第六話 友達という存在
唐突に友達が出来ました。
「はぐはぐ……ん、それも欲しい」
差し入れのおやつを口いっぱいに頬張る。
猫目でイメージはチンチラ。でも食べ方はどう見てもリスみたいな奴だな。
オレンジ色の髪の彼女と初めて逢ったのは、石鹸作りに行き詰った僕が散歩にでた時だった。
「こんにちは」
畑で作業をする村人に、挨拶しながら森に向かった。肩からはお昼に食べるサンドイッチと水筒が入った鞄を下げて。
整備された小道は森の奥深くまで続いていた。もっとも、最奥の泉までは距離があるので、適当な所で引き返さなければならないだろう。
危険は無いのかって思うだろうけど、ローズウッドの森は問題ないんだ。
ローザからも森に入るのは問題ないって聞いてるし。大丈夫なんだろう。
精霊の加護を受けた森は実に静かだ。魔物はおろか熊や猪さえも近づかないこの場所は、太古から精霊に許可を貰った者しか入れないという。
森に入って一時間くらい歩いた場所に開けたところがある。伐採した魔木を置いておいたりする場所だ。そこの岩に腰掛けてお弁当を広げていた。
「じー……」
「おお! 僕の好きなベーコンサンドだ」
「じじー……」
「うはっ! 美味しそう! 頂きます」
「ぐぬぬぬぬ! 無視をするなっ!」
いや、さっきから気が付いていたけどね。
茂みから飛び出してきたのは十歳くらいの女の子? 後ろからふさふさのしっぽが覗いている。
「だれ?」
面白そうなのでジト目で声を掛けてみた。
「ふふふっ! 我は「あっ! 美味い!」 ちょっ! 話を聞けっ!!!」
見た目は完璧ちみっこだな。
精霊の目で眺めてみるとどうやら人では無さそう。
それにしても意識はベーコンサンドに釘付けらしい。
ためしにベーコンサンドを目の前にちらつかせたら。
「おぉおおおおおおおおおお!!! くれるのか!」
くすっ、反応が凄い。
「うーん・・・・・・どうしようかな?」
引っ込めてみた。ちょっと意地悪かな?
うっすらと涙目になっている。
ベーコンサンドを動かしてみた。
「右・・・・・・上っ」
おおおおおおおお! 面白い顔と一緒にしっぽまで動くじゃん。
「うっ・・・・・・うぐぐ・・・・・・」
やっ、やばい。涙が決壊しそうだ。
「あああ、ごめん! ほ、ほら、おいで! あげるから」
小心者の僕では、これ以上のいたずらは心が痛む。そうそうに降参しよう。
夢中で貪るなかで聞いて見るとどうやら彼女はこの森に住んでいるらしい。
えっ? でもこの森って・・・・・・。
「ねえ? 本当にここに住んでるの?」
「はぐっ。ん? 我に聞いておるのか?」
おー!!! 我って使うの初めて見たよ。
手についたソースを名残惜しそうに指1本まで丁寧に舐めると、こぼした欠片を払って立ち上がった。
実に偉そうな態度を見た目十歳の女の子が取るって微笑ましいよね? うん、しっぽまで立ってるし。
「我はこの森の精霊でありゅっ!」
あっ! 噛んだ!
「しっ! しまった!!!」
「ぷっ・・・・・・あはははははははは」
本当に可愛い精霊もいたもんだ。
彼女はこの森で生まれた精霊だと言う。
名前を聞くと無いと偉そうな態度──これがまた可愛い──で言うので。
「そか・・・・・・名前が無いのは不便だな」
「ぬぬ、名前は必要なのか?」
「うん、名前がないのは変だと思う」
何時までも「おい」とか「キミ」とかおかしいよね?
「ぬぬぬぬ!」
ふふ、悩む仕草も癒されるな。
「ううぅ、うぬ──ぅ」
しまいにはその場でゴロゴロし始める。
「ねえ?」
キリが無さそうなので声を掛け。
「良かったら僕が付けてあげようか?」
まあ、愛称とかの感じで呼ぶのなら良いかくらいの感じで聞いてみた。
「おっ! なになに! 名前を付けてくれるのか!」
「お、おう・・・・・・」
なにこの食いつき。
「良し良し! そうか! 付けてくれるか! おい、我が特別に許す! 我に名前を与えよ!!!」
この時はこれ(命名)がどんな意味を持つかを知らなかった。