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第十五話 おしおきという存在 その二

 賑やかな人だかり。

 行き交う人々は、みな笑顔で思い思いの商品を手にしていた。


 縁台に緋色の布をかけ赤い傘を差してあるなど、どこか懐かしい風景をかもし出している。ダルマハクに続く街道の入り口は並ぶお店でいっぱいだった。


 ここはアレスの発案で作られた茶店だ。

 普段は人通りなど少なく寂れていた街道を整備して広場を設けた。

 中心に交易所と呼ばれる商館を建て、簡易な宿泊施設もある。

 魔石を取り扱う商人以外誰も使わないと思われていた施設も現在大盛況だ。

 誰がというとダルマハクの奥地から降りてきたエルフたちで、ローズウッドには立ち入らないエルフもここならと、気軽にやってきているのだ。


「ねえねえ、今度は何を買う?」

「そうねぇ? きなこ餅にしようかな?」

 店先で売られているのは甘味に軽食だ。

「すみませーん! きなこ餅一つとお茶を二つ下さい」

 二人組みの若いエルフっ子が店員に声をかける。

「はいはい! ただいまー!」

 忙しそうに店内を行き来していた売り子が明るい声を上げた。



 ひよこっと顔を出したのはロマリカの女たちををまとめるラトリーで、艶のある黒髪をお団子にしてまとめ藍色の民族衣装に身を包んでいる。

 落ち着いた色合いの衣装は長い布を巻きつけ重ねた「どっかインドっぽいね」とアレスが言ったサリーみたいなもの。

 ロマリカの民は年頃になるとこれを身に付ける。青赤黄色などが良く使われ、結婚式などではカラフルな色使いが特徴的だ。



「おまたせしました」

 お盆にのせられたお皿には、きなこがまぶされたお餅。見た目にはわらび餅に似ている。

「うわーっ!」

 口に入れたとたんに上がる歓声は、アレス考案のでんぷん餅だった。

 他にもあんみつや汁粉も人気で、お土産には最近べっこう飴も良く出ていく。


「まいどありー」

 満足したのか楽しげに帰路に着くエルフっ子を見送ったラトリー。

「すまんが、注文をとってくれんか?」

 と、そこへ現れたエルフの男に声をかけられて『おしながき』を手にした。

「はいはい、いますぐー!」

 見れば他にも何人か忙しそうに働いている。

 ローズウッド唯一の娯楽施設は順調に進化していた。





「ふー、お腹いっぱいだ」

 先ほどまで茶店で甘味をはしごして、心行くまで堪能した。

「うふふ、また来ようね」

「うん、絶対ね!」

 二人はカーラが属する最大氏族の『サーガ』に属するエルフだ。


「でもさ、何で村の中は入っちゃだめなんだろ?」

「そうだよね。おばば様も必死になっていたよね」

 推定年齢不明の長老エルフからきつく言われた事を、思い出したエルフっ子は首をかしげる。


 魔石を持っていけばコンペイトウが手に入ることを知ったのは最近だ。

 精霊魔法が使えるエルフにとって魔石を抽出するなど簡単なことだった。

 だがいままでは誰もやらない。いや、魔石に価値があるなど思ってもいなかったのだ。


「時たま人族が掘ってたけど、やっぱりコンペイトウのためにやってたんだよね?」

「うんうん、納得したよ」

「「だよねー!」」

 声を上げて笑いあっているが、この二人だけでは無い。

 ダルマハク全域を巻き込んでの話だったからだ。





        ※※※


 カーラの革命によってエルフ社会は激変した。

「魔石を出せばコンペイトウが手に入るらしい」

「綺麗で型の良い魔石じゃないとダメだぞ!」

「ああ、濁ったやつはダメだな」

「魔法できちんと揃えたら倍貰えた」

「うそぉおおおお!!! 本当かよ?」

「オレ、精霊石見つけたけど、貰ったの十倍できかねーぜ!」

「ま、マジかよ!?」

 貨幣経済では無く物々交換のエルフ社会で、いきなりの魔石ブームが巻き起こったのだ。





        ※※※


「カーラ様、上手くいったようですね」

「そうね、単純すぎて笑っちゃうわ」

 普段は多数派氏族は弱小の氏族に不利益を浴びせていた。具体例を挙げれば、香辛料や黒糖の横取りにはじまり、住む場所から労働の強制まで多様だ。


 要は搾取である。


 弱い者からむしりとり、あとはカーラに強請って自身は決して働かない。


 エルフは労働をしないのが通説だ。

 いや正確に言うとエルフの男が働かないのだ。

 自然と共生するなどと言っているが、生きるためには最低限の労働はいる。


 ところが……。実体はニートでヒモ。


 三年前にそれぞれの氏族で百人ほど増えた。これはエルフの歴史の中でも凄い事で、一時は食糧難に陥る騒ぎをおこしたらしい。

 発端はアレスの魔力に中てられた発情期が原因で、妊娠期間が終わって出産も揃ったからなのだが。

「おばば様も妊娠したくらいだもんな」

 推定年齢不明の長老エルフが出産したとか。



「狩りや労働を支えているのは女たちだからな」

「我がサーガ族はそうでもありませんが、他は概ね似たようなものですね」

 女性が社会を動かしているのだから、妊娠出産で働けなければ当然困るのだ。

「食糧難でも働かない連中が仕事するとはね」

 ニートさえも動かす力。それが甘味の威力だった。


「金平糖さまさまだな」

 魔石で交換を出来るようにしたのも大きい。貨幣としての価値を持たせたのだ。


 ダルマハクで魔石ならどこでも手に入る。

 形や程度に基準を設けたのも良かった。

「等級を決め、差を付けるか」

「流石アレス様ですね」

「うむ、交易所まで足を運ばせるんだ。流通とか言ったか? 費用が掛からない上に、お土産と称して物まで買わせる」


 販売に来たものに消費までさせるのだから、得られる利益は独占だった。

 あとは商人にまとまって卸せば完了である。

 金貨はすべてアレスの所に残った。


「報告では年間の産出量が十倍を超えたと聞いた」

 一人一人の持込む量はわずかでも、集まれば膨大になる。


 と、そこに。

「ん? 伝書つばめ」

「ローザ様からです」


 足に付けられた筒から取り出した手紙に魔力を流す。ルーン文字が光を発してローザからのメッセージが流れ出した。


『アレス様がさらわれました。身柄は大丈夫ですが、犯行を企てたのはオルネ皇国のジョセフ皇子。至急救援を乞う』


「ヘリアっ!!! 族長を集めろ!」


 そう叫ぶカーラの声はそれまでの和やかな気配は無かった。





        ※※※


 屈強な男たちが集結している。

 ここにいるのは『ゲイラ』と『スカルド』で、線の細いエルフの中で異色の氏族だった。

 全身を覆う筋肉の鎧はドワーフかと思うほど。

 槍の『ゲイラ』と剣の『スカルド』は戦闘氏族である。


 同じように各地で氏族が集まっているのだろう。


「おい! 飛竜を用意しろ!」

『ゲイラ』の戦士長が部下に指示をだした。


 ダルマハクからオルネ皇国までは遠い。

 ここしばらくは闘いなど無くすっかり忘れていたが、自分には騎獣があったなと思い出したのだ。


「飛竜なら一っ飛びだ! がはははは!」

 装備を確認しながら「長距離なら鞍も付けんとな」と用意させていると、青い顔をした部下が戻って来た。


「た、隊長~!」

「なんだ? 早く飛竜を呼んで来い」

「そ、それが……」

「なっ! なにぃ! 逃げたと言うのか!?」


 長年世話も無く放置されていた飛竜たちは、山に戻った。

 呼子の笛で呼び出すも現れた飛竜は「エサも世話もしてくれない『ゲイラ』にはこりごりだ」と断られたと言うのだ。


「くっ……」

「ど、どうしましょう?」

 同じような出来事は各地で起こっていた。どこの氏族も遊び呆けていたからである。


『スカルド』でも走竜に逃げられたらしい。慌てて巣穴に人を出していた。


「っ! しかたねぇ! おい、手分けして山に入るぞ!」

 これじゃどうしようもないと戦士長は部下を集める。


「良いか! いまから山に行って、手近な邪竜ワイバーンでも捕まえて来い」

「飛竜がいればそいつを、ダメなら邪竜ワイバーンを殴って言う事を聞かせろ! なに、ぐだぐだ言っても殴りつけてたら言う事聞くからよ」


 白い歯を見せて不敵に笑う戦士長。賢い飛竜と違って邪竜ワイバーンは力ずくで言う事を聞かせる必要があった。しかも油断すると噛み付いてきたりする。


「さあ! 行くぞ! お前らコンペイトウの興廃はここ一戦にあり!」


「「おぉおおおおおおおおおおお!!!」」

 そう言って次々と山に入っていくエルフの戦士の姿だった。

 それはその日、各地で見られた。

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