安藤 智也 後編
ども、かつどんでーす。
前編から完全に一転した内容になってます。
「ひぃ~、あれは危なかったなー」
僕、安藤 智也は電車から降り、いつも通りの帰路に着いていた。
やっとあの巣窟から開放されたと思うと自然と足が浮き立つ。
それに一応親友のためにもなったし。
さて、このまま家まで何にもなく帰れたらいいな~。
ははは~、とまるで自由になった様な笑いをしながらふと後ろを振り向いた。
振り向いた目の前に虎の着ぐるみがいた。
「ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!」
僕は思いっきり猛ダッシュした。
(何だあれ、一体何なんだ!ってか誰が入っているんだ⁉いや、ちょっと待てよ、もしかしたら俺の知り合いではないのかもしれない、ただ俺の近くにいるだけで実際には俺とは何の関係もないかもしれないな、ほら、後ろを振り向いらいないとか…)
僕は走りながら後ろを振り向くと、
虎の着ぐるみは全力で走ってきていた。
「やっぱ来てんじゃねぇか!」
これは完全に僕を追いかけて来ている。そう思いながら僕はどこか隠れる場所が無いかと周りを見ながら走っている。
だがそんなことをしているとすぐに追いつかれてしまった。
「What’s happened !」
前に回れこまれた僕は驚きのあまり英語がでてしまった。
「ハァハァ」
虎の着ぐるみは外からはその表情が分からないが、中の人は相当疲れている様だ。
無理も無い、僕の全力の走りをその着ぐるみを着ながら抜かしたのだ。
今なら簡単に逃げられるかもしれない、そう考えたが先にこの人が一体誰なのか突き詰めようと考えた。
自分が誰から逃げているかが分かった方が逃げやすいのだ。
「え、えっと、あなたは一体誰なんですか?」
相手が誰か全く分からないので直球で聞いて見た。
すると虎の着ぐるみは頭を取った。
「ふぅ」
暑苦しい中から開放されて外の新鮮な空気を吸ったその人は、
「私です」
汗でベトベトになった見知らぬ女の子だった。
「いや誰⁉」
マジで知らない、ってか僕が覚えていないのか?
「えっと、以前どこかで会いました?」
「いえ、初めましてです」
「あ、そうですか、初めまして」
うん知ってる訳ない。
えっ、どうしよう、知らない人に追いかけられていたのか僕。
「何故僕を追いかけて来たのですか?」
「いずれ分かります」
何でだよー!
っと心の中でツッコミをしていると、彼女の着ぐるみに周りの視線が集まっていることに気付いた。
「その格好じゃ目立つしその着ぐるみを脱いだ方がいいんじゃない?」
「私に…」
「?」
「裸になれと?」
「ぶへぇぇぇ!」
くっ、流血は最小限に抑えたがやっぱり出てしまったか…
いやいや、ちょっと待て!何で裸なのか追求するべきなんじゃないのか⁉
だが僕が問いかける前に彼女から答えを言って来た。
「ふぅ、それにしても着ぐるみはやっぱ暑いですね、蒸れるかと思って服を着なかったのですが、それでもかなりの暑さです、収容量はかなりいいのですが」
「そうですか」
収容量って何だろうか、しかし、何故裸なのか聞けた時点で僕はまだ答えを聞いていない質問があることに気付いた。
「でさ、君は一体誰なんだい?」
僕にとっては最も重要な質問である。
「そういえば自己紹介がまだでしたね、私は湯澤 穂乃果、レース名は使用者と申します」
レースの新しい仲間だった。
湯澤さん、湯澤 穂乃果さんが僕を追いかけて来たのは僕に挨拶するためだったらしい。
と言っても偶々電車で見かけたから追いかけただけで、着ぐるみを着ていたのは元からという訳なんだが…
「取り合えず立ち話もなんですし、智也君の家に行きましょう」
嫌だし。こんな着ぐるみの中は全裸の女の子を連れて帰ったら親と弟に何て言われるか…
「どうしました?もしかして智也君という呼ばれ方が嫌でしたか?では智也お兄ちゃんと呼びましょうか」
「いや、いいです」
「そうですか」
その後、なんやかんやあって僕の家に行くことになってしまった。
なんでだ…
道中、お互いのことを沢山話した。
どうやら湯澤さんはルッカー先輩と同じ高校に通っていて、そこでルッカー先輩からレースにしてもらったらしい。
そして何より驚いたのは、僕よりも一つ年上だったことだ。
「私は姉としてみてくれても妹としてみてくれてもどちらでもいいですよ」
「赤の他人で」
「なるほど、つまり恋人になれる人ですね」
「違がは!」
流血量、少。
そんなこんなで僕の家に着いた。
そして玄関の扉を開けて湯澤さんと一緒に中に入ると、そこには僕の両親と弟が死体になっていた。
「えっ」
「………」
ただ絶望しかなかった。
母親は首を斬られて、父親は腹部を横に斬られている、そして弟は両腕が無く、真っ二つになっている。
家中が血の臭いで満たされている。
何が、起きたのか、死んでる?誰が?弟が、お母さんが、お父さんが…死んでるの?
