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夜空色に導かれる真珠の城

 なんだかあの日以来、エースがよそよそしい。

 仕事の都合上よく一緒に――追いかけっこをしている時間を除けば――いるけど、距離が少し遠くなった。前は目が合えばにっといたずらっぽく笑いかけてきたのに、最近はすぐに逸らされる。

 

「エース様と何かあったの?」

 

 色々とよくしてくれている、メイドのお姉さんにもそう聞かれた。

 何か、あったんだろうか。正直あたしもよくわからない。

 

「あなたの仕事、人の交代がよくあるのよ。でもあなたは今までで一番長いから、エース様もあなたを気に入っていらっしゃるのかと思ったのだけれど……」

「そうなんですか?」

「ええ、それはもう。だから大丈夫よ、明日花。仲直りしてらっしゃい」

 

 エースが、少くともまわりの人から見てあたしを気に入っているのだとしたら、まだ間に合うだろうか。前みたいに、戻れるだろうか。

 

「うん、がんばってみます!」

 

 と、エースを探しに行こうとした矢先。

 

「明日花はいるかい? エース様がお呼びだよ」

「はいっ!」

 

 タイミングよくエース本人に呼ばれた。よし、がんばってみよう。

 

「あの……エース!」

「やあ明日花。午後は出掛けるからさ、護衛お願いね?」

「あ、うん。わかった」

 

 仕事の話の方が優先だから、後に回した方がいいよね。

 

「それだけ。じゃ、後でね~」

「待って、エース!」

 

 伸ばした手は空を掴む。追わなきゃと思っているのに、なぜだかそうすることができなかった。

 どうしてだろう。いつもだったら追えたのに。エースが遠く見える時だけ、近づけない気がしてあたしは置いていかれてしまう。

 

 

             *

 

 

「あーすかっ。お待たせ」

 

 こうしていれば、いつもと同じなのに。それでもそこかしこに、よそよそしさがにじむ。

 

「今日はどこに行くの?」

 

 二歩分くらい後ろを歩きながら、あたしは目的地を聞いた。

 先生に特に理由でもない限り護衛は数歩後ろと教わっていたし、何よりエースはあたしが隣に並ぼうとするとスピードを上げるからだ。


 だけど、ちょっとつまらない。寂しい。

 

「んー、友達の家かな」

「ふうん?」


 エースは簡単にそう答えるけど、この方向は……。

 

「王城……だよね?」

 

 白亜の城は、このペルレ国の象徴。見上げると、どこまでも白く美しい壁が続いている。

 

「うん、そうだよ」

「エースの友達って……?」

「シャルって名前なんだ」

 

 この城に住むシャルという名前の人なんて、一人しか思い当たらない。身分に交遊関係の拘束力はないから、そういう名の使用人ということもありえる。

 しかし、誰が働くだろう。城という場所で、王子と同じ名だとしたら。

 つまりこの城の「シャル」は、おそらく一人しかいない。

 

「友達って、シャル王子?」

 

 にっといたずら前の笑顔でエースがあたしを見る。

 あ、こういう顔、ちょっと久しぶりに見た。最近は見せてくれなくなった表情だった。

 

「そういうこと」

 

 言いつつ、エースはどんどん中へ進んでいく。

 門で控えていた兵士さんも、エースが名前を告げるとあっさり通してくれた。城の中でも、すれ違う使用人さんたちは丁寧に頭を下げてくる。

 それだけエースの家に権力があり、なおかつエースが王子の友人として認められているということを意味していた。

 

「え、エースっ」

 

 すごく自分が場違いな気がして、落ち着かない。

 白を基調としてひかえめな色で統一されているのに、綺麗で華やかな雰囲気。だけどそれに見惚れる余裕もないくらいだ。

 

「ああ、そっか。明日花はここ来るの初めてなんだ?」

 

 こくこくうなずく。

 

「じゃあ緊張するのも仕方ないよね。迷っても大変だし……。はい」

「え?」

 

 振り返ったエースが、あたしに手を差しのべている。

 そんな簡単なことを理解するのに数秒もかけてから、かあっと頬が熱くなった。

 

「まあ、エスコートだとでも思ってよ。普通でしょ。ほら、早く」

「う、うん……」

 

 エースの手をとる。あたしの手よりもあったかくて、離れないように強く握られている。だけど痛くないよう気を遣ってくれているのが伝わってくる、そんな繋ぎ方。

 どきどきするけど安心する、不思議な気持ち。

 大丈夫。前を歩くエースにそう思う。いつだって、あの夜色の髪が揺れる背中を追ってきた。

 

 そうして歩いていくと、大きな扉の前に着いた。ほどけた手の温度が名残惜しかった。

 

「シャルー、来たよ」

 

 重い音がして、細かくて華美な彫刻がされた扉が開いた。

 

「エース。ちょっと久しぶり、かな」

 

 そこにいたのは、真っ白な髪と月のような黄の瞳を持つこの国の王子、シャルだった。

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