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絆・猫が変えてくれた人生  作者: 冬月やまと
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第7話 身勝手

 善次郎には、この間のことがよほど堪たとみえる。

 こつこつと溜めていた貯金をはたいて、パソコンを買った。

 ネットで、猫のことを色々と調べるためだ。

 彼は、パソコンはあまり詳しくない。会社を経営していた頃も、パソコンの業務については、すべて事務員に任せていた。

 ネットだけなら、スマホでもよかったのだが、生憎とPHSしか持っていなかった。

 電話とメールさえできればいい。社長時代からそうだった。

 善次郎は、ネットやゲームには、まったく興味がなかった。

 スマホではなくパソコンを選んだのは、大きな画面の方がいいからと、月々の通信料が安いからだ。

 もう、あんなことは二度と繰り返さない。

 そのためには、パソコンが苦手なんて言ってられなかった。

 動物病院の先生にも、動物を飼うのなら、その動物のことを知っておけと言われた。

 それが、飼い主の責任だとも。

 動物は喋れない。それだけに、どれだけ気を遣っても遣い過ぎることはない。

 そうも言われた。

 本来ならば、活を拾った時に検査に連れていくべきだったのだ。

 野良猫は、体内にどんな病気を持っているかわからない。

 見た目が元気そうだからといって、油断してはならないのだ。

 そんなことも、先生に教えられた。

 幸い、活は悪いところはなかった。

 あの時、一通りの検査をしてわかったことだ。 

 パソコンを買ってから、善次郎は多くのことを学んだ。

 なぜ、イカやタコを与えてはいけないかということも知った。

 玉葱をやらなくてよかったと、つくづく思った。

 イカをやる前に玉葱をやっていたら、今頃、活はこの世にいなかっただろう。

 そう思うと、ぞっとした。

 猫のことを調べていくうちに、善次郎が一番驚いたのは殺処分の数だ。

 毎年二十万~三十万にも上る数の猫が、飼い主の都合で殺されている。

 猫には、何の罪もないのに。

 引っ越しするのに連れてはいけない。

 言うことを聞かない。

 子供が生まれたけど、そんなに沢山は飼えない。

 理由は様々だが、みんな飼い主の身勝手と無知のせいだ。

 ついでにわかったことだが、猫ほどではないが、犬も相当数、身勝手な飼い主の犠牲になっている。

 そんなサイトを見ていると、善次郎は怒りに身体が震えてきた。

 犬や猫はペット。確かに、そうには違いない。

 だが、そのペットにも命はある。

 犬や猫の命と、人間の命。どちらも重みは一緒だろう。

 なのになぜ、簡単に保険所などに持ち込めるのか。

 善次郎には、そんな人達の気持ちがまったく理解できなかった。

 確かに、善次郎も無知だったため、活を殺しかけた。

 それは、大いに反省している。

 だから、二度とあんなことを繰り返さないよう、努力をしているのだ。

 ペットを飼うということは、その命に責任を持つことだと、善次郎は思っている。

 活と暮らして嫌というほど思い知ったのは、煩わしいことも沢山あるということだ。

 下のお世話に、餌の世話。言うことは利かないし、夜も寝かしてくれない。外泊もままならないし、お金だってかかる。

 だけど、可愛い。

 癒されもするし、毎日に張りも持たせてくれる。

 どれだけ大変であっても、そう思える人間だけが、ペットを飼う資格があるのだと、善次郎は思う。

 ペットショップで売られている生体は、犬にしろ猫にしろ、全て可愛い。

 それは、生まれて間もない赤ちゃんを置いているからだ。

 それに騙されて、つい買ってしまう人間があまりにも多い。

 もっと想像力を働かせろ。

 善次郎は、見かけだけで買ってしまう人たち全てに、そう言いたかった。

 ネットに毒づいてみてもどうにもならないことはわかっているが、それでも毒づかずにはおれなかった。

 人間だって、赤ん坊の頃は可愛い。

 しかし、いずれ大人になる。赤ん坊の可愛さを残した大人なんていやしない。

 仮に、そんな奴がいたら気持ち悪いだけだ。

 犬や猫だって、同じではないか。

 一生買ったままの小さな姿でいることなんか、ありはしない。

 そんな簡単なこともわからない人間に、動物を飼う資格はない。

 そんな人間だから、まともに躾けることもできず、持て余していくようになるのだ。

 ペットの現状を知れば知るほど、善次郎の怒りは高まっていく。

 同時に、殺処分される前の、犬や猫の哀しげな眼の写真を見ると、胸が押しつぶされそうになる。

 どんな理由があるにせよ、飼っているペットの殺処分を頼むような人間は同じ目に合わてやればいいばいいんだ。

 そんな過激な思いに捉われることも、しばしばあった。

 しかし、善次郎がいくら憤ったからといって、殺処分される全ての犬や猫を救うことはできない。

 今、自分の無力さに、善次郎は打ちのめされていた。

 せめて、活だけでも守ろう。

 自分ができることはそれしかない。

 「活よ。お前は、俺が責任を持って一生面倒みてやる。だから、安心しろ」

 走り回り、疲れて寝ている活をしみじみと見つめながら、善次郎は活にそう呟いた。



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