何で死んでるんだ?
斬られた?誰に?
誰かが、一体、何故?何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で
何で僕の家族が、死んだんだ?
何で?
「何で‼」
とうとう口に出したとたん、僕は横から引き寄せられるのを感じた。
どうやら湯澤さんが僕を抱き締めているらしい。
だが着ぐるみの上からだと上手く抱き寄せられない見たいだ、それに痛い。
でも、それでも僕が落ち着きを取り戻すには十分だった。
「泣くのは、まだ早い見たいですね」
湯澤さんは僕を放して周りをキョロキョロ見渡している。
「どうしたの?」
「耳を塞いで!」
「へっ?」
小声でいきなりそう言われた僕はすぐに両手で耳を塞いだ。
すると、ピーンと甲高い音が聞こえた。
「そこ!」
湯澤さんはすぐに玄関から出て、庭の草陰に何かを投げた。
すると、
「ちっ」
草陰から白髪の男が現れた。
男は見つかったことを知り、血がついている日本刀で湯澤さんに斬りつけて来た。
刀は湯澤さんの腹部を狙って突き出された。
しかし、刀は着ぐるみに刺さらなかった。
「なっ」
「ふふふ」
湯澤さんは笑いながら着ぐるみの中から拳銃を取り出し、男を狙った。
「マジかよ」
男は後ろに下がってそのまま逃げるようにこちらを向いたまま下がって行った。
パァンパァンと湯澤さんの拳銃から弾が二発発射された。
一発目は男を外れたが、二発目は完全に男の顔面に向かった。
しかし、シュン!っと二発目の弾は男が持っていた刀によって二つに斬られ、その軌道が変わり、男を外した。
「………」
「………」
この攻防に二人は無言になっていたが、男は確実に逃げていた。
湯澤さんはそれを追いかけようとはせず、ただ男に銃を向けていた。
湯澤さんと充分な距離を取った男は踵を返して走り去って行った。
湯澤さんはそれを見送ると、銃を着ぐるみの中にしまった。
そして、
「今の人に覚えは?」
「え、今の人は…」
日本刀を持って、白髪の男。
「僕が出会った中では一人しかいない、確か、エンさんを襲った二番目って人だ、あ、でも二番目はもっと銀色の髪だったはずだった様な…」
「充分です、今のところその二番目が最有力候補ですね」
「うん、まぁ」
湯澤さんはまた家に入って来くると、血だまりを越えて、クローゼットに向かった。
何をする気なのか、気になって見ていると、湯澤さんがいきなり着ぐるみを脱いだ。もちろん全裸になったのだ。
「ぐほぉ!」
血だまりの上にさらに血だまりを吐くたが気絶はしなかった。
どうやら家族が死んだショックによって頭がいっぱいな様だ。
「少し大きいですがこれしかないですか、仕方ないですね」
どうやら湯澤さんは自分の着る服を探していたらしい。
湯澤さんが着た服は僕の母親の服で、湯澤さんの様な小柄の女の子が着るには少し大き目であった。
湯澤さんは母親の服を着ると、
「そこに座ってください」
と僕に言って来た。
僕の家だというのに湯澤さんは僕にリビングで、いつも僕が座っている所に座る様に言って来たのだ。
僕は何の抵抗も無くただ言われるかがままに言われた所に座った。
すると湯澤さんは冷蔵庫を勝手に開けて中を調べ始めた。
「んーと、こんなところで肉は駄目ですね、野菜はあるそうですし、野菜スープがいいですね」
僕は何をしてるのか、何がしたいのかそんなことをぼんやりと考えながらただ座っていた。
