかかったようにぼやけて見えていた。


 どうしてきみが、この場所を選んだのか分からなかった。

 いつだってきみは唐突で、海が見たいと言い出したり、急に泣き出した時もあった。つまらないことで、怒ったり、出かけようとするぼくの背中に抱き付いてきたりして、困らせた。

 きっと不埒なぼくに気が付いていたからなんだろう。

 

 きみが切り出すサヨナラに、ぼくは黙って頷いた。

 旅が終わり、きみが出て行く。

 寝たふりして、気が付かないふりをしているぼくに、まだ好きだよってきみが呟く。

 ドアが閉まり、ぼくらの恋は終わった。

 

 数えきれきれない思い出が詰まったアパート。

 荷物を運び出すぼくに、鍵を返し損ねたきみからの電話。

 気にしないふりして荷物を運んでくれている人のために、出来るだけ明るい声を作り、スピーカーを使って話す。

 雪が積もり溶けて、花が咲き暑い日差しが照り返す夏が訪れ実りの秋を迎える。

 その繰り返し、季節は巡り巡って新たな住人が鍵を開ける。

 ただそれだけ。

 いつか時間が風化して、ここであった二人の物語は色あせ、埃をかぶって、記憶の奥底に葬られて行く。

 だからまた新しい季節が訪れ、物語が始められるんだろうと、そのアパートを見ながら思った。


 すれ違う心。

 溝が深まるばかりなのに、いつまで続けるのだろう。あの頃はそんなことばかり考えていた二人だった。


 


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