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向かい側であなたは今  作者: りょ〜ま
10/16

10:お盆

 ーーーお盆。

 社会人にとってはありがた〜い日なのである。

 そんなお盆を活用してゆっくりゆったりと過ごしたい。私はお盆になると毎年実家へ帰る。実家といってもそんなに離れていないけれど。

 私が帰省する日の前日まで夏木さんとはショッピングモール以来会っていなかった。私の職場と夏木さんの職場はほとんど目と鼻の先だけれど、そう何度も喫茶店へ行かない。

 まぁ、でも一番の理由は。


 「恥ずかしいんでしょー?」


 美希は幾度となくこの言葉を投げかけてきた。


 「彼女だと思い、ストーカーしてみれば妹でした。あー恥ずかし、恥ずかし」


 「うっさい!」


 そんなんで、結局あの喫茶店へは行けなかった。ーーーそれでも。


 「実家帰る前の日くらいには会っといたら〜?寂しくて死んじゃわないためにも」


 なんて美希が言っていたので、会いに行った、というより会ったといったほうが近い。

 お盆前最後の仕事の日に、夏木さんは私が働く本屋へやってきた。

 突然の事でびっくりしたが、私はそっと夏木さんに近づくとお盆は帰省しますと、とりあえず伝えておいた。

 それを聞いた夏木さんは・・・。

 あれ?なんて言ったんだっけ?どこか不自然で不思議な気持ちになったはずなのに、そして夏木さんが買った本すら思い出せない。

 そうして私は、モヤモヤした気持ちのまま実家へ帰ったのだ。





 「ただいま!」


 「あら、おかえり」


 久しぶりの実家。懐かしい家の匂いだ。昔と変わったところはない。広々とした玄関、脇には大きな花瓶に立派に花が生けてある。

 私は奥の部屋へと繋がる廊下を歩く。その先にあるのはこれまた広々とした和室。そこには私のおばあちゃんとおじいちゃんの仏壇があった。

 仏壇にはお供え物のフルーツやお菓子。そしてきゅうりと割り箸でつくられた馬。この馬にのって帰ってくる。馬なのは速く帰ってこられるため、子供の時何度も聞いた話。

 私は仏壇の前に正座した。チーンと鳴らし手を合わせる。

 ーーーおかえり。



 「薫ー!手伝って」


 お盆になるとこの家に親戚が集まってくる。女性陣はご飯の準備だ。

 この家の台所も久しぶりだわ。


 「あら、薫ちゃん久しぶり」


 「菜々子伯母さんこんにちは!」


 お母さんの姉だ。菜々子伯母さんの子供は三人全員男。ちなみに私には姉妹はいない。子供が多かった昔は少しばかり珍しかった。


 「そろそろ墓参りいくぞ〜!」


 女性陣が食事を作っている間に男性陣は将棋で盛り上がっていたらしい。私もよくこの家でおじいちゃんと将棋をやった。まだ小さかった私は本将棋を指すよりも回り将棋や挟み将棋で遊んでいたほうが楽しかった。

 五目並べもよくやったな〜。

 やはり実家へ戻ってくると色々な事を思い出す。

 私が感慨に耽っていると、既に男性陣は家を出ていた。私も手を洗うと急いで準備する。

 虫除けスプレーしなよ〜!って一応声をかけておく。私は持ってきた虫除けスプレーを玄関においた。男性陣がぞろぞろと戻ってきたのが少しばかり笑えてしまった。


 外に出ると空はすでに茜色に染まっていた。赤トンボが何匹も飛んでいた。ここらへんは田んぼが多いから昔からよく見る。けれど昔と比べて随分と数が減っちゃった気がする。

 私達は歩いて五分ほどのところにあるお寺へやってきた。寺の脇に小さな墓地があり、私のおばあちゃんとおじいちゃんもこの地で眠っている。

 お父さんがお線香を渡してきた。私は受け取り、お墓の前へ。お線香をあげ、手を合わせた。




 家に戻ってからはすぐ食事になった。木でつくられた立派な長机に料理が並べられた。この辺は海が近いこともあり、そしてお父さんとお父さんの兄弟でよく釣りにいくこともあり、魚料理が豊富だ。

 鮪やサーモンの刺身。鯛の塩焼き。イカやタコまで。

 みんなが座ったところで、お父さんがビールを高々と上げ。


 「かんぱ〜い!」


 食事が始まった。




 男性陣は男性陣で。女性陣は女性陣で会話が盛り上がる。

 私は一刻も早く抜け出したい気分なのだ。なぜなら・・・。


 「薫ちゃんは結婚とか考えてないのー?」


 菜々子伯母さんはすでに出来上がっていた。この話、ほんと嫌いだなぁ。


 「ま、まだですね〜」


 あはは〜と誤魔化しておく。あと、今日はあまりお酒は飲まない。酔った勢いで夏木さんの事を話しなどしてしまったら一貫の終わりになってしまう。

 しばらくは、なんとかジュースと出来るだけ少量のお酒で耐える羽目になった。

 本当はお酒飲みたいんだけどね。



 食後には恒例の抹茶と和菓子。お母さんは昔からよく抹茶を点ててくれた。久しぶりの抹茶は昔を思い出すようで体にすーっと染み込んでいった。

 リビングでは将棋大会が開催されており、結婚話などされる前に私はさっさとそちらへ参戦した。




 だんだんと夜も深まりつつある時に、お母さんに泊まっていくか聞かれたが、泊まってはいかないことにした。近いし、すぐこれるからね。

 帰り際にお母さんはお菓子などを袋に詰めて渡してくれた。お父さんは酔いつぶれていた。

 そういえば帰りの事を全く考えていなかったが、奇跡的にバスが一本残っていたので乗り込んだ。

 私以外誰も乗っていないバスはどこか不気味でそれこそお化けでもなんでも出てきそうな雰囲気だった。お盆にはご先祖様が戻ってくるのできっと誰かのご先祖様だ、などと思い私は目を閉じて到着を待った。



 何事もなく私の住む町へ戻ってきた。

 実家ほどではないけれど、ここも十分に夏の夜を楽しめる場所である。

 新しくも古くもないアパートの一室の鍵を開け、扉をあける。


 「たたいまー」


 私の声だけが部屋に吸い込まれていった。

 

 「夏木さんは、何してるんだろーなぁ」


 ふと、私は夏木さんの携帯の番号を知らない事に気付き。


 「あーーーっ!!」


 静かな夜に私の声だけが響いた。

今回は会話文が少なくなってしまい、読みづらいとは思いますがご了承下さい。

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