8:ショッピングモール
蝉の鳴き声が生み出す喧騒な空気が私を眠りから覚ました。
うぅ〜んっ!と大きく伸びをすると、カーテンの隙間から差し込んできた夏の光が私を刺激する。
「いい天気!」
「・・・ったく、急すぎなのよ」
「ご、ごめんってば〜!」
ここは大手ショッピングモール。家から電車で四十分。田舎に住むというのは不便が付き物だ。
私は今朝、無性に買い物に行きたくなり美希を誘った。幸い美希も今日は予定がなかったらしくてブツブツ言いながら来てくれた。
美希はなんだかんだで優しい。
「で、なんか買う予定のものとかあるの?」
「んー、とくにない!」
美希が深いため息をついていた。
「いいじゃん、いいじゃん!久しぶりの買い物だし!色々見ようよ!」
「そうね、田舎じゃこんなお店ないものね」
そうして私達は買い物を始めた。
「いやぁ〜久しぶりに買い物するといっぱい買っちゃうね!」
ショッピングモールについた私達は少し早めの昼食をとり買い物にでかけた。
何時間かいろんなお店を転々とし、気になったものを買っていた。
そして今はちょっと休憩で、ショッピングモール内の小洒落た喫茶店にいる。周りはカップルが多い。羨ましい。
「はしゃぎすぎよ、まったく」
「そーんな事言って、美希もかなり楽しんでたくせに〜」
えぇ⁉︎と美希が顔を赤らめた。危うく持っていたコーヒーカップを落としそうになる。
「ひ、久しぶりの買い物だからよ!薫ほどはしゃいでないわ!」
必死に照れを隠してる姿がなんとも可愛い。美希にもこんな一面があるのは知っている。いつもクールを装っているけど意外と無邪気でお人好しなのだ。
そんな美希を見ながら私も紅茶をすする。最近、ダージリンにハマって以来ずっとこれだ。
「あ・・・」
「ん?どうかした?」
怪訝な顔をした私に美希が尋ねる。
「い、いや何でもない!」
慌てて取り繕うと片手をヒラヒラさせた。美希は、「そう」と言ってまたコーヒーを飲み始めた。
「人増えてきたからそろそろ出ましょうか、まだいるわよね?」
「そうだね、もちろん!まだ3階は全然見れてないからね!」
残っていた紅茶をぐっと一口で飲んでそう答えた。
会計をし、店外へでるとちょっとした暑さを感じた。さっきの喫茶店はクーラーがよくきいていたのだ。
でもすぐに慣れるだろう。いざ3階へレッツゴー!
「これいいんじゃなーい?」
「そうかしら?試着してみるわ」
ブランドものが多数並ぶ三階へ来た。さすがはブランド。目に止まるものばかりだ。
値段を見てびっくりするけどね。
それでも見るのも試着するのもタダだからね!気になったら着てみる!これぞ貧乏魂?
「変な事考えないの」
美希に心を読まれたのではーい、と軽く返事をしておく。
さてさて、私も探していくとするか。
その時、反対側の店になにか見たことのある人物がいたような気がした。
反対側の店はメンズのお店。もしかしたら。
「あ!」
「どうしたの?」
美希は服に夢中なのか顔は向けずに声だけで聞いてくる。
私はちょっとちょっと、と言いながら美希に近づいて服をひっぱる。
美希は一体何なの?といかにも面倒くさそうな顔で見てくる。
「夏木さんがいた!」
「あらそう?話かけてこれば?」
美希はまた服を見始める。よっぽど服が着になるのだろうか。実は私よりここに来たかったりして。
「そ、そうじゃないのよ!」
「なにが?偶然ですねーなんて声かければいいじゃない?乙女ね〜」
「違う!無理なの!」
私は美希の服をぐいぐいと引っ張る。
「だって、だって」
「もーなんなの!」
焦れったい私にちょっと強い口調で私に言う。
「だって・・・夏木さん、女の人といるんだもん」
よくきいたクーラーがまるで私達の心とテンションの温度を下げるかのようにぼーうと冷たい空気を吐き出していた。




