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第二十話 戦いの行方 その三

「で・す・と・ろ・い」


 イネスの無慈悲なつぶやきで一点に収束した爆発。それは精霊のノリノリな力のおかげで威力が膨れあがった。

 急速に水素を作り出し完全燃焼させフレアを襲う攻撃、それはアレスの中途半端な科学知識の利用で内部に作用し、とんでもない事態を起こしたのだ。



「いっ! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ────────ぁ!!!」


 閃光が迸り、制御された爆発が収束していく。本来ならありえない現象が巻き起こる。

 輪を描きながらキノコ雲が伸び上がった。


 もしその場に観測機があって科学者が見ていたら、こう言っただろう。

「TNT火薬2キロトン位? アハハハハ……ありえねえわ。マジで!」


 なぜこうなったか? と言えば、アレスが昔とあるサイトで見たTNT火薬1000トンの爆発実験の記憶があって、イネスがそれを勝手に共有しているからなのだが。


 耳鳴りで、音が消えた空間。

 白煙が辺りを包み込んでいる。


「いったぁ──い……。もう酷いわね」

 時折、瓦礫が落ちてくる中、直撃したはずのフレアは、ぽんぽんとスカートの埃を叩いていた。


「もぅ! 怪我したらどうすんのよ!」

 ぽっかりと開いたクレーターの下から、ぷんぷんと怒る仕草は友達がおいたをした位の感じだ。


「っ────! 生きてる!?」

「ま、まさか……あの全力が効かないというのか」


 ローザは戦慄した。

 信じられないモノを見たからだ。

 目に前の女神は、どう見ても無力な少女にしか見えないのに。

 傷ひとつ無いのだ。


「くっ! ならば!」

 拳を握り締める。ならば、ならば。ならば? どうする──────?

 崩れそうな心を奮い立たせ、何か手をと考えた瞬間。

 気が付いた。

 ……手が無いことに。

 そう、あれ以上の攻撃など思いつかないでは無いか。



「あーあ、無駄だよ。神は壊せないから」

 そんなローザをあざ笑うかのように、フレアに抱かれたアンティークドールが言った。





   ※※※※※※




 所変わって。


「おいっ! 本当にこれが必要なのか!?」


 ジョセフは世界が手に入ると思っていた。いや手に入れるのではない。自らが創り出すとさえ思っていた。

 それがどうだ?

 領民は逃げ惑い、兵士たちは死んで行く。

 想像した姿との違いにジョセフ皇子は青ざめていた。


「僕は救世主では無いのか? お前は僕が世界を救うと言ってたでは無いか? だが……見てみろ……皆死んでいく」

 頭を抱え、ヨーゼに問いかけた。


「はははは、それがどうしたと言うのでしょうか? 神の子であり偉大な救世主様! 貴方様は予言に記された世界の道標であり唯一の希望なのです。犠牲? それが何だと言うのでしょう? すべて必要なのです! 見なさい。喜びと恍惚で貴方様のために犠牲となる彼らを! ああ、神よ! 称えたまえ! そう新たなる世界のための礎となる彼らこそが真の使徒となる姿なのです」

 まるで何事も無いと、他人事のように語るヨーゼ。そう聞くとすっと不安が覚めていく。いや違う、何かに誤魔化されるように、どうでも良くなるのだ。


「これも予言の書に書いてあるんだろうな?」

 途端にそれが気にならなくなったジョセフ。

「もちろんでございます」

 ヨーゼの答えに満足げに微笑むのだった。






   ※※※※※※





 手の中で光を失った精霊石を放り投げ、「ふん、あれはもう駄目だ」と吐き捨てた。


 あれからも不安がるジョセフ皇子に、都度闇魔法を掛け続けているが効果が短くなっている。

 フレアを通じて取り入り、予言の書などという甘い餌に喰いつかせた。心地よい欲望の肯定は、心の隙間を広げ闇の力を浸透させるのに都合が良かった。所詮は馬鹿な皇子。欲望という甘い蜜に手を出すのは早かった。


「ヨーゼ様、ジョセフ皇子は覚めかけているのでは?」

「心を支配する闇の術とはいえ万能では無い。まあ良いわ。ここまで楽しませてもらったのだ。所詮は汚らしい人族の愚か者。すでに役割は終わった」

 ヨーゼが語るように、闇の魔法によってコントロールするのも限界がきている。


「夜の闇とともに世界は閉ざされる。くくく、何が救世主だ! 世界は我ら闇の眷属の物。人族もエルフ共もまとめて嘆き悲しむがよい」


 だがそれももう必要ない。

 何故なら。

 世界を手に入れる日が来たのだから。


「北の結界の様子はどうだ?」

「はっ、幾ら泉で守られていようと、崩れるのは時間の問題かと」

「ふん、後生大事にエルフ共も守ってきたようだが、くくっ、死者の魂は溢れ出している。闇の復活も時間の問題よ」


 長年虐げられてきた闇の眷属の願い。我が主の再誕。


「巨人は復活する」


 心の高揚が収まらない。ヨーゼは酔っていた。

 己の野心と世界の崩壊の期待に。







   ※※※※※※






 そして長年に渡って守られていた聖域では。




「ヒマだなケロ」

 木洩れ日の中、石柱の上でカエル座りをしているアスク。ここの所、訪れる者もないため実にだらけた仕草である。

 首からさげた金の鎖の先を時々触り、小さな水晶から淡い光が灯っているのをニヤニヤと見ているのが実にキモかったりしていた。

 隣ではアメンボのエムブラが呆れた顔で見ていた。まあ、表情は分からないのだが。

 そういう雰囲気だ。


「アレス何しているのかケロ」

「モーモー、またその話?」

「良いじゃんかケロ」

「いいけどね」


 このやり取りも、すでに日課だ。


「マア平和で結構でケロ」

 アレスを除いて、人族もエルフも誰も訪れた事が無い世界。ローズウッドの森の聖域は今日も平和である。

 そんな当たり前の現実に満足したアスクが伸びをした時。


「あれ?」

 気が付いた。


「おい! 見るでケロ」

 傍らのエムブラに声を掛けた。


「何かナー、ん……アレ?」

 そらを覆う黒い影が見える。


「マッ、マサカ!」


 心の中の何かが叫んでいた。あれは、あれはヤバイものだと。

 そう、すべてを犠牲にしてまで守ったのに、全部無駄にしてしまう存在だと叫んでいる。

 いや、心が震えているのだ。


「ダメダメダメ──────でケロ!!!」

「エッエッエ……なに?」

 エムブラはも意味も分からず不安な声を出した。


「マズイ、マズイマズイ……どうにかするでケロよ。だって……」


『すべてを捧げてまで守ったというのに』


 どうしたのだろう? 何かをしなければ、取り返しの付かない事態を巻き起こしてしまうと心が震える。


「守る! 守る! 絶対に! 守るでケロ!」


 そう神階の賢者アスクの名に掛けて。


 何故だか分からなくとも、心が誓っていたのだ。


展開遅いなという声が聞こえそうです。

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