「よし、これでいいでしょう、そこでしばらく待っていてください」
僕は待つよりぼーっとしていた。
湯澤さんはお湯を沸かし、冷蔵庫から出した野菜を斬り、斬った野菜を沸かしたお湯に入れ、暫く茹でた後、塩で味付けをして、一人分のお椀によそい、僕の前に出した。
「食べて下さい」
「えっ」
予想は出来た。湯澤さんが野菜スープを作ったのは僕に食べさせるため、そんな事くらいこの状況なら誰でも分かる。
でもいざ食べるとなると、僕は動けなかった。
「ごめん、食欲がないんだ」
むしろこれで食欲がある方がどうかしてると思う。
「いいから、食べなさい」
僕が一回拒むと湯澤さんは強気で僕に食べさせようとする。
「で、でも」
「この一杯全部食べるまで逃がしませんから」
「………」
「しょうがないですね」
湯澤さんは僕の前に置いたスプーンを持ってスープを一口すくい、
「冷める前に熱々のまま召し上がれ」
僕の口に押し込んだ。
「ん!…熱っつ、熱っつ!」
くっそ熱い。
舌がやけどした感じがする。
でも、
「熱い…ッく」
熱さのためか、涙が出て来た。
僕が涙を流すと、湯澤さんはスープとスプーンを机に置いて、僕を抱きしめて来た。
湯澤さんは僕の母親、お母さんの服を着ているため、湯澤さんからお母さんの匂いがする。
そんなことをされたら、
「うぐっ、ひっ、ッく…うぐっ」
涙が止まらなかった。
湯澤さんはただ黙って僕を強く抱き締めてくれていた。
僕は湯澤さんに抱き締められながら、涙を流しながら目の前にあるスープを全部食べた。
スープを食べ終わっても湯澤さんは僕を抱き締めたままであった。
「ごめん、もう大丈夫、いや大丈夫じゃないけど少し落ち着いた、ありがとう」
「そうですか…でも何かあったらいつでも私に言って下さい、抱き締めるのは簡単です」
「あはは、そうだね」
湯澤さんは僕を開放すると、冷静にこれからどうするべきか話した。
「先ずエンさんに連絡しましょう、もし今回の事件が二番目って人が起こしたのならレースにとっても大事件になるでしょう」
「うん」
「あなたの家族どうします?最も親しい親族はあなたですからあなたが決めることです」
「えっ、どうするって…」
どうすればいいんだ?
「私が一番いいと思うのはナッシングさんに頼んで粉葬ですが」
「粉葬…確かに、それが一番手っ取り早いし、何より親友のためにもなるか」
「ええ、ではそうしましょう」
湯澤さんはすぐにエンさんに電話をかけた。
エンさんから須奈に連絡がいったようで、すぐに須奈が来た。
「………こりゃひどいな」
僕の家の惨状を見てあの須奈がそう言った。
と言っても須奈の場合は取り繕っているだけかもしれないが。
「全く、死体を血ごと粉にするなんていつぶりだ?猛獣の世界に行ったぶりだからそんなに日は経っていないか」
そういいながら須奈は僕の家族を粉にしていった。
その後、僕はとある施設に行くかと思われたが、何故か家に留まることになった。
それは湯澤さんのせいだ。
湯澤さんはその日以降僕の家に住むことになったのだ。
「これからは私が面倒をみます、覚悟して下さいねお兄ちゃん」
「いや、湯澤さんの方が年上ですよね!」
次回のhideはいつ投稿するか分かりませんが、centerの7人目の対戦相手を進めるのと同時に進めようかと思ってます。
この時点で安藤の家族を殺した人物が分かったらすごいです。