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リンファは王宮内の一室を与えられた。勿論、客人として。
「・・・やはり豪華だな」
恐らく、この一室だけでミリアム王国の全財産を上回るだろう。その位ミリアム王国は小さいのだ。
リンファは思い出す。
「面白い子ね」
楽しげな声だった。リンファは短剣を突き付けながら視線を動かす。
金髪の女性が立っていた。
「本当に、面白い子」
細められた目に背筋が凍る。怖い。怖い。純粋にそう思ったのだ。
リンファは女性の瞳が桃色な事に気付く。金髪は珍しくないが、その瞳の色は珍しいというより、一人しかいない。
セイラム王国第二十三王女・ツィツィーリエ。予言の姫と呼ばれている。
彼女は優雅な足取りでリンファに近付く。
「面白い子ね・・・ミリアム王国の世継ぎの姫君・・・」
歌う様な声でツィツィーリエは言う。そして、弟に目を向ける。
「ねぇ・・・ゼノン」
甘い声で弟を呼ぶ彼女はとても美しい。まるで母が子供を呼ぶ様に感じる。
「この子・・・ミリアムの姫君をちゃんと迎えましょう。楽しいわよ、きっと・・・」
災いを招く様な声にリンファは震えを抑えられない。だが、彼女の言葉が確かにリンファの命を長らえたのだ。
いつまでのものかは分からないけども。
押し寄せる不安。リンファは『これから』の不安定さを知る。
連れて来た侍女が食事の用意をしている横でリンファは考えた。
「・・・・・・」
食器の擦れる音がリンファの思考を遮る。目の前に広がる美味しそうな料理達。いや、実際に美味しいのだろう。リンファは自国の何倍も豪華な料理に溜息を吐く。
ここまで違うものなのか。
リンファは落ち込む。自国が貧乏だとは分かっているが、圧倒的な差を見せつけられるのは衝撃を受けるものだ。
「・・・豪華だな」
「・・・そうですわね」
「・・・姫様、割りそうで怖いです」
「・・・もう、帰りたい」
リンファの呟きに続いたのは、侍女達。
最初の同意は一番若い、と言ってもたった一歳差のミランダ。曇りの全く無いシルバーを並べている。
次の怖々としているのが、ジェーン。食卓に見た目も美しい料理が乗った皿を並べている。
最後の帰宅を望んでいるのが、侍女の纏め役をしているエリザ。静かに刺繍をしているがその目は何処か遠くを見ている。
リンファはどうにもならない感情を抱えながら、食事に取り掛かる。悲しい事に、料理は食べた事が無いくらい美味しかった。
悔しい思いをしながら、食事を終えるとリンファは広大な庭を歩く事にした。所謂、散歩。
囚われの身でありながらも、散歩が許されたのは彼女が世継ぎであり、その自覚が強いからだろう。
リンファは美しく咲いた花を見つめる。妹の面影を見た気がした。