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第九話 事前折衝という存在

 ここまでローズウッドを発ってから二ヵ月。

 首都『スフラーフェン』は美しい都市だった。

 沿岸に整備された海港を持ち、そこから水路が街中に引かれている。


 中央の尖塔を持つ建物が皇宮で、その周りを囲む城壁に深い堀が作られている。

 他にも北に貴族館と呼ばれる議会堂が建ち、周りを司法、行政を行う施設が機能的に配置されていた。

 実に先進的な都市である。

 これはオルネ皇国が君主制国家であり、強い中央集の表れでもあった。


 首都に隣接されて三つの街は北、東、南とそれぞれ特色を持っていた。

 北はギーシュ公爵が治める工業区。

 東はフィエット公爵の商業区。

 そして南がブレゼア公爵の居住区でキッチリと区画され整備されている。


 それ以上に圧巻なのは西の海港だ。造船や荷揚げの施設もさることながら、半分を占める軍港が巨大なのであった。

「すごい船だ」

 アレスもオルネ皇国の国力に驚くばかり。


 そんな中、アレスを乗せた馬車は居住区に向けて進む。

 ランディ皇子の生家、ブレゼア公爵の本宅が滞在中の宿だからだ。


 三層に分かれた居住区を進む一行。居住区と言っても住居ばかりでは無い。馬車の通る道沿いには、立ち並ぶ商館や宿屋、酒場などが見えた。この街だけでも独立した一つの街なのだ。

 そして民家を抜けて中心に行くたびに建物が大きくなっていく。貴族の屋敷が多くなり緑が目に付いた頃、高い塀にに囲まれた森が広がっていた。


「なんかほっとする……」

 森の空気に触れてアレスは思った。

 木々に囲まれたブレゼア公爵の屋敷はどこかローズウッドに似ていたからである。


「「ようこそアレス様」」

 笑顔を見せて出迎える使用人たち。まずはその数に驚く。馬車寄せの前に整然と並んでいた。


「長旅はご苦労様でした。私がここの主、ブレゼア公爵と申します」

 館の装飾に圧倒されていると、恰幅の良い男性に迎えられた。

「は、初めまして、あっ、アレスですぅ」

「どうぞ緊張なさらず、ここを自分の家だとでも思ってお寛ぎください」

 公爵のこの対応は破格だ。

「はっ、はひぃっ!」

 アレスが噛むのも当然だろう。なにせ相手は皇王の弟、れっきとした皇族なのだから。

「ささっ、殿下からは聞いておりますぞ」

 な、ななな! ランディ皇子! 何を言ったの!? とさらに緊張するアレスだった。


 アレスが通されたのは客間、イネスとローザも一緒だった。

 ギレアス以下使用人と護衛は別室である。

 ここでも驚きの連続だった。

 あれよあれよという間に、使用人たちに囲まれ浴室に案内さてた。


「えっえっえっ? ちょ、ちょっ!」

 豪華な浴室に目を剥いていると着ている物を剥ぎ取られた。

「やっ、やっ! やめっ、自分で出来ます!」

「ご冗談を?」といなされて、次々と現れる侍女たちに剥かれていった。

「あれ────っ!」

 悲鳴をあげるたびにくすくすと笑われ、たちまち全裸の状態だ。


 ひゃっ! 手が! いゃん、そこっ! 触ってるから!? ダメぇえええ!

 アレスの心の叫びも空しく大騒ぎである。

 集まった妙齢の侍女はみな貴族の子女で、興味津々なのか時々アラレもない振る舞いに出るのだ。


「あらんっ? かわいいぃいい!」

 高位貴族に仕える侍女は気位も高いのだが、どうやら好奇心には逆らえない様子。高い職業意識も相まって熱心だ。

「うふふっ、ちっさいのね」

 時々アレスの心に深刻なダメージを与えながら磨き上げて行ったのだ。



 もうダメ……お嫁にけない。

 字が違うなどと思ってはいけない、アレスの心境を的確に表わす文字なのだから。

 しくしくと、べそをかくアレスとは対照にイネスはご機嫌だ。

「おほほぉおお! うぉっ!うぉっ!」

 着せられたドレスを見せながら、きゃっきゃとそれはもう喜んでいる。


 ただ一人ローザだけが時折アレスを恨めしげに睨みつけていた。




        ※※※



 ブレゼア公爵はホスト役としては絶妙の人だった。

 まず物事に造詣ぞうけいが深い。それこそちょっとした素材の産地から、料理の仕方まで披露された知識の引き出しは豊富だ。

 飽きさせる事無く持て成す。

 やろうと思ってもなかなか出来うるものでは無いだろう。そこはさすがの皇族というものだった。


「ごちそう様でした」

 大満足の食事を終え、場所を移しての会話に入ったところだった。


 ん? ここって完全な私室だ。

 それまでの食堂などとは違って、客を迎える場所と違って見えた。もちろん調度品は豪華で見事だが、なんとなくそう感じたのだ。


「ところでアレスくん」

 気軽に君付けで呼んでもらえるくらいの空気で公爵が切り出した。

「はい、何でしょう?」

 場所は領主のプライベートな空間。適度に人払いも済ませてあった。

「殿下から聞いたのだが、精霊石をソナム妃殿下にお贈りしたそうだね」

「ああ、微妙に違いますが、贈ったと言われればそうですね」

 対価を受けた物を贈り物として良いのかどうか、アレスにしてみればちょっと複雑なのだ。


「まあ確かにスヴェアは買い取った形にしたからね」

「よくご存知ですね」

「ふふふ、隠しているわけじゃ無いから、誰でも知っていることさ」

「アレは我からの贈り物じゃ!」

 精霊のイネスにとっては当然の主張。

「そうでございますな。精霊様の祝福でございました」

 これは失礼をと優雅な笑顔で謝罪する。

「うむ、分ればそれでよい」

 公爵を相手に偉そうな態度だが、実際に精霊を敬う文化がこの世界にはあった。


「アレスくんは魔道兵器という存在をご存知かな?」

「魔道兵器ですか?」

「さよう。帝国で配備中の新兵器の事ですがな」


 ふーん、魔石の力を使う大砲か。ファンタジーのテンプレだな。

 見た事は無いが想像はつく。火薬の代わりに魔石なんていうのは定番だったからだ。実際アレスの作った精霊石も、使い方は違うが効果は同じものだ。


「残念ながら僕は見た事も聞いた事もありません」

「……ふむ、そうですか」

「でも、何故僕にその話を?」


 大体想像付くけどね。おおかた僕に魔石か精霊石を売って欲しいって言うんだろうな。

 現状で魔石はともかく、精霊石は売る気が無いアレスだ。どうやって断ろうかと思っていると。


「実は、あの魔道兵器がエルフから帝国に渡されたという噂があるのです」

 アレスは当然知らないが、これは事実だ。帝国の商人を通じて渡っている。

 もっとも当のエルフとしては危険な武器という認識は無い。

 それこそまだ精霊魔法もロクに使えない子供が、狩りの真似事で遊ぶもので玩具の類だったからである。


「それは存知あげません。母はエルフですが、僕自身は……エルフの国の事は良く知らないので」

「ああ、すまない。君を責めているのでは無い」

 途端に慌てて弁明する公爵。


「君の出生の話は聞いている。もちろん陛下が公式に認めたわけでは無いから、まだ公にするわけには行かないがね」

 公爵の目は穏やかな目で、どこか身内に対する、それも親しい相手に向けられたようだ。


「私はアレスくんとは良い関係を作りたいのだ。なんと言っても叔父と甥の関係だからね」

 そう言っておちゃめにウインクを返すと、真剣な表情に変わった。


「だから、今回。ローズウッドと正式な条約を結びたいのだ」

「……条約ですか?」

「そう条約だ」


 これは大変な事である。

 世間ではローズウッドの事をエルフの一部と思っている。ダルマハクの一地方との認識なのだから。


「それは……でも」

「もちろん、そちらの立場もあるだろう。だが我が国はローズウッドを正式な国家と考え、それに準じた姿勢で仲良くしたいのだよ」


 公爵はふたたび笑顔で外交や貿易、もちろん街道の工事など将来の利点を話し始める。その中には当然、不利益となる事柄も隠さない。これは、かなりの誠実さを持って提案しているのだろう。


 事前協議の体をして夜遅くまで公爵とアレスの対談は続けられた。好意的で有意義な話し合いだったと言えよう。

 ただアレストは若干の戸惑いも隠せなかったのだ。

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