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リンファは目覚めた。柔らかな朝日が降り注ぐ。
(良く眠れた気がする)
そう思ったリンファは起き上がろうとして、異変に気付いた。
「・・・・・・」
リンファの腰には何かがある。それが何であるか気付いた瞬間、思考は停止した。
(なっ・・・!?)
体が硬直するのがリンファ自身にも良く分かる。
混乱と驚愕が占めていく。何とかしようと頭は思う。だが、身体は思う様に動かなかった。
(何で・・・隣で寝てる?ベッドは二つ有るだろ!)
リンファは何時の間にか隣で、しかも、自身の腰を抱いて眠るイオンによって困惑の淵に立たされている。
眠る時は別々だった筈で・・・いっその事、部屋も別の方が良かっただろうか。リンファは考えるが、自分達は余裕が無いのだ。
「・・・イオン」
すやすやと眠るイオンに呼び掛ける。しかし、眠りが深いのか反応が無い。
「・・・・・・」
リンファは腕を振り上げる。ただ、無言で。
考える事は放棄していた。握った拳をイオンの頭に振り下ろす。
・・・リンファの耳に良い音が聞こえた。
宿から出たリンファの後ろを涙目のイオンが歩いている。
その様子をこっそりと見たリンファは溜息を吐く。
(やり過ぎたか?でもなぁ・・・調子に乗らせるのは・・・)
今後の彼への接し方を決めかねる。
イオンを婚約者に似ていると思っていた。実際には全く違うのだと、今、痛感したリンファである。
「イオン」
仕方無いと、声を掛ける。笑顔を向ければ、飼い主に許しを貰った犬の様に笑う。
一緒に過ごす事になるだろう相手といがみ合うのは得策では無い。仕方が無いのだと、リンファは自分に言い聞かせた。
ほだされていると思いながら。
そして、二人は王都を出た。外から王都を見るのは二度目だ。リンファは二度と見ないと思っていた景色に見入る。
(生きては出られないと思っていたんだが、どうなるかは分からないものだな)
リンファは一先ず無事に王都から出られた事を安堵した。
「リンファ」
イオンの声で自分が立ち止まっていた事に気付く。
「すまない・・・行こうか」
リンファは振り払う様に王都から去ったのだ。後悔を残して。
「・・・リンファは本当に・・・」
小さな呟きは誰の耳にも入らない。ただ、ぽつりと零れた。
王都から一番近い街に向かう。そこは、別名を「水晶の森」とされる程に水晶が採れる。勿論、ただの水晶では無い。
「クリスティナ、魔法水晶が大量に採れる唯一の場所、か・・・」
リンファは先に見える透明感のある輝きに呆然とした。
魔法水晶の放つ光は遠くまで届くと言われる。しかし、それは誇張だと思っていた。魔法水晶と言う、一般人・・・魔法との関係の薄い人々の持つ憧れからの。
今、リンファはそれが誇張で無い事を知った。
輝く街にリンファは向かって行く。
だが。
「遠いな・・・」
遠いのだ。一番近い街でも、かなりの距離が有る。
小国出身のリンファには初めての距離だ。
「そうだね。セイラムは広いから」
「・・・・・・」
リンファは湧き上がった苛立ちを抑えた。