表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆・猫が変えてくれた人生  作者: 冬月やまと
71/71

第71話 紡いでゆく未来

 夏の再入院から一年。

 あれからは、何も問題はない。

 といっても、月に一度の検査と、毎日与えるカルシウム剤のお蔭なのだが。

 仕事も、順調にいっている。

 善次郎は思う。

 活と出会ってから、人生が変わった。

 あの頃の自分は、こんな時が来るなんて、想像もしていなかった。

 絶望の淵に立たされ、自棄になっていた。

 ただ、破滅することだけを望んでいた。

 そんな自分を、活が変えてくれた。

 一匹の小さな猫が、自分の人生を変えたのだ。

 夏とも出会い、美千代と洋平にも再会した。

 人生とは、不思議なものだ。

 活と出会ってから、五年近くになる。

 この頃活は落ち着いており、走り回ることもなければ、朝起こすこともしなくなった。

 それだけ、大人になったのだ。

 そうはわかっていても、善次郎にはそれがもの足りない。

 昔のやんちゃな活が、懐かしく思われる。

 もの足りない気持ちと同時に、恐怖もあった。

 猫は、人間よりも数倍、歳の取り方が早い。

 活が大人しくなっていくということは、それだけ死に近づいていくということだ。

 活は、まだ五歳だ。

 このまま病気もしないでいくと、後十年や十五年は生きられる。

 そうは思っても、善次郎の恐怖は拭えなかった。

 時々、活が死んだ時のことを思うと、それだけで善次郎の胸が張り裂けそうになる。

 だから、生きている間に悔いの残らぬよう、思い切り愛情を注ぐことにしている。

 夏もそうだ。

 特に、夏は二度も死にかけている。

 その夏はというと、相変わらずやんちゃだ。

 今でも部屋中を走り回り、早朝から善次郎を起こしにくる。

 もっと、ゆっくり寝かせてくれよ。

 そう思う時もあるが、それが善次郎にとっての幸せだった。

 せめて夏だけでも、いつまでもやんちゃでいてくれ。

 そう思っている。

 活と夏は、今や善次郎にとって、人生そのものといっても過言ではない存在になっている。

 猫に対して、自分がこんな気持ちになろうとは。

 善次郎にとって、人生最大の謎だ。

 もう一つ、善次郎にとってかけがえのない家族ができた。

 美千代と洋平だ。

 相変わらず部屋は別々で、同居はしていない。

 それでも、三人は睦まじくやっている。

 これも、不思議なものだ。

 家族で暮らしていても他人のようだったのが、今は、他人なのに家族になっている。

 美千代とは、戸籍上まだ復縁していない。

 そんなことは、善次郎にとって、どうでも良いことだった。

 美千代も拘っていないようだ。

 洋平はというと、志望校に進学できた。

 あれだけ、活と夏に時間を割いていたのに、大したものだ。

 これも、活と夏のお蔭なのかもしれない。

 きっとそうだ。

 善次郎の事業が順調にいっているのも、活と夏のお蔭なのだ。

 善次郎は、本気でそう思っている。

 それを聞いても、美千代は馬鹿にすることなく、善次郎の思いに同調してくれる。

 洋平は高校生になってから、ぐっと大人になった。

 思考がである。

 もちろん、外見も見違えるように大人びてきた。

「活と夏と遊んでいるから、たまには二人で話をすれば」

 そう言って、美千代の部屋で、善次郎と美千代を二人きりにしてくれることが、最近よくある。

 洋平も、本当の意味での家族に戻ることを望んでいるのだろう。

 洋平がこれほど大人になったのは、善次郎と美千代の離婚で苦労したからだろう。

 善次郎は、時期が来たらもう一度、美千代にプロポーズしようと思っていた。

 籍を入れることには拘っていないが、美千代のために、そして洋平のためにも、けじめをつけなければいけないと思っていた。

 最近、美千代が恐ろしいことを言い出した。

 いつも買い物に行くスーパーの横に、野良猫がいるという。

 その猫はもう大人だが、よく人に懐いているらしい。

 今は、餌をあげている人が何人もいるみたいで遠慮しているが、その猫が病気に掛かったり弱っていたりしたら、即座に連れて帰ると告げた。

 また、家族が増えるのか。

 やれやれと思いながらも、善次郎は美千代がその猫を連れ帰るのを、ちょっぴり期待していた。

 これから先、一体どれだけ家族が増えることやら。

 そろそろ、一戸建てに移らないとな。

 どれだけ家族が増えてもいいように。

 その時が、プロポーズをし直す時だろう。

 善次郎は、そのタイミングを計っていた。

 これからどうなってゆくのかわからないが、善次郎と美千代と洋平、それに活と夏。

 この絆が、壊れることはないだろう。

 今日も夏は、元気に部屋の中を走り回っている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