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第十二話 駆け引きをぶち壊しそうな存在。

 オルネ皇国議会堂は貴族館と呼ばれる歴史ある建物。ギーシュ皇王が廃位される混乱で勝ち取った皇権の一部委任により、国内ではかなりの影響力を持っている。



 オルネ皇国には正典化した憲法は無い。いわゆる不文憲法の国家でアレスの前世であればイギリスに近い国だろう。


 明文化した法としては皇権があり、全知全能の神の如く君主に属する権利だ。


 ただしこれは過去の事であり、度重なる皇族間の争いにより失っていったのだ。最高権力者が政治に関われない間も誰かが国を動かさねばならないのだから。


 統治の委任も続けば慣習となる。既得権益と呼んでもいいだろう。

 慣習は皇王が代替わりする度に複雑になり、徐々に皇権は縛られ力を失って行った。


 君主が力を失えば得る者がいる。

 委任された皇権は人事権から一部行政権まで多様ではあるが、その中で議会が勝ち取った物は立法権で、当然の如く法院は司法権を手にしていた。


 そこでアレスがさらわれた翌日、緊急の召集がされた。

 議案は『ランディ皇子に対する勅旨ちょくし』だった。


        ※※※


 皇王グレアムは不快の色を隠さない。老境に入って巨体はもてあましぎみだが、いまだ衰えぬ眼光は荒々しい野生の血を伺わせた。


「議会が動き出したようです」

「……いまさっき知ったわ」

 挨拶もそこそこに現れたブレゼア公爵はいきなり切り出した。兄である皇王グレアムとは対照的に鈍感な印象だが、どんな皮肉も受け付けないような強靭な精神を持っている。

 いまも兄の苛立ちを受け止め恰幅の良い身体に悠長な調子で続けた。


「欲をかいた小物はさておき、根の深い事態を招いたのは貴方の責任ですよ」

 どこか軽い口調ながらも鋭く指摘した。


「……貴族が過分の力に酔いおって」

 現状皇王グレアムは苦心して皇権の拡大を図るもいま一歩という所だった。

 特に後継皇王の決定に難儀している。


 イギリスのプリンス・オブ・ウェールズを意味する『バラン伯爵』は空位だ。

 本来、後継選びは家内の事とされる。

 厳格な継承順位など無く、皇族なら誰でも皇王になる権利を持つのだ。資格と言えば男系男子であるという一点のみなのだから。


「制限されているとは言えど、皇権は巨大ですからな」

 出来れば扱い易い皇王になれば旨みも増す。貴族が願うのはギーシュ公爵家のレニエ皇子だった。

 当初、政治色の希薄なフィエット公爵家から迎え入れ、貴族の力を削ごうとしたのだが。


「色と欲にしか能が無いレニエに務まるものか」

 吐き捨てる様に言うが、一度は受け入れた。

 だが皇王グレアムは一度は受け入れたものの三つ巴にして抵抗しているのだ。

 策は当たり現在は拮抗している。


「今回のアレス殿の誘拐の背後を調べるには時間が掛かります。誰かがあの方に報告したのでしょう」

 浚った相手は判明している。暢気に構えていられるのもそのせいだ。


「問題なのはこの機に乗じて動き出した輩か」

 アレス誘拐の責任を持ってランディ皇子の排除に動き出した。


「アレも我が息子。国を思えば致し方ないのだが……とは言え、ぞんざいには出来ぬ。うるさい連中が動き出すからな」

「エルフはもとより、ククリ族に精霊ですかな? 一晩で国が消えても驚きません」

 あっさりと他人事のように話すブレゼア公爵はどこか楽しそうだ。


「ふん、気楽な身分だ」

「私は野心が無いですから」

「今度の件、誰が敵でも不思議では無い」

「だから早めに手を打ちなさいと言ったはず」

「そう言うな」と苦々しげな表情を浮かべる皇王グレアム。


勅旨ちょくしなど出せんぞ」

 さらわれたのは皇宮、それもランディ皇子の御殿だ。すぐにグレアムの名を騙った者は判明したが毒を含んでいた。他から証言を取ろうにも、巧妙に仕組まれたのか対面したのはランディ皇子だけだった。


「叱責せよですか。あはは、皇王に怒れと命令するとは大きくでましたな」

 勅旨ちょくしとは皇王の命令を示す公文書だ。直接の署名無く私書に近い物でも効力は重い。

 処罰では無く叱責でも後継レースから脱落するのは明らかだ。


 議会での意思に反して皇権を行使する事は可能ながら、諸刃の剣は容易に抜ける物では無かった。


「無には出来ぬ。理由がいるからな」

 だから緊急時・・・を除けば、皇王が決めても法相と議会議長の同意が必要となるのだ。


「何にせよ、アレスがアレに囚われている以上。我々には暫くは手をだせん」

 そう言ったグレアムの顔は何とも言えない表情だった。




        ※※※




 皇王が議会への対応を決めかねていたころ。ローザは眠れぬ夜を過ごし朝を迎えていた。


「っ! 情報はまだなのか!」

 ブレゼア公爵邸の一室は野戦指揮所のていを為していた。

 集まる面々は殺気立つローザの前に並べられた生贄のようだ。実際ギレアスは二度凍らされた。ルオーは不用意な発言で凍傷になりかけてもいる。


 誰もが早く迎えに行けよと思っている。当然ローザが一番そうしたいだろう。


「使えん連中だ!」

 金切り声という珍しい姿を見せながら情報を集めていたのは何故か?


「何が女神だ。くそっ!」

 そう単純に相手が特殊だったからだった。


 ローズウッドに森の女神がスヴェアに秤の神がいるように、ここオルネ皇国にも神がいた。

 フレア神と呼ばれ『愛欲と豊穣』の女神だが、他の神々とは違って実在するれっきとした現人神なのだ。


 首都『スフラーフェン』から東にある『ヴァナディス』という領地に住み、恋に悩む者を助けることを生きがいする変わり者女神である。


「どうりでアレストとの繋がりが消え、精霊に聞いても居場所を明かさないわけじゃ」

 神なら精霊との繋がりに介入できる。

 イネスもフレア神の情報を精霊たちから聞いてからは、怒りよりもあまりの女神の情けなさに呆れていた。


「いまはどうなのかしら?」

 心配なのはアレスの身がどうなのかだけ。

「アレスに危害などくわえる気は無いと思う」


「絶対に面白がって介入してきたに違いない」

 女神のことを聞いたローザは微妙な顔で、けっこう厄介な女神だと思った。

 発情期が引き金となったとはいっても、そこには恋心があるからだ。

 必死に隠してはいたが自分は偽れない。


「もう! 何が目的なの!?」

 いきり立つローザを前にして何だが、この場の者たちは「そりゃ、アンタが原因でしょ?」と言いたいだろう。

 何故なら恋バナの大好物な女神がローザとアレスを見逃すわけが無いからである。

 ローザの気持ちなど誰もが知っていたのだから。


 身の危険が無いと知った後は『ヴァナディス』に入り込む手段を探している。


 困った女神はご丁寧にも結界を張り外部からの進入を防いでいたのだから。

次回、残念女神の登場です。

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