第五話 恩義の存在
あっ! 炎の柱が立ってる。
一本二本三本……めっちゃ派手だし。
あれって絶対にローザの魔法だよな? エルフって凄い魔法使えるって言ってたし。
ちらっと見えた炎の柱に影が見えた。
「ちょ──────! ギレアスが飛んでる?」
ローザの魔法に巻き込まれて、何処かに飛んで行ったのは多分ギレアスだろう。
ま・・・・・・。あいつのことだ。多分問題ない……と思う? うん、頑丈だし。
ざっと三十個ほどの精霊石を使っての森喰い虫退治はローザの大活躍で恙無く終わったそうだ。
「アレス様! スッキリしました!!!」
若干、興奮気味のローザ。いやいや、キャラ変わってるから! スッキリってなんだよ? もしかして? 普段そんなにストレス溜まっているの?
と、そこに村人たちがやってきた。
「アレス様に感謝の礼をしたいと」
見ればみんな煤だらけで火事に遭ったみたいになっている。
僕の前に跪いて並ぶ村人たち。なかの一人が両手を差し出した。手のひらに乗せられた精霊石が見える。
はーっ……、大仕事を終わらせて疲れているんだから、ゆっくり休んでいたら良いのに律儀な人たちだ。
「貴重なものを私どものためにお使いいただきまして申し訳ございません。これは残った物です」
ひいふうみい……ふーむ。結構余ったな。ざっと半分くらいは残っている。
「構わないよ。て、言うか。返さなくても良いよ」
だよね、もともと使い古しの魔石だし。原価ゼロで労力と言えば僕の魔力だけだ、うん、エコだよね。欲しければまた作れば問題ないよ。
「残りは村で保管するなり、売るなり好きにして良いよ」
被害も出たようだし、次があればそこで使っても良い。
必要ないなら幾らかで売れれば少しは助かるだろし。
天然物じゃ無いから売れるかは知らないけど、魔石分くらいにはなると思う。
あれ? 使い古しの魔石って売れたっけ?
……。まあ、綺麗な石になったんでその分……売れると良いな。
なに? 全員目を見開いて驚いている。
えっ!? 何で! 本当にたいした物じゃ無いって! 廃物利用しただけですから。
あと幾つか残っていたのをローザに「全部あげるよ」って言ったのに遠慮してもじもじとしている。
それでも欲しかったのか赤い石一つだけこっそりとポケットに入れていたのを見つけたので、こっそりと様子を伺うと飛び上がらんばかりに喜んでいた。
※
「凄いなこれは……。ここまで見事だと買い手を捜すのは難しいぞ」
丹念にルーペで鑑定していたロイヤルドがそう言った。森喰い虫をおびき寄せた精霊石の残りを見せた言葉だ。彼は信用できる商人で、われわれの味方と言っても良い。
今回の被害は予想以上に大きかった。
村長として蓄えを残しているが微々たる物で到底まかなえる物では無い。
正直、アレス様から頂いた精霊石を現金に換えれればと思っていたのだが。
「ふむ、それほどの物なのか?」
机の上におかれた精霊石を眺めて唸った。
エルフ領から取れる精霊石は価値が高い。小指の先ほどでも金貨十枚は下らない程だ。しかしアレス様から頂いた精霊石はそれより二周りは大きかった。しかも魔石の様に形が揃っている。
加工したものなど目にしたのは、長く生きている私ても初めてだった。
「ああ、ここまで透明度の高いものはめったに出ない。私が見た中でも、一番だろう。エルフの秘宝と言っても良いくらいだ。オークションで買えるのは王族か一部の貴族でもかなりの資力が無いと無理だ」
その評価に身体が震えた。
「くくく……。エルフの秘宝を好きにすれば良いと」
この精霊石は、ローズウッド家に代々伝わる物なのだろう、アレス様は価値をご存知なのだろうか? ……いや。知らないはずは無い。
我ら亜人は忌み嫌われている。
元々人族とは違う種であることから下に見られ、あろうことか奴隷扱いまでされていた。
魔族の血を引く事から獣人とも分けられ、大陸では長いこと居場所が無かったのだ。
外見を見れば人族とそう違いは無いのに。
「この地に住まうことを許してくれただけでも格別のご配慮を受けているというのに」
定住の地を持たない我々は長く苦しんでいた。それを受け入れて頂いただけで無く。
「われわれ如きのために貴重な精霊石を与えて下さるとは……」
この恩は返さねばなるまい。
だが一生を尽くして……いや村人すべての命を掛けても返せるだろうか?
「ふふふ、返さねばなるまい」
決意に思わず声が出た。いや出したと言うべきか。身体から熱いものが迸った。隠居して余生を静かに過ごすだけと思っていたが、どうやら楽しみが出来たようだ。