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廻る太陽と月のような距離

 先生が話をつけたと言っていただけあって、簡単な確認と質疑応答だけであたしはある部屋に通された。

 そこに『護衛兼話し相手』の対象の方が来ると言われた。つまり、顔合わせみたいなものなんだろう。

 

 がちゃり、と扉が開く音がした。視線を少し斜めにずらせば、そこに立っている人が見える。にっと笑ってそこにいたのは、予想通りの人だった。

 

「つまんない人だったら、会うのやめようかなーって思ってたんだ。君なら会ってあげてもいいや」

「じゃああたしは合格なんですね?」

 

 さっき一つ注意があった。対象者――彼にはこれまで何人か人がついたことがあったが、彼が仕掛けたいたずらや姿をくらます癖によってことごとく辞めていったらしい。

 

「んー、今のところはね。そんなことより、敬語やめてよ。オレ嫌いなんだよね、敬語」

「いいけど……。あたしは何すればいい?」

「まずは自己紹介かな。もう聞いてるけど、お互い改めて。オレはエース、よろしく」

「日向 明日花。魔法使い……の弟子」

 

 自分の実力がわからないから、あたしはまだ一応魔法使いの弟子と名乗っている。先生は「そこらの魔法使いより強い」と言うけど、本当のところはどうなんだろう。

 

「珍しい名前だよね、『明日花』って。理由があるって聞いたけど……本当?」

「なんでそんなこと知りたいの?」

 

 思わず硬くなった声で聞き返してしまった。

 別に話すのも嫌な理由があるわけじゃないし、自分で知らないわけでもない。彼がそうだということではないけど、おもしろ半分に聞いてくる人には話そうと思わない。

 

「もしかして、噂のなのかなって思ったんだけど。君が嫌なら言わなくていいよ。オレも二度と聞かないようにするし」

「嫌じゃないけど……。また、今度」

 

 彼のことは、信用してもいいかもしれない。何より先生が選んだ人だ。

 

 だからいつか、あたしはきっと話すのだろう。

 

「最初にしては、なかなか楽しかったよ。じゃ」

 

 すっくと椅子から立ち上がった彼が、またもやきびすを返して走り出す。

 

「ちょっと、待ってよ! エース!」

 

 あっという間に廊下の先を行くエースの後を追う。ほとんど反射で、追いかけなきゃと考えた。

 

「明日花、追いかけっこは好き?」

 

 顔だけあたしに向けて、エースが問いかけてくる。追われているっていうのに――それとも追われているからか、楽しそうだ。

 

「嫌いじゃないかな。あと、追うからには逃がさないよっ!」

「あははっ。いいね、そうこなくっちゃ。オレも捕まるつもりはないけどね!」

 

 あたしたちはこのようなやりとりを、数日も繰り返すことになるのだった。

 

 

             *

 

 

 数日もたてば、あたしはここでの生活に慣れてきた。

 最初の頃は、屋敷内を走り回ったりしては怒られるかもとびくびくしていたけれど、エースの行動はもはや馴染みらしく、暖かい目で見守られていることに気づいた。

 

 そんな訳であたしは、今日も今日とてエースを捜している。

 魔法は便利な力ではあるけど、万能じゃない。だいたいの居場所までは割り出せるけど、特定はできない。それぐらいの精度だから、最終的には自分の足で捜すことになる。

 

「エース? どこ……ひゃあ!?」

 

 上から降ってきたのは水だった。屋敷の中なのに。エースが仕掛けたいたずらトラップの一つだろう。

 こういう物が、屋敷内にたまに仕掛けられている。そこそこの人通りはあるが、人目につきにくい廊下。それがポイントらしい。

 

「あはははっ。君が引っかかったの? あー、おっかしー」

「この……バカエースっ!」

「え? うわっ」

 

 自分の服を一瞬で乾かし、同時に水の魔法でエースを狙う。床や壁に当たった分は、すぐに乾くようにしてある。

 うう、こういうことのために魔法覚えたわけじゃないのに~。

 

「あ」

「追い詰めたよ……。もう、またあんなの仕掛けたりして!」

「ごめんごめん。はー、ムキになってオレを捕まえようとするのは君くらいだよ」

「次だって逃げたり隠れたりしたら、捕まえてやるからね」

 

 そのときのあたしは、知らなかった。

 

「……うん」

 

 エースが逃げる理由を。

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