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絆・猫が変えてくれた人生  作者: 冬月やまと
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第47話 人それぞれ

 菊池さんは、あれから、黒猫を拾ったそうだ。

 会社の帰り道、家の近所で蹲っていた子猫を、見つけたのだという。

 菊池さんが近寄っても、子猫は逃げようともせず、ただ苦しそうに蹲っていたらしい。

 殺された猫が、帰ってきてくれた。

 子猫を見た瞬間、菊池さんはそう思い、躊躇わずに、その子猫を拾った。

 拾ったときはガリガリに痩せていて、どこを触っても、骨の感触ばかりだった。

 何日生きていられるかわからない状態だったという。

 それが、二週間も経った頃には、普通の状態に戻り、今では、脂肪も付いているらしい。

 もう、どこを触っても、骨の感触はない。

 木島さんの報告を聞いて、善次郎は、夏を家に連れ帰った時のことを思い出した。

 痩せていて、まともに歩くこともできなかった。

 連れ帰った夜にでも、死ぬことを覚悟していた。

 夏を連れ帰ってから、善次郎は、三日の間寝ずに、夏の側に付いていた。

 昼間は仕事で仕方なかったが、せめて夜だけでも、なにがあってもいいように起きていたのだ。

 多分、菊池さんも、同じようなことをしたに違いない。

 菊池さんとその黒猫は、出会うべくして出会ったのだ。

 人間同士の縁というのも不思議だが、人間と犬、人間と猫といった縁も、不思議なものだ。

 人は、出会うべくして出会う。

 善次郎は、どこかでそんな言葉を聞いたことがある。

 犬や猫とも、縁があって出会うものなのだろう。

 善次郎は、今では、そう信じて疑わない。

 そんな出会いは、双方に幸せをもたらす。

 もっとも、善次郎自身は、活と夏に出会ったことで幸せを感じているが、活と夏が幸せなのかどうか、善次郎にはわからない。

 しかし、そんな気持ちで飼っているのは二匹にとって失礼なので、善次郎は、活と夏も幸せだと信じている。

 菊池さんは子猫が元気なったことがよほど嬉しいのか、その猫を連れて、ちょくちょく木島さんの許を訪れるらしい。

 そして、いつも拾ったときのことを語り、今の子猫を見せて、本当によかったと何度も言っては、木島さんにも同意を求めるという。

「俺は、猫が好きだよ。菊池さんのことも好きだ。だけどな、善ちゃん。活と夏ほど、菊池さんの猫を可愛いとは思えねんだよ」

 木島さんが、さも済まないという顔で、善次郎に語った。

 善次郎は、木島さんの気持ちがわかるような気がした。

 菊池さんは、悪い人ではない。

 が、自分が飼っている猫が可愛いあまりに、それを人に押し付けるのだ。

 悪気がないのはわかっているが、そこが、木島さんには引っ掛かるのだろう。

 まるで、我が子の運動会のビデオを、何度もお客さんに見せるようなものだ。

 自分は可愛いかもしれないが、あまりに押し付けられると、うんざりしてしまう。

 善次郎は、活と夏のことを、木島さんに自慢したことはない。

 そんなことをしなくても、木島さんは我が事のように、活と夏を可愛がってくれた。

 自慢も押し付けもしなかったから、そうしてくれたのだろう。

「さっきも言ったように、俺は、菊池さんのことは好きだよ。でもな、今度の猫も、外に出してるんだ。あんなことがあったというのにな」

 木島さんが止めても、一軒家だから仕方がないし、猫も、外に出たがって鳴くのだからどうしようもないと、菊池さんは言うらしい。

「俺だったら、絶対、外には出さないね。外は危険だ。殺されはしなくたって、猫同士の喧嘩もあるじゃねえか。そんなことになったら、外で生きている猫と、飼い猫と、どっちが強いかなんて、明白だろ」

 木島さんの言う通り、野良猫と喧嘩して、その傷が原因で死んだ飼い猫を、善次郎は知っていた。

 会社の同僚が飼っていた猫が、そうだったのだ。

 これも、難しい問題だ。

 もともと野良だったのを、ずっと家に閉じ込めておくのは可哀そうだという気持ち。

 一旦家で飼ってしまえば野良ではなくなるのだから、猫のの安全を考えれば、絶対に外には出さないという気持ち。

 その、せめぎ合いなのだ。

 最終的には、飼い主がどう判断するかだけだ。

 まさに、人それぞれだ。

 猫のことを考えているのは一緒なのに、同じ猫好きでも、価値観が違うのだ。

 人のことをとやかく言う前に、自分はどうあるべきか。

 それが一番大事だと、善次郎は思っている。

 ふと見ると、今の話など忘れたように、木島さんは、また活と夏を撫でていた。

 美千代と洋平が、そんな木島さんを眩しそうに見ている。

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