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第十三話 呼び名(ケニング)という存在

 アレス誘拐によりオルネ皇国が揺れていたとき。


「こちらでございます」と、相も変わらず丁寧な使用人に案内された。

 誘拐犯の一味に礼を言うのもなんだと黙ったまま付いていった。

 背中に目があるのかと思うくらいにさりげなく距離を取って歩いている。

 でもおそらくこの人、僕を怖がっている? だって緊張が見て取れるもの。


 はぁ……これからどうなるのかね。


 案内されたのは豪華な一室。多分食堂ダイニングルームと思われる場所だ。

 五十人は楽に座れそうなテーブルに銀の食器、グラスが並ぶ。置かれている調度品を眺めると歴史を感じた。どれも僕には値打ちも分らないけど。





        ※※※


「楽にしてちょうだい」

 女神と名乗る少女はそう言った。

 アンティークドールかと思えるくらい綺麗な子。胸にはソックリな人形を抱いていた。

 どう見ても子供だよな。

 イネスより見た目は少し上か? 十二、三歳くらい?

 傍には執事と思われる老人が控えていた。


「心配しなくても何も入ってないわよ」

「悪いけど、いらない」

 目の前には贅を尽くした料理が並べられている。とても美味しそうに見えるけど食べる気にはなれない。


「そう」

 残念だわという表情を見せたが不機嫌に眉をしかめたりはしなかった。


「帰してもらえませんか?」

 無理だろうと思いながら言ってみた。

「帰りたいの?」

 自分でさらっておいてそれは無いだろう。

「あら? 招待したつもりだったのだけど、違ったのかしら?」

 ──────っ! 心を読まれた!?


「ごめんなさい。どうやら齟齬があったようね」

「意識を失わせて縛り上げるのが招待ならそうですね」

「まあ、些細なことだわ」

「フレア様! まずは謝罪を。貴女はアレス様の意思を無視して行動されております」

 傍らで控える執事が苦言をていする。

「うるさいわね! もぅ! 爺は黙っていて!」

「嫌でございます。いつものお優しくて愛に溢れた貴女らしくもない。さっさとお謝りになられることですね」


「うううぅ、分ったわよ! 謝れば良いんでしょ?」

 怒られて涙目の女神は僕を見ると「ごめん」と謝った。けれど、そのふてくされた態度で不満一杯なのが分る。

 なんだ! この茶番は、どうかしている。

「もぉおお! 謝ったでしょ? さっさと許しなさいよ!」

「フレア様」

 執事の目が笑っていない。そうだよね、いまのは謝罪とは言えないや。

「なっ!」

 僕の考えを読んでキッと睨む。

 ダメだこの女神は。

「何がダメなのよ!!!」





        ※※※


 その後非常に面倒なやり取りを経て、ようやく落ち着いたダメ女神。

 僕は密かに心の中で残念女神と呼ぶことにする。


「それで、誘拐は誤解として僕を呼んだ理由は?」

 嫌な予感を感じながら聞いてみる。

「そうそうそう、そうなのよ!」

 いちいちメンドクサイ奴だ。さっさと言えよと、その頃には僕もだいぶん馴れて来たんだけど。


「アナタって、変な記憶持ってるでしょ?」

「へっ!?」

「いや、隠さないで良いのよ」

「えっ、いや、あのっ」



「その秘密知りたくない?」

 ドヤ顔がウザイけど、それは知りたい。

「ふんふんふん、どうしようかな?」

 うげー、こいつ嫌いだ!





        ※※※


 それは壮大な神話だった。

 遥か太古の昔話。

 世界は九つの世界に別れていた。

 神による三つ巴の闘いは終止符を迎えようとしていたのだ。

 後に『ラグナロク』と呼ばれる終末の日。

 そこまで聞いて僕も気づいた。


「それって……北欧神話だ」

 そう僕のいた前世で知られる神話。そうだ、確か舞台は北欧……。

 ──────っ!!!

 ローズウッドは北欧だ!


「うふふ、そうだよーん」

 じゃあ、ここは……この世界って。

「残念ながら、アナタの記憶にある世界とは違っているわね」


 神話として世界・・に伝わっているのは予言だと言う。『ラグナロク』により世界は分断されてしまったから、情報が正しく伝わらなかったらしい。


「オーディーンは知っていたのよ、世界の終わりを。だから死を迎える前に魂を分けたのね」

「魂を分ける?」

「うん、やがて来る時代のためにね」


 オーディーンは崩壊後の世界に復活しようと呼びケニングを付け魂を分けた。いわゆる転生だ。それは世界を飛び回り生まれ変わっていく。目的は新しい世界を導くための経験を積むため旅を続けるのだ。


「アナタもその一つ」

 地球世界に生まれ変わった魂は、経験という目的を果たし転生した。


「……僕が神の生まれ変わり」

「うーん……ちょっと違うかな? 正確に言うと呼び名ケニングを持っている存在かな」


 呼びケニングとは能力みたいなものらしい。

 全知全能の神であるオーディーンの能力は厖大だ。アレスは一部を持っているだけに過ぎなかった。しかも経験を積むだけなので、何かの力に目覚めたりもしない。


「でもね、生まれた場所がちょっと問題なのよ」

 いまもオーディーンの呼びケニングは転生を繰り返している。それはこの世界だけでは無く、違う世界かもしれないが。



 予言ではこう記されている。

『新しい太陽は北から生まれる』


 神々の大戦で崩壊した世界は海中に没する。そして大地は蘇りバルドル──経験を積み生まれ変わるオーディーンの事──が復活した。神々は正しきものたちと暮らし、人族は世界樹ユグドラシルで新しい世界を築く。

 復活の場所ユグドラシルは、ローズウッドの事でバルドルとは太陽の神だ。


「ちょっと待って!」

「何かしら?」

「太陽って? バルドルって、もしかして僕?」

 何かを考えるように頬に手を当てたフレア。

「そうとも言えるし、違うとも言える」

 などと不思議な答えを返した。


「アナタはオーディーンの生まれ変わりの一部で全部じゃ無い。アナタがローズウッドに生まれるのが早すぎたのねー」

 本来であれば全ての呼び名ケニングを備えて復活するらしい。けれど何故か一部だけ持って生まれてしまったのだ。

 だからまだ予言は成就していないと言う。


 しかも、このままでは秩序ある幸せな世界は築けないと。


 ではどうすれば良いのか。


「だからねー。アナタは全部を探さなければならないの」

 そうフレアは言ったのだ。


あくまでこの物語の中だけの設定ですので、実際の北欧神話とは内容が違っています。

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