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夜空色が揺れる先

 純白の城とカラフルな街並み。それがあたしの住む国の景色、一番の特徴だ。

 統一感がないはずなのに整ってもいるような、不思議な街。見ていて飽きないここが、あたしは好きだ。

 

 なんてことを考えて気を紛らしつつ、あたしが向かっているのは先生が口利きした仕事場である貴族のお屋敷だ。

 

「…………」

 

 有力貴族の家なのだから、そのお屋敷は当然大きく広い。そして玄関の扉ももちろん大きく、華美な彫刻が施されていた。

 

 ノックをためらうくらいは、許されるよね。ん? ノックでいいのかな? あれ?

 そうだ、声。声をかけるならたぶん間違えてないはず。うん。

 

「すみませーん。日向ひゅうが 明日花と言います、今日からここで働くことに……わぁっ!?」

「何してるの? 君。こんな人のいないとこで一人名乗ったりして」

 

 あたしと同じくらいの年頃――だいたい十四歳くらいだろうか――の少年が、どこか面白がるように言ってきた。いきなり開いた扉に驚いたあたしを見て、くすくす笑っている。

 

「あたしは魔法使いファージェル先生の弟子。先生の紹介で、今日からこのお屋敷でお世話になることになってます!」

「へえ。じゃああれは、君のことだったんだ。ふーん」

 

 珍しい何かでも前にしたように、少年は楽しげにあたしを眺めている。むっとしつつ、あたしも正面から彼を見つめ返す。

 

「何……?」

「べっつに~? また会えるの、楽しみかな。バイバイ」

「あ、ちょっと。待ってよ」

 

 くるりと方向転換をして駆け出した彼を、あたしは慌てて追いかける。他に誰もみつけられない今、彼だけがここでの頼りだ。

 

 綺麗に掃除された床、高価たかそうな調度品が飾られている廊下を走る。なんか罪悪感がある……。

 

「追いかけっこは嫌いじゃないけど、君は何か用事があるんじゃないの?」

「だから、どこに行けばいいかもわからなくてあなたに聞こうと思ったの!」

 

 それを聞いて、前を走っていた彼がぴたりと止まってあたしに向き直った。

 

「君、新しい使用人とかじゃなかったんだ?」

「ここの方の護衛兼話し相手ってことで雇われることになってます。雇い主であるここのご当主に会わせてください」

 

 かなり手遅れだけど敬語を使って頭を下げた。そういえばあたし、この人が誰かも知らない。もし立場のある人だったらどうしよう……。

 

「あー、そっかそっか。そういう話もあったし、さっき君魔法使いの弟子って言ってたっけ。なーんだ。困ってるなら、言ってくれればよかったのに」

 

 前半は小声で話していたせいで全然聞き取れなかったけど、後半ははっきり聞こえた。そしてそれには物申したい。

 

「聞く前にどっか行こうとしたくせに」

「まあいいからさ。案内してあげないよ?」

「ずるい!」

 

 あ、言っちゃった。たまに考えなしに言葉を口に出すのは、あたしの悪い癖だ。深刻な時には出ないけど、こういう時にはついやってしまう。先生にはよく両方のほっぺをみーっと引っ張られたりした。

 

「君、ちょっとおもしろいかも。ほら、こっち。ついておいで」

「……うん」

 

 なんか、掴みどころのない人だ。さっきまでは遠くを走っていた背中が、今は数歩分しか離れていないところにある。黒みがかった紫の髪がさらさら揺れている。もしかしてこの人……。

 

「ついたよ」

「ありがとうございます」

 

 さっきよりもっと深く頭を下げる。彼はきっと、この屋敷で暮らす貴族の方だ。

 先生があたしの雇い主になる人と話をしたという日、大人と一緒とはいえ珍しくあたしと同じ年頃の人が来ていた。その人の姿を、あたしは一瞬だけ見た。

 廊下を横切る動きに合わせふわりと揺れた、星が散りばめられた明るい夜空のような色の髪が印象的だった。

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