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第八話 価値という存在

ローザ視点です。

「あら、また森におでかけするのですか?」

 いそいそイネス様を連れて出掛ける準備をしていたアレス様に声を掛けた。

 お供えと言う名のおやつ──意味がよく分らないがイネス様の分らしい──をせっせと鞄に詰めながら。「うん、出掛けてくる」の声が・・・・・・毎日飽きないものだ。


 ローズウッドには様々な人が暮らしているが子供はいない。

 大人、それも成熟した個体がすべてである。

 この村はいささか特殊なのだから。


 アレス様も外見は幼いとはいえ十五才。エルフ的に言えば成人はまだまだでも、そろそろ何か考えねばならないだろう。


 出来れば同年代の友達がいれば。


 それも出来れば将来のつがいに成れる様な。


 姿見に映った自分を眺めてみた。

「・・・・・・」


 私は容姿については自信が無い。

 特に幼い頃から表情が乏しいのは自覚してある。

 同性からは好かれていたと思うが、同世代のエルフ達が次々とつがいを見つける中でも一人だった。


 何故か遠巻きに距離を置かれ、声を掛けられたことも記憶には無い。

 仕方が無く修行に精を出し、それが現在では実を結んでいるのは助かってはいるが。



 今では完全に行き遅れ。特にアレス様とは年の差は・・・・・・っ! いやいやいや! 何を考えているのだ!!!


 馬鹿な考えを振り払っていると、来客を告げられた。



「遅くなりまして」


 アレス様と入れ替わるように訪れたのは、村長とロイヤルド氏の二人だ。

 もちろん待たされた訳では無い。ただの儀礼である。

 二人にはアレス様が出掛けた後に訪れるように伝えてあったからだ。


「それで緊急の話って何かしら?」

 身内と言っても良い二人だが、全面的に信用をしているわけでは無い。


 村長のデュランは実直でまとめ役としても適任だったが、種族としては脅威に成り得る可能性があった。

 亜人と一括りにされる事も多く、旧大戦の記憶も薄れた現在では単に忌み嫌われているが、魔族の血を引く彼ら魔人族の戦闘力は馬鹿には出来ないからだ。


「実は・・・・・・。」

 ロイヤルドが代わって話し始めた。

「先日、村の者に下げ渡された精霊石をお覚えでしょうか?」

 もちろん覚えている。

 と言うか、実は私も頂いたのだから。

「それが何か? 確かアレス様は好きにしても良いとおっしゃっていたと思うけど」


 後から聞いて驚いたがあの精霊石は天然物では無かった。

 信じられないことに目の前で作られるまで疑っていたくらいだった。


「はい、一部を現金に代えて復興の資金に使おうと思ったのですが・・・・・・」

「いやに歯切れが悪いわね。問題無いわよ、あの場に私もいましたから。確か・・・・・・。アレス様は『残りは村で保管するなり、売るなり好きにして良いよ』と言っていましたから。


 当時はローズウッド家代々に伝わる秘宝──それも私が知らないという事は、当主だけに密かに伝えられる品だと──思っていたのだが。


 まさか、使用済みの魔石であるとは。



 あれは反則だ。



「それが、実に困った事に成りまして・・・・・・出来ればアレス様いや、ローザ様にお決め頂きたいと」

 どういう意味だろう? 別に一度下げ渡した物を売るのも使うのも自由だろうに。


「物を売るのは貴方の得意。暴利を貪るので無ければ、ローズウッド家ゆかりの物であろうと自由に売れば良いじゃない」

 どうも話が噛み合わない。

 何が問題だと言うのだろう?


「王都でオークションに出品を決めたのですが、値が付きませんでした。いやこれでは誤解を招く。正確に言うと、誰も値段を付けられなかったのです」


 深刻そうな顔をしてロイヤルドが告げた意味を聞いた私は事の重大さに初めて気付いた。



 スヴェア王国は、ここローズウッドから南に位置する古い国の一つだ。

 小国ながらも歴史と文化伝統に裏打ちされた国には特徴があった。


 それがオークションである。


 数ヶ月に一度この国では世界中から人が集まり、様々な物品が持込まれた。

 そこに今回精霊石を出品したのだ。


「もちろん、通常のオークションに出すなどと言う事は致しておりません」


 特別のそれも一般では参加出来ないオークションにだしたと言う。


「秤の神が主催する事から、天秤のオークションと呼ばれています」


 ここに出品する品は一般に流通しない物、いや出来ない物が数多く出品される。

 ほとんどが、王族もしくはそれに準ずる者から出され密かに売り買いされるのだ。


「通常でしたら最低落札価格を売主が決め、それを競い合って最高価格を付けた者が落札できるのですが・・・・・・」


 天秤のオークションではそれは出来ない。

 価格を決めるのは神だからだ。


「そこで鑑定の神殿に持込み、価格を出してもらったのですが・・・・・・出ませんでした」

「はっ!?」

 思わず声が出た。

「ど、どうして!? あの精霊石に価値が無いとでも!?」

 確かに元になったのは唯の魔石。それも使い古しだけど・・・・・・。まるでアレス様自身に価値が無いと言われたみたいでは無いか。


「ちっ! 違います!!!」

 温厚で冷静沈着なロイヤルド氏が慌てて付け足した。


「価値は確かに有るのです。ただ、値が付けられないと・・・・・・まれには有るのですよ、前例が有りましたから」


 ────────っ! 良かった! やはりアレス様は無価値では無かったのだ!!!


「で、では・・・・・・」

 ごくりと唾を飲み込む。

 どうしよう? 怖い。とんでもない事を聞きそうな気がする。

 けれど、その先を聞くのが怖い自分と、望む答えを期待している自分がいた。


「ええ・・・・・・。前例は神器。それも、女神級の神器の時に同じことが起きたそうです」


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