第二歩
初めまして。箱根から来ました、石橋若菜です!宜しくお願いします!
学校へと続く坂道を駆け上がりながら、何度も練習をする。私はあまり運動が得意ではないから、心の中でたくさん繰り返した。
初めまして。箱根から来ました、石橋若菜です!宜しくお願いします!
うーん……。好きな物とか言った方がいいのかな。それとも特技とか?いきなり元気にやりすぎるのもおかしいかな?…………転校なんて初めてで、よく分からなかった。それに人見知りだから、はっきり喋られるかも分からない。
……不安だった。
でも、頑張らなくちゃいけない。ただでさえ離婚したばっかりで、お母さんもたくさん働かなくちゃならないのに、私の事なんかで心配掛けちゃいけない。
小さい頃から、私はお母さんの事が大好きだった。いつも元気で綺麗で優しくて、憧れていた。それにお母さんの作るご飯は美味しくて、幸せな気持ちになれた。私が泣いた時はしっかり抱きしめ、慰めてくれた。その時お母さんの、柔らかくいい匂いがして、とても安心できた。
お母さんのことを心から尊敬していた。いつか私もあんな人になりたい。
その反面、お父さんは仕事ばかりで、ちっとも遊んでくれなかったし、何かあれば弟のことばかりで。お姉ちゃんなんだから我慢しなさいとか、たまには良いじゃないかとか言いながら休日の度にどこかへ出掛けた。たまにはどころか、出掛けなかった日の方が少ないというのに。
……弟は、勇斗は今頃、どうしてるだろうか。三つ下の弟 勇斗は、お父さんの方に引き取られ、箱根の家に住んでいる。もともと離婚の原因はお父さんの浮気だったから、再婚したりしちゃっているのだろうか。
もしそうだとしたら、勇斗の事が可哀想でならない。そんなに大人しい訳ではないが、あまり活発な方ではないから、もしかしたら居心地が悪くなったりしているのかもしれない。
心配だった。
少しの間、学校のことを忘れてしまうくらい